第4話 配信者

 進と共に生徒会に入ったが、まだ6月。

 実際のところは新生徒会にはまだ仕事があるわけではない。

 10月の文化祭が終わるまでは、現役の生徒会が仕切る。それまでの4ヶ月は引き継ぎ期間なのだ。

 この4ヶ月の間に会長、副会長が生徒会へ勧誘をし、生徒会委員を集めるわけだ。

 この学校は生徒会に限っては会長以外はスカウトで集めていくことが伝統である。


 なので、今のところ部活のようなものだ。

 放課後生徒会室に顔を出し、世間話をして帰るくらいのことしかすることがない。

 進と一緒に生徒会室に顔を出しに来た。

「すみれちゃん、こんちわーす」

「お、来たか。というか進、君は上級生にタメ口か、いい度胸だな」

「人類みな兄弟って言うじゃないか」

 進は子役時代の名残で芸能の先輩以外は年齢関係なくフランクに話すところがある。

 しかし、普段学校で貴族のような扱いを受けている副会長にとっては、それが少し嬉しそうに思える。

 まあ副会長が進に対して好意を寄せていることは俺も会長もわかっていることなのだが。


「あの、今日は会長は?」

「今日は執筆活動中だ。新作のプロットを練ってる。編集者と新作を出そうかという話になってな」

「新作ですか!それは楽しみです」

 一番身近な左ライトファンであるだろう俺は期待の目を煌めかせた。


「それにしても、この生徒会室使わせてもらうの早くないか?まだ旧生徒会が活動してるのに」

 進は俺も同じ事を思っていた疑問をしおりに投げかけた。


「ああ、それなら問題ない、どうぞ使ってくれと使わせてもらっている。元々生徒会室の使用引き継ぎは早い。昔からだ」

「昔からですか?でも使う理由が無ければ、生徒会からしたら文化祭の準備もあるでしょうし」

「使う理由か。そうだなはそうだろうな」

「普通は」

「そうだな、見てもらうほうが早いな」

 そう言うと生徒会長の右隣にある扉に向かう。

「ん、倉庫?」

 扉を開けるとエンジのジャージ上下を着て眼鏡をかけ机に伏している会長の姿があった。

 机の回りにはエナジードリンクの缶が並んでいる。


「会長、どうだ?」

「すみれちゃん、何にも降ってこない。。助けて」

「はぁ。とりあえず外の空気でも吸って来たらどうですか。准も来てますし、少し彼と話してみてはどうですか?」

「准くんが何だって」

 顔をあげた会長と目が合う。

「え、ちょ、ちょっと、何で先にそれを言わないのよ!」

 会長か真っ赤だ。

「全然おかしくないですよ、その方がそりゃ楽ですよね。普段はそんな感じで執筆してるんですね」

「まあその、そうね」

「勝負服ってや、」

「違うわ」

 俺の言葉を即効で否定してきた。

「勝負服って言うのはほら、気になってる子とデートとか、そ、そういう時に着るものよ」

「良いなー、羨ましいです。会長が勝負服を着るまでの人か」

 進とすみれは声を合わせ、

「はぁ、鈍感」と呟く。


「ここは生徒会委員室という名の作業場だ。会長や私もここで、執筆したりしているんだ。ここを私達はアトリエと呼んでいる」


「へぇ。なるほどな生徒会が裏で活躍する著名人の多い理由がそれなのか」


「そういうことだ、前生徒会面々もほとんどそういう人達だ。後に超有名映画監督、脚本家、漫画家、皆が知っている活躍している人達を輩出している」


「思ったんですけど、ここの学校マンモス校なのに文化部的なの少ないですよね?」

「まあそうだな。文化部が少ないからここがアトリエになってるところはあるな」

「ええ、会長なら文芸部、副会長なら美術部とか入ったりしなかったんですか?」

「一応あるのはあるんだが」

 進はわかったのか、分かりやすく答えた。

「まー、あれだレベルが合わないんだろ?きっと。それと会長やすみれちゃんみたいなのが部にいると、正体もバレるし」

「それに文芸部には天敵がいる」

「天敵?なんか物騒ですね」

矢埜やのアイネって知っているか?」

「えーとライト先生とPVランキング1位争っている?」

「そう、その矢埜アイネこそが文芸部部長の矢野愛佳だ」

「え!?そうなんですか。」

「部員達も矢埜信者みたいなもんだ、そりゃライバルでもある会長がいるのはおかしいだろ?」

「確かに手の内を見せることにもなりかねませんね」

「そういうことだ。私達は矢埜の正体を知ってるが、あっちは我々が左ライトとばいおれだとは思ってもいないだろう」

「なるほどなー。でもそれって」

 俺は進と声を合わせてこう言った。

「それってずるくね?」

 いや、だって生徒会が部活存続権を握っていて、しかもそれがライバルってわけだからな。

「まあだから文芸部に関しては基本自由にさせている。会長もライバルがいて切磋琢磨するほうが良いものが書けるからな」


 あっやべ。。忘れてた。

 ふと思い出しだした。

 今日はファンタジーアクションRPGゲーム「ダークスワロフスキー」の発売日だった。

 色々あって予約できていない、限定版売り切れてなければ良いが。


「あっちょっと用事思い出したので、僕帰りますね。」

「おー、急だな、今日は書記を紹介しようと思ったんだが、あの子も急いで帰っていったな何かあるのか?」

「ちょっとゲームの発売日で」

「あーなるほどな」

 副会長は何か納得したようだ。

「それでは失礼します」


 学校を後にし街のゲームやCDも扱っている大型書店に向かった。

 店に入るやいなやレジにゲームの在庫確認をする。

「すいませんダークスワロフスキーまだありますか?」

「通常版が一枚、限定版が一枚ございます」

 あぶねぇ、限定版残ってた。

「それじゃ限定版下さい」

「かしこまりました」


 購入できた品を鞄に納め、ほっとした気分で書籍コーナーを見渡す。

 棚の側面に貼られたラノベの新刊発売日表に目を通していた。


 すると書店のドアが開きすぐに女子高生らしき少女がレジに直行しているのが見えた。


 ん?うちの学校の制服だな。


「す、すいません、あの、ダークスワロフスキーありますか?」

「通常版ならございますが」

「あ、そ、それく、下さい」

 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で店員に答えた。


 それにしてもダクスワとかやらなさそうな感じなのだが。ん?てかあれ、同じクラスの三島さんじゃん。


 教室では大人しく端の席で読書をしている、ボッチな女の子。

 それにダクスワとは、気がめちゃくちゃ合いそうだな。


 三島さんはレジを済ませそのまま出口に向かった。

 自動ドアが開くといかにも雑魚キャラみたいな悪の集団みたいな三人組とすれ違う。

「ここにも無かったらどうするよ」

「どうしよもねーだろう、でもあの人怒らせたらどうなるか俺たちもわからねえ」


 いや、一体なに探しにきたんだよ。

 レジカウンターからドン!と大きい音がして、そっちに目を向ける。

「なんだとぉ!」

「す、すいませんつい先ほど売れてしまいまして」

 レジにいた店員と目が合う

 いやいや、やだよ。。そんな助けを求める目で訴えるのやめてよ。

 あ、だからレジドンしてたのか。

「さっきってことは、すれ違った女子高生じゃねえのか?」

「そうか今なら追い付くかもしれん、急ぐぞ」


 あれ、なんかややこしそうなことになってないか?

 めんどくせえことが起こってるな、嫌なタイミングを見ちまった。

 こりゃ変なことに巻き込まれたな。

 でもほっておくわけにいかんだろ。とりあえず様子見に行くか。


 ふぅ、とため息をつき店の外に出る。

「どこに行ったのか。」

 周りを見渡しても、いないな。

 暫くすると声が聞こえた。

「頼むお願いだ。」

「こ、困ります、弟のた、誕生日プレゼントなんです。」

「そこをなんとか。」

 繁華街の裏路地、言い争う女子高生と悪人顔

 良くあるヒロイン救出イベント発生みたいな感じだが、なんだかやり取りを聞いてるとそうでも無さそうだ。


「仕方ないか」

 そうつぶやき。

 悪人顔に囲まれている三島さんの所に向かった。


「すいません。何かあったんですか?」

「あ!なんだキサマ」

「いやクラスメイトが揉めてるようだったので」

「いや、そうじゃない俺はボスに頼まれたダークスワロフスキーのゲームの限定版をだな。」

「え?か、樫木くん?」

「事情はわかりましたが、大の男がか弱き女子高生囲んでたら、そりゃ怖がりますよ。」

「え?あっ悪い、悪かったそ、そうだよな」

 意外と物分かりが良い人達だな。

「私がも、持ってるのはつ、通常版です」

「え!そうなのか、す、すまん本当に申し訳なかった」

 あーしかたねえか。この事態を終息させるのはこの手しかねーか。

 俺は鞄から買いたてのダクスワ限定版を出した。

「これ、お譲りしますよ」

「これは!?、ほんとに良いのか?」

「ええだから、三島さんに圧をかけるの止めてあげてください。」

「ほんとにありがとう、助かった」

 代金と引き換えにダクスワ限定版を男に渡す。

 あっそうだと思い出したのか、男は俺にステッカーを渡した。

「赤き竜の群れ《ドラグーン》」

 なんだ、この厨二感、丸出しなチーム名は。

「何かあれば、このステッカーにある電話番号にかけてくれ、お礼もしたいからな。」

「わかりました。」

 いや、律儀に電話番号載っけるかふつう。


 男達が去り三島さんに近づく。

「大丈夫だった?」

 目を潤わせている三島さん。

 いや、か可愛い。。

 地味な印象が強いがとてつもなく美少女だ、守ってあげたいタイプ。

「あの、そのありがとうございました。で、でも貴重なゲームを」

「いや、良いんだよ三島さんが無事なら。それに弟さんの誕生日なんでしょ?弟さんもきっと喜ぶね。」

「いや、そのそれは、、」

「気をつけて帰りなよ。んじゃ俺帰るね」

 俺は三島さんに背を向け帰っていく。

「あの!あ、ありがとうございました」


 准弥の背中を見つめる、少女の顔は少し赤くなっていた。


「ふぅ」

 深いため息をつき私は自室へと帰って来た。

 私は三島みこ

 樫木准弥くん、最近生徒会に入ってきたクラスメイト。

 生徒会に入った意味も理解できた。

 だって優しくて、それに格好良かった。

 と、私は今日あった出来事を思い出しベッドにダイブし悶える。

 いかんいかん私、今ちょっと気持ち悪い。


 ムクッと立ち上がり自分の頬をを叩く。

「さて、始めるかな」


 パソコンの電源を入れ。

 買ったばかりのダクスワをゲームに取り込んだ。


 画面にはゲーム画面とアバター。

 配信開始をクリックする。


「おはよー!!みぃーこだよー!!今日は買いたてのホヤホヤのダクスワ実況するよー!」


 三島みこ、高校1年

 生徒会書記担当


 裏稼業 人気ゲーム実況Vtuber 『星屑ほしくずみぃーこ』




































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