第26話 進撃のゴーレム③
ゴゴゴ、という地ひびきは、やがてガラガラゴロゴロと音を変えていった。そして、音がする方角を見ている五人の目の前に、超巨大ゴーレムが出現した。この超巨大ゴーレムは、先ほどまで地面をはいずり回っていたゴーレムたちが合体し、巨大化したものであった。
全長は約十メートル。大型のゴーレムの実に二倍の大きさがあった。
「じょ、じょうだんだろ……」
その巨体に、さすがのアームストロングも、顔が引きつっている。アームストロングだけではない。他の宮廷特殊探偵団たちも顔色を悪くしていた。
「と、とにかく、破壊するしかない! みんな、足をねらうんだ。一本でも破壊すれば、あの大きさなら身動きがとれなくなるはずだ」
みんなの動きが止まったことに気がついたレオナルドは、そう鼓舞した。
「そ、そうですね、殿下。足の一本、何としてでも破壊しましょう」
モーゼスの合図で、魔法が同時に打ちこまれた。ついでにクリストフの爆発物も投げこまれている。
大きな音の後に、衝撃波がビリビリと伝わってきた。土埃が落ち着くと、片足を失い、バランスをくずしてひざをついた、巨大ゴーレムの姿があった。
「や、やった……!?」
レオナルドが勝ちどきを上げようとしたそのとき、おどろくべきことが起こった。
なんと、その辺りに散らばっていた石ころが、まるで一つ一つが意志を持っているかのように、ゴーレムの失われた足の部分に集まり始めたのだ。
そしてみるみるうちに、ゴーレムの足が形成された。最初にあった足よりかは、小さい石によって作られていたが、動くことには問題なさそうだった。
「ま、まさか、そんな……」
クリストフが絶望を帯びた声を発した。その声はまるで、悲劇のヒロインのようであった。
ゴーレムの一部を破壊することができても、また元にもどってしまう。そうなれば、先に力つきてしまうのはこちらだろう。
それ以前に、長い時間戦っていたため、全員がつかれを見せ始めていた。
「どうやら、ゴーレムの核を壊さなければならないみたいですな」
モーゼスは言った。当初の予定では、ゴーレムを動けなくしてから、核を探し、破壊するつもりであった。
基本的にゴーレムには、その動きを制御している核となる部分が存在する。人間で言うところの心臓に当たるその部分を破壊すれば、ゴーレムは元の岩石にもどるのだ。
「それで、どうやってその核を見つけるんですかい?」
モーゼスには頭が上がらないアームストロングが、なるべく丁寧な口調でたずねる。四人はモーゼスの答えを待った。しかし、モーゼスは答えなかった。
「まさか、分かんないの!?」
えええ! とクリストフが悲鳴を上げる。絶望的な状況になりつつあった。とにかくいまは、少しでもゴーレムの進撃を止めるしかない。そのように判断した五人は、攻撃を再開した。
しかし、いくら壊しても、ほぼ元通りになるゴーレムに、疲労の色がこくなってきていた。
そのとき、アームストロングが何かに気がついた。
「おい、コイツの額に何か文字が書いてあるぞ?」
服はドロだらけであったが、いまだに大きなダメージを負っていないアームストロング。そんな彼は、五人の中でも、特にゴーレムに近い位置で戦っていた。そんなアームストロングだからこそ、見つけることができたと言えよう。
「アームストロング、どんなことが書かれているんだ!」
魔法でゴーレムを牽制しながら、レオナルドが聞いた。もしかしたら、何かこのゴーレムをたおすヒントになるかも知れない。
「それが、どうも古い文字みたいで、サッパリ分からないですね。見たこともない文字です」
ゴーレムの拳をかわしながら、言った。アームストロングは決して頭が悪いわけではない。それなりに知識はあるのだ。そんなアームストロングが分からない文字だとすれば、本当に古い時代の文字なのだろう。
ゴーレムをたおすヒントにはなりそうにない。アームストロングの言葉に、ガッカリする四人。しかし、ダニエラはピンときた。
カビルンバが「オーロラや、月が増えた現象が、古代の魔法によるものだ」と言ったときに、古代のおとぎ話について、あらためて調べていたのだ。
そのおとぎ話のくだりで、ゴーレムのようなものの話があったのを、思い出したのだ。
「レオ様、古代のおとぎ話に、ガーディアンのお話がありましたわ」
「ガーディアン?」
「はい。いま思えば、そのガーディアンとは、ゴーレムのことだと思うのです。そして、そのガーディアンには、額の部分に文字がほられてありましたわ」
ダニエラの言葉に、その場にいた全員が耳をかたむける。ダニエラがおかしなことを言う人物でないことを、ここにいるだれもが知っている。
「そのおとぎ話には何て書いてあったんだい?」
「くわしいお話は省略しますが、制御が効かなくなったガーディアンを壊すために、額の最初の一文字をけずり取ったのです」
なるほど、とダニエラをのぞく四人は、顔を見合わせた。
「よし、その作戦でいくぞ。ダニエラ、何か注意点はあるか?」
「はい。どうやら、正確に最初の一文字だけをけずり取る必要があるみたいです。何でも、その一文字をけずることで、残りの文字が、「ガーディアンにとっての死を意味する言葉」になるそうなのです」
「正確に一文字だけをけずる……中々大変なミッションになりそうですな」
モーゼスがあごに手を当てて考えこんだ。もしまちがってちがう文字まで消してしまえば、ガーディアンをたおすことが不可能になるだろう。この作戦は必ず成功させなくてはならない。
モーゼスが口を開くよりも先に、ダニエラが口を開いた。
「モーゼス様、確かモーゼス様は土属性の魔法が得意でしたわよね?」
「ん? ああ、そうだが……?」
フムフム、とうなずくダニエラ。どうやら何か考えがあるようだと察知したモーゼスは、次の言葉を待った。
「それではモーゼスは土魔法で右足を、レオ様は氷魔法で左足を、それぞれ動かないように拘束して下さいませ」
レオナルドとモーゼスがうなずく。それを確認したダニエラは、アームストロングとクリストフの方に、向きなおった。
「アームストロング様は右うで、クリストフ様は左うでを破壊して下さい。一時的でも両うでがなくなれば、額の部分が丸出しになりますわ。そこに私が、風魔法で頭文字だけを一気にけずり取りますわ!」
ダニエラが力強くうけ負った。そんな自信に満ちあふれたダニエラの顔に、四人はうなずき返した。
「よーし、それじゃ、いっちょやるかね。散々破壊してきたんで、都合が良いことに、うでを作っているのは小石ばかりだ。もう一回破壊するくらい、楽勝だな!」
「そうだね。あれだけスキマだらけになっていたら、ダイナマイトを仕かけ放題だよ」
こちらに向かってくるガーディアンに、いつでも攻撃ができる体勢を、二人はとった。
「それでは殿下、ダニエラ様、準備はよろしいですかな?」
「任せておけ」
「いつでも大丈夫ですわ」
二人の返事にうなずくと、モーゼスは指示を出した。
「私と殿下が足を拘束したのを確認したら、両うでへの攻撃を開始してくれ。失敗は許されんからな」
「任せて下さい。オレは戦闘のプロですよ」
「大丈夫。どんなものでも爆発させるのが、ボクの特技だからね」
感心できるような言葉ではなかったが、いまは頼りにするしかない。
「それでは行きますぞ!」
モーゼスの合図で、二人は同時に魔法を使った。
「土壁(アースウォール)!」
「氷壁(アイスウォール)!」
巨大な岩と氷がガーディアンの足下に出現し、ガッチリとその足をかかえこんだ。ガーディアンはそれを力でふりほどこうとしたが、壊れる気配はなかった。
「いまだ!」
レオナルドの言葉に、アームストロングとクリストフが走った。
アームストロングは残りの魔力をふりしぼり、拳の一点に魔法を集中させた。回避を捨てた、捨て身の一撃である。
「どんな硬さのものだろうが、つらぬく! 止めてみやがれ!」
アームストロングの拳は、ガーディアンの太い右うでを簡単につらぬいた。それはまるで、豆腐をなぐったかのようであった。おそるべき威力である。
反対側のうでは、クリストフがシマリスのような素早い動きで、ダイナマイトを仕かけ終わっていた。最後に魔力の導火線を確認すると、サッとその場からはなれた。
そして火魔法で導火線に火をつけた。
「やっぱり爆発こそが、芸術だよね~」
直後、轟音を立てて、左うでがバラバラにふき飛んだ。
ガーディアンの額があらわになった。そこにはアームストロングが言っていたように、文字がいくつか刻まれている。
ダニエラは魔力を集中させた。ガーディアンの額の文字までの距離は約二十五メートル。そこにあるティッシュケースほどの文字を、正確にけずらなくてはならないのだ。
魔力と共に、魔法も集中させる。
「風の刃(ウインドカッター)!」
ダニエラの声に応えて、きりもみ回転する一陣の風が、一直線にガーディアンの額へと向かって行った。その行く末を、残りの四人は固唾を飲んで見守っている。
風の魔法は見事に額に命中した。ガーディアンの頭が、その衝撃で後ろにのけぞる。
そしてそのまま、ガーディアンはあお向けにたおれていった。
正確に頭文字だけをけずり取られたガーディアンは、古のおとぎ話と同様にたおされたのであった。
バラバラになってゆくガーディアンを見つめる五人。元通りにならないことを確認すると、歓声を上げた。
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