第6話 姉の帰還

 ある日の昼休み、俺と進は生徒会室に呼び出された。


「今日は昼休み何すんだろうな?」

「昼休みと放課後に挨拶周りって言ってたぞ。」

「で、どうよ、この髪?」

「いいんじゃないか。生徒会ぽくはないけど」


 進は金髪をやめて、少し落ち着いた赤茶に染め直していた。

 髪の毛の色には制限はないが金髪にしてるのは進だけで変にヤンキー感が出るため副会長からちょっと髪色変えたら?と言われていたのだ。


 すると副会長が顔を見せ、進の髪の色に気が付く。

「お、染めたのか」

「すみれちゃんのご要望にお答えしたぞ。どう?惚れた?」

「な、ななんだ、私をか、からかうな!」

「ちぇ、すみれちゃんが喜んでくれると思ったのに」

「に、似合ってるよ。。それに元から惚れ・・ゴニョゴニョ」

 なんだよこれ、さっさと付き合えばいいのに、それにしてもあの隙も見せない副会長をここまでイジれるの会長と進しかいないだろな。


 会長、副会長、みこちゃんも揃う

「それでは行きましょうか」

 会長は背筋をシュッと伸ばし、先頭を歩き生徒会室から出ていく。

 先頭に会長、サイドには副会長と進、隠れるように後ろに俺とみこちゃんの布陣で廊下を歩く。

 真ん中を歩いていた、生徒たちは端っこに移動すると俺達の軍団を見ている。


 なんか、ドラマの大学病院教授の総回診みたいだな。なんちゃらの巨塔ってやつ。


 周りの生徒が目を輝かせ、男子生徒から「会長!」と女子生徒から「副会長!」の声援合戦、ちらほら「千渡くん、カッコいい、話しかけたいな」的なのも聞こえる。


 確かに端から見たら、青春ラブコメに出てくる、スクールカーストトップですよ感半端ない。

 進も世間一般で言えば、超イケメンだからな。


 何故、モブの俺がここにいるんだろうか・・・

 ふと、横を見ると顔を少し赤らめ、下を向いて歩いているみこちゃん。

 みこちゃんと目が合うと俺を見て少しはにかむ。

「な、なんか緊張するよね?」

「う、うん」

 やっぱり可愛いな。。みこちゃんも見つかったら一躍有名美少女書記として奉りあげられるんだろうな。。俺、ちょっとセンチメンタル。


 先頭の会長の足が止まった。

「まずはここよ」

「図書室?ところで会長、これはいったい何をしてるんですか?」

「新生徒会の挨拶周りよ、昼休みは各委員会を訪れて、放課後は各部活、少なくても私は投票で選ばれた、お礼はしておかないとね。それと生徒会へのスカウトも兼ねてね。」

「なるほど、でどんな人を探してるんですか?」

「会計よ。まだ新生徒会の活動的なものは無いけれども、いずれは生徒会運営のお金の管理や部活の活動費の承認だったりできる人が必要になるから」

「じゃあ数字に強い子とかですか?」

「そこまでじゃなくてもいいわ、お金管理がしっかりしてて、秘密厳守できて、裏がある子」

 まあ、裏がある子ってのが1番探すの大変そうだな。


 会長ら図書室に入ると受付にいる女性と話す。

 すると俺、進、みこちゃんをその女性の所に手招きする。

「羽川さん、この子達が新生徒会のメンバーよ」

「次期図書委員長の羽川愛子です。ライト、いや会長から色々と伺ってますよ」


 3人も自己紹介をし羽川さんに尋ねた。


「えーと会長のことわかるんですか? 」

「あー、知ってるわよ」

「図書室に私達のラノベと親交のある作家さんに頂いたライトノベルを献本してるのよ。もちろん頂いたラノベは読んで、了承をもらってからだけどね。だから羽川さんには教えているのよ」

「なるほど、やけにラノベ多いなと思いました」

 知らなかった、俺にはぴったりの場所じゃないか。でも昼休みも放課後も生徒会だからな。図書委員に入ればよかったかな。。。

「君が准くんだね。ライト先生から聞いてるわ。私が信用しているアドバイザーだって」

「ア、アドバイザー?」

「ちょ、ちょっと何言ってるのよ。と、とにかくこれから宜しくお願いするわ。つまりそ先生」

 つまりそ、、ん?今なんて言った?

 つまりそ先生?

 つまりそって、つまりそ先生?!

 なんだそのペンネーム。。

 いやそうじゃなくて、

「えーとつまりそ先生って『はに つまりそ』先生ですか?」

「そうよ、私が 『波二つまりそ』よ」

 いや、よくよく考えるとなんだよ波ニつまりそって、なんちゅう名前なんだよ。

「なんだよ、はにつまりそって、おもしれえ名前だな」

 進よ、思ってても声に出しちゃだめなんだよそこは。そういうところだぞ。


「つまりそって可愛いお名前ですね」

 みこちゃん、ホントにそう思ってんのか?


『波ニつまりそ』ライトノベル作家、漫画原作者、アニメ脚本家、ファンタスティック文庫大賞金賞作家。


 ライト先生よりも前からライトノベルを執筆していて、アニメ、ゲームシナリオ、漫画原作と一線で大活躍しているラノベ作家だ。

 いや、金賞獲って鮮烈なラノベデビューしたのが4年前だったぞ。ってことは中2?いや天才かよ。でもつまりそ先生の作品は少し厨ニが好む作品が多いからな、実際リアル中2だとは思わなかった。


「結構話しこんだな、今日は委員会回りはこれまでにしよう。あとは放課後に部活を回ろう」

「そういえば、副会長もつまりそ先生の作品の挿絵描いてましたよね?」

「ああ、つまりそ先生はエッチな挿絵が多くてな、随分苦労したよ。参考にって服を脱ぎだしたりな」

「はぅぅうう」

 また、みこちゃん真っ赤だ。


 つまりそ先生が生徒会に入らなかった、そして図書委員長になった理由は図書室を執筆部屋として使っていて静かな環境ということと、参考文献にすぐ手が届くこと、読みたい本を委員長の権限でほぼ自由に注文できるかららしい。

 めちゃくちゃ職権乱用だぞそれ。でもプロだなって感じもする。


 放課後も部活(文芸部以外)を周り挨拶をした。会長も副会長も文芸部はめんどくさいらしいので行かなかった。

 なんとなく想像はつくが。


「じゃあ僕はこれで、お疲れさまでした」


 帰ろうとすると、スマホが震えた。


 うん?姉ちゃんからだ。


(やっほー准弥、あのさー、学校の帰りに500ミリのハイボール二本となんかつまむの買ってきてくんない?後でお金払うからさ)


(いや、俺未成年なんですけども、ってか姉ちゃん帰ってきてるの?)


(帰って来たよ!どうした?寂しかった?帰ってきたらギュッてしてあげようか?)


(お断りします。とりあえずつまみだけは買ってくる)


(チータラだけは絶対!)


(なにその、痴漢ダメ絶対みたいなの)


(うふふ待ってるね)


「ふぅ」

「どうしたの准くん?」

「え、いや、2年前に旅に出た姉が帰って来たみたいで」

「准くんお姉ちゃんいるんだ」

「ええ、振り回されっぱなしなんですけどね」

「おー、まゆ姉帰ってきてんのか?そのうち遊びに行くって言っといてくれ」

「なんだ、進とも面識あるのか?」

「そうなんですよね、姉ちゃんと進は気が合うみたいで。進が懐いちゃって」

「まゆ姉には色々教わったしな、初めて触ったおっぱいもまゆ姉だったし」

「お、おっぱ!?ど、どういうことだ、お前の姉はち、痴女かなにかなのか?」

「いや、豪快な人というか、かぶき者というか、、はは、それではおつかれっす」


 凄い殺気を感じたので逃げるように生徒会室を出た。


 家に帰って来た俺は、リビングでTシャツパン一でソファーで横たわる姉を見る。

 まあ痴女って言われたら否定は辛い。

 なんかサガットのステージに出て来た背景の仏像みたいだな。


「ほい、つまみ」


 つまみやスナックの入ったコンビニ袋をテーブルの前にドスンと置いた。


「准ー!久々だな!元気やってたか?」

「まあ、元気ではいたけど」

「それじゃ、コンビニ行こ」

「えーつまみその時でよくね?」

「いーのいーの!ほら行くよ!」


 姉ちゃんはソファーの背もたれに引っ掛けてあってデニムを履き、俺の腕を引っ張り連れ出した。


 いや、なんか波乱が起きそうな気がしてならんのだが。














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