第25話 進撃のゴーレム②
王都の西門には多くの兵士がかけつけており、ごった返していた。あちらこちらから、大きな声が上がっている。
「ミタ! こっちだ! 状況はどうなっている?」
「で、殿下!? なぜここに?」
「細かい話はあとだ。現状を報告してくれ!」
困惑したミタであったが、そのうしろにモーゼスがいるのを見て、殿下がむりやりついてきたことを察知した。そして、殿下にゴーレムが西門に襲来していることを言えば、まちがいなく、ついてくると言うに決まっているなと、なっとくした。
「まだ西門まではたどり着いておりません。しかし、かなりの数が、次々とこちらへ向かって来ているそうです。大きなゴーレムは三メートルをこえていると、報告がきています。小さなゴーレムは五十センチ程度。小さなゴーレムなら、兵士たちでも何とかできるみたいですが、大きなゴーレムは、魔法を使わないと対抗できない状況です」
魔法を使える者はそれなりにいるのだが、強力な魔法が使える者はそれほど多くはいなかった。強力な魔法が使える、ダニエラ、レオナルド、モーゼスは、まさにうってつけの人物だった。
「それでは、殿下、ダニエラ嬢、前線へと参りましょう。言うまでもないですが、我々は大きなゴーレムを相手にすることになります。十分にお気をつけ下さい」
モーゼスの真剣な言葉に、表情をかたくしながら二人はうなずいた。
三人は西門から、ボルガノ山の方角へと進んだ。道には多くの兵士がいたため、道に迷うことはなかった。
とうぜんのことながら、こんな危険な場所に現れた殿下に、多くの兵士たちがおどろいた。しかし、そんなことをまったく気にすることもなく、先へ先へと急いだ。
道の左右にはゴロゴロとした岩が無造作に転がっている。どれもたったいまそこに置かれたように、岩の下にはおしつぶされた草花が見えた。
しばらくすると、動いているゴーレムが、ちらほらと周りに見えるようになってきた。小型のゴーレムは、兵士たちが数人がかりで相手をしてる。その手には、岩を砕きやすいように、ハンマーを手にしている。
それを持っていない兵士たちは、丈夫なロープをゴーレムに引っかけて、ひっくり返していた。
こうしておけば、重くて動きがおそいゴーレムは、しばらくのあいだ身動きが取れなくなり、無効化することができるのだ。そのあいだに、ハンマー持ちがゴーレムを砕いてゆく。
見たところ、一度でも砕かれてしまえば、また元にもどる、ということはないようである。体の一部を砕かれたゴーレムが歩いているのを、見ることができた。
どうやら、小型のゴーレムの方が足が速いようである。先に小型のゴーレムが王都の近くまでやってきて、そのうしろに中型のゴーレム。そして大型のゴーレムが、最後に続いているようである。
小型のゴーレムはそのまま兵士たちに任せ、先を急いだ。ずいぶんと進んだ先で、ようやく先行していた、宮廷特殊探偵団のメンバーを見つけることができた。
どうやら率先して、中型のゴーレムと戦っているようである。
「オラオラー!」
拳でゴーレムを砕いているのは、十三賢者の一人、脳筋のアームストロングだった。自身の体に身体能力強化の魔法を使い、鋼の肉体に変えて、ゴーレムを粉砕しているようである。動きのおそいゴーレムは、アームストロングの拳をよけることはできない。ただの良い的である。
「アームストロング様、ずいぶんと楽しそうですわね」
「前回の敗北が、よほどくやしかったのだろう。あのあと、素早さを上げるためなのか何なのか分からないが、手足に重りをつけてトレーニングしていたぞ」
ダニエラのありのままな感想に、レオナルドが遠い目をして答えた。実はレオナルドは、アームストロングから、「殿下もいっしょにどうですか?」とさそわれていたのだった。
ダニエラから、「体をきたえるなら、騎士団長のジークフリートに教えてもらうように」とキツく言われていたので、レオナルドは断っていた。
しかし、アームストロングはあきらめが悪く、何度も何度もさそってきたのだ。
そのことを思い出して、レオナルドはウンザリとした表情になった。
「それでは、我々も中型のゴーレムをたおしに行きましょう――」
モーゼスが行動を開始しようかとした、そのとき。大きな爆発音が聞こえてきた。それも、一度ではなく、二度三度。音がした方角を見ると、白い煙がモクモクと上がっている。
魔法ではなく、何か爆発物が投げこまれたようである。
「あ! 殿下だー!」
白い煙の中から、一人の男の娘が現れた。クリストフである。相変わらずの、スパッツにミニスカートという服装である。
そんなクリストフは、ダイナマイトを手に持ちながら、笑顔でレオナルドの方へと近づいてきた。見た目はどこからどう見ても可憐な少女であったが、男の上に、手には爆発物を持っていた。
彼は十三賢者の一人、発破のクリストフ。どんなものでも爆発させることに興味を持っている、ある意味、ヤバいやつであった。しかしその一方で、爆発物に関しての知識は豊富である。
「ちょ、クリストフ、こっちに来るな! 危ないだろうが、向こうに行ってろ!」
身の危険を感じたレオナルドはあわててにげ出した。しかしそこには、すでにゴーレムたちが集まりつつあった。
「フム、この辺りからは、中型のゴーレムしかいないようですね。ゴーレムの下半身を破壊して下さい。そうすれば、ゴーレムの動きを封じこめることができます」
これまでの状況から、ゴーレムは再生しない、動きがおそい、とても重いことが分かっている。ゴーレムの体をすべて破壊しなくても、身動きさえ取れなくすれば、あとはゆっくりと処理できる、とモーゼスは判断したようである。
「分かりましたわ。さあ、行きましょう、レオ様!」
「え? あ、ああ、うん……」
ライバルのクリストフが現れたことで、ダニエラの警戒レベルが上がった。いつもであれば、人前では絶対に口にしない「レオナルド」の名前を、なりふり構わず口にするぐらいには、レベルが上がっていた。
クリストフのことを意識するつもりなど、まったくないレオナルドは、ダニエラの名前呼びをうれしいと思いながらも、どこか複雑な気持ちでいた。
三人が加わったことで、中型のゴーレムの処理もかなり速くなってきた。みるみるうちに、ゴーレムの数が減ってゆく。
「ガハハ! 最高だな。これで終わりか?」
調子にのったアームストロングが不吉なことを口走った。それを華麗にスルーしながらもい、どうか変なフラグが立ちませんようにと、その場にいた全員が思った。
クリストフはダイナマイトを次々とゴーレムの尻にさし、爆破していった。その動きは、まるで水が流れるかのようにスムーズであった。
ケツダイナマイトされたゴーレムは、わずかに残った上半身で、地面をはっていた。
そうこうしているうちに、どうやら、最後尾にいた大型のゴーレムが、この辺りにまで追いついてきたようである。
先ほどまで相手にしていたゴーレムは、大きくても二メートルくらい。しかし、いま見えている範囲には、ゆうに三メートル以上の大きさのゴーレムが、何体かいた。
大型のゴーレムを作るには、巨大な岩が必要だ。どうやらボルガノ山には、それほど大きな岩はなかったようである。
その数は少なく、見たところ十数体程度であった。
「残りはあのゴーレムたちだけみたいですわね」
「そうみたいだな。最後まで、油断せずに行こう」
ダニエラとレオナルドは終始いっしょに行動していた。始めこそ、モーゼスが二人に危険がないか警戒していたが、その心配はなかった。
お互いがお互いをサポートしあい、まったく危なげがなかった。
「そろそろオレたちの魔力も無くなってきたぜ。この辺りで終わりにしてほしいところだな」
脳筋アームストロングにもつかれが見え始めていた。それもそのはず。ダニエラたちが来る前から戦っているのだから。
「ボクのお花たちも、もうあんまり残ってないよ」
クリストフが言った。クリストフが言う「お花」とは、もちろん爆発物のことである。可愛らしい比喩表現ではあるが、その意味はとんでもないものだった。
「フム、それでは我々が中心になって、戦うことにしましょう」
ダニエラとレオナルドの実力を認めたモーゼスは、二人を見るとそう言った。
これは二人に及第点をあたえたということである。その言葉にレオナルドはニヤリとしたが、ダニエラは表情を変えなかった。
実はダニエラは、自分の実力の半分も出していなかった。ダニエラは生まれながらにして、一般人とは異質の力を持っていた。そのことを知っているのは、ダニエラとカビルンバだけである。そしてその力のことを、だれにも言うつもりはなかった。
中型のゴーレムは、アームストロングとクリストフに任せることにした。そして三人は、おくからこちら側へと、ノッシノッシとやってくる、大型のゴーレムたちと向かい合った。たおし方はこれまでと同じ、両足を破壊し、行動不能にすること。
三人はそれぞれ魔力を集中し、次々と大型のゴーレムの足をこわして回った。
それから間もなくして、十数体いた大型のゴーレムは、すべて行動不能になっていた。
「ふう、終わりましたな。これであとは、ゆっくりとゴーレムの核となる部分を破壊するだけですな」
中型のゴーレムの破壊も完了したようで、アームストロングとクリストフもこちらへとやってきた。服はよごれてはいるものの、ケガなどはしていない様子である。
そこにいた全員が顔を見合わせたとき、ゴゴゴ、という不気味な音が近くで鳴りひびいた。
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