こたつと柚
買い出しが終わり、夕飯を食べ終えた俺達は就寝時間までの時間を過ごしていた。
柚はお風呂に入っており、俺はこたつでゴロゴロ────したかったのだが、残念ながらやらなければならない事があるので、パソコンを立ち上げて画面と睨めっこ。
これが終わったら柚が終わらせた問題集の採点────まぁ、これに至っては今日直ぐにやる訳ではないから別にいいんだけど。
逆に早く柚に渡したら「もう少しゆっくりでいいって言ったじゃないですか!」って怒られてしまう。
うん、絶対に言う。つい最近言われたばかりなんだもん。
「新太さん新太さん」
不意に後ろから声をかけられる。
モコモコの水色の寝間着。ほんのりと蒸気が上がった顔が赤く染まっており、何処か色っぽい。
そんな彼女が俺の後ろからパソコンの画面を覗き込んできた。
ほのかに香るシャンプーが意識を引っ張ってくる。今、横を向いてしまえば風呂上がりの柚の顔が眼前に迫ってしまうだろう。
「……どうした、柚?」
だから必死に視線を柚に向けないように、画面を意識する。
「いえ、何をしているのか気になってしまいまして」
そう言って、柚は俺の隣に腰を下ろしてこたつの中へと潜り込んできた。
「その前に、何故俺の隣に座る? 狭いじゃん、普通に狭くない?」
「だって、こっちに座らないと新太さんが何をしているか見えないではありませんか」
「……見る必要、ある?」
「ふふっ、ないかもしれませんが私の好奇心は隣に座って見ろって言っています」
随分具体的な指示を出す好奇心だ。
年頃の女の子が異性に対して無防備という辺りは考慮してくれないのだろうか?
「……俺の理性、頑張って」
別に見て欲しくない訳じゃないが、隣に座る事によって余計にも意識してしまう。
故に、どうにか俺の理性には頑張って欲しいところだ。
「迷惑なら場所を変えますけど……」
「迷惑じゃないけど、俺の隣に座る事に危機感を覚えて欲しい。俺も男だし、異性としての距離を見直して欲しいと話を投げさせてもらおう」
些か、今の状況はあまり宜しくない。
対面のこたつ空いて側面両方の席も空いている。にも関わらず、一人しか入れそうにない場所に柚は潜り込んできた。
無論、入れはするが極度に密着してしまう。
俺も男。
女の子が近くにいればそれなりに意識してしまうし、柚はとびっきりの美少女さんだ。
その意識は段違いだし、風呂上がりの彼女の姿がそれを向上させてくる。
「ふふっ、私は子供なんですよね? でしたら、問題ないと思いますけど?」
柚が顔を逸らす俺に向かっていたずらっぽい笑みを向けてくる。
「……も、もちろんだ」
「では、問題ありませんね!」
何故だろうか? 大人なんだから大丈夫だろうと挑発されたような気がする。
それを持ち出されてしまえば、大人に踏み込んでいる身としては背伸びせざるをおえない。
(これで手を出しちゃいけないって……何の拷問だ、こりゃ……)
別にこれぐらいのスキンシップだったらよく見かけるさ。
イケイケな女の子だったら、それこそ夜のお店に誘われた時なんかはよく見かける。
だけど、相手は柚だ。
そんな女の子とは違う。
ちょっと好意を向けられているのでは? そんな気がしてならない。
……まぁ、勘違いだと思うが、このまま俺の理性は持つだろうか?
預かっている身としても大人としても未成年には手が出せない。
(……辛い)
密かに泣きそうになってしまう。
「それで、新太さんは何をしているのですか?」
そんな俺を他所に、柚は興味の視線をパソコンに注いでくる。
意識を逸らすためには話に乗っていた方が懸命なのかもしれない。
「単に副業だよ。ほら、アフィリエイトって聞いた事ないか?」
「聞いた事ありますね……どんなものかは知らないんですけど」
「まぁ、高校の時は知らないやつが殆どだよ。俺も、社会人になってから知ったからな」
逆に知っていたら驚きである。
そんなに金を稼ぎたいか若者よ。
「本当はアフィにも色んな種類があるんだが、俺の場合は広告媒体に記事を書いて商品の購入に促しているような感じだな。そんで、一つ売れる度に報酬として金を貰っている」
「理解できるようなできないような……?」
柚が首を傾げる。
その姿が年相応の女の子のようで可愛らしかった……いや、本当に可愛い。
(なんか最近、柚が可愛く思えてきて仕方ないんだよな……)
些細な仕草でもどんな時でも、前から可愛いとは思っていたが、どんどん可愛く思えてしまう。
……保護者が板についてきただろうか? いや、完全に俺が意識────
(いかん、これ以上は考えるのをやめよう……)
これ以上考えたらいけない沼に嵌ってしまいそうだからな。
大人は未成年には手が出せない。それは肝に銘じておかなくては。
「単純に何処かの商品を売るのを手伝っているだけだな。それに応じて俺は金を貰っている────その程度で考えてくれればいいさ」
「なるほど……」
「ちなみに、たまに化粧品とか美容商材とかも扱うからサンプルがあるんだ────今度使ってみるか?」
「いいんですか!?」
「男の俺が使ってもなんだしなぁ……できたら、使った後の感想とか聞かせてくれたら嬉しい」
「やります! やらせてください!」
食い付きが凄いなぁ。
やっぱり、女の子はこういった関連では多大なる興味を惹くようだ。
……これは、美容系の商材も増やした方がいいかもな。
柚が喜ぶし、感想も聞けるから一石二鳥。柚、喜ぶし。
確か、まだ化粧水の商材が残っていたような……後で柚に渡そう。
「でも凄いですね新太さんは……お仕事が沢山で働き者です」
「単に金が欲しいだけだ。あった方が将来困らないしなぁ……」
早いかもしれないが、将来も見据えておきたい。
どうせ、色々と出費が重なる人生なんだ。少しでも余裕を保っていた方がいいだろう。
「ほら、結婚資金に養育費、マイホーム……あれ? 結構頑張らないといけない感じ? 全然足りなくない?」
「ふふっ、そうですね……頑張らないといけませんね」
何故か横から同意の声が。
他人事のように言っているが、柚も将来はこんな事を考える事になるんだぞ?
「そういえば、今日のくじ引きでもらった水族館のチケットなんだが────」
「では、今週のお休みの時に行きましょう。えぇ、そうしましょう!」
「友達と行かない感じ? 俺でいいの?」
「新太さんとがいいです」
「ほら、誘いたい男の子とか────」
「新太さんがいいです」
そう言って、柚は真剣な顔で俺を見つめてくる。
…………まぁ、俺でもいいんだけどさ。
(本当に、最近は好意がヒシヒシと伝わってくるんだよなぁ……)
それは異性としてか家族としてか、親しい人間としてか。
残念ながら、そこまでは分からなかった。
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