第7話私の親友が優しい件について

 食堂で平泉と須賀が間違った勘違いをしてから数時間後。時刻は3時30。放課後の時間になっていた。今まで自分がすべての人間から愛されてきたと本気で思っている痛い男子生徒こと須賀は、平泉の発言でそのいたさに拍車をかけていた。

 授業中に話しかけるのはもちろんのこと、休み時間も聞かされた方は身の毛もよだつような恥ずかしく痛いセリフを連発して長野を落としにかかっていた。

 だがこんなことをいくらしたところで長野の気持ちが変わることはなく、むしろこのままいけば須賀が物理的(暴力的な意味で)に長野に落とされるかもしれない。

 まだ新学期が始まって初日のはずなのにここまで好感度を下げることができるなんて、逆に一種の才能なのかもしれない。

 現に長野の須賀に対する気持ちは、親の仇と言わんばかりの嫌悪感で満たされている。このままの状態では、長野が殺人犯になるのも時間の問題かもしれない。

 そんな彼女の気持ちを一ミリも理解していない脳内御花畑の二人は、長野の元へ行き長野の本当の気持ちを知る計画を練る。


「よしじゃあ私が奈々に、須賀くんのことどう思ってるか聞いてくるから須賀くんはここで待ってて」


 帰りのホームルームが終わった放課後の時間。平泉は長野が本当に須賀に対して行為を抱いているのか直接確かめるべく、誰もいない空き教室にて長野を問い詰める計画を立てていた。そしてその近くの声がギリギリ聞こえる範囲に、須賀は待ち伏せていた。


「ねぇのえ。用があるなら別に教室でよくない? 私この後部活あるから時間ないんだけど……」


「大丈夫大丈夫。時間はとらせないから!」


 平泉は強引に長野の腕を引っ張って空き教室に連行してきた。空き教室に長野を閉じ込めると、ごほんとわざとらしい咳払いをして平泉は長野の瞳を見つめる。


「じゃあもういきなりだけどさ……その……奈々は須賀くんのことどう思ってる?」


 少し頬を赤らめて、こっぱずかしそうにそんなことを聞く平泉とは対照的に、長野は顔面が真っ青になり怒りで満ちあふれた瞳をしていた。


「須賀くん……? 確かに普通の人とは違うと思ってるよ」


「え……?」


「正直今日ずっと須賀くんのことばっか考えてたし、須賀くんのせいでどうにかなりそうだよ」


「ええ!」


「こんな気持ちは初めてだからさ……ちょっとどうしたらいいかわかんないんだよね……」


 な…………なんだこの典型的なズレ会話はぁぁぁぁ!!!! 完全に平泉は勘違いしている。これは全面的に長野が悪いのでは? と、そう思うが、長野にもこういう抽象的で紛らわしい言い方をしなければならない理由があったのだ。

 それは、彼女自身が他人を悪くいうのを嫌っているから。曲がった事が嫌いで何事にも正々堂々な彼女は、陰口や陰湿ないじめなどが大っ嫌いであった。

 今までの人生で他者を悪く言ったりしたことは一度もなく、そもそも人を嫌ったことがない彼女。なのでこんな紛らわしい言い方になってしまったのである。

 好きと嫌いは表裏一体とはよく言ったものである。


「じゃあその……須賀くんとはどうなりたいの?」


 そんな長野の気持ちを全く理解していないどころか、全く逆の勘違いをしている平泉は、余計に長野の神経を逆なでするような質問を投げかける。それに対して長野は。


「今のままってわけにはいかないかな……」


 またもや平泉の勘違いを助長させるような発言を繰り出す。長野はこんだけ須賀のことを質問され、今にも吐き出しそうなぐらい青ざめているが、乙女フィルターのかかった平泉視点では、長野は恋する乙女の表情として写っている。


「そっか……奈々の気持ち、ちゃんとわかったよ。私にできることがあれば、全力で協力する」


「ほ……ほんと!? ありがとうのえ! 頼りにしてる」


 キラキラとした瞳で平泉の手を握る長野だが、その張本人にこれから壮絶な嫌がらせを受けることを、長野は知らなかった。

 そして近くで待機していた須賀は、顔を真っ赤に赤らめていた。

 こうして今日も、大きな勘違は解けることなく一日が終わろうとしていた。



























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須賀雅紀は痛すぎる ラリックマ @nabemu

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