第5話クラスのうざい奴が食堂に乱入してきた件について

 幸せを有するものがいれば、その裏には必ず不幸を有するものがいる。甘い汁を吸うことができる人間がいれば、その汁にありつけない人間もまたいる。少数の成功者の下には多くの失敗者がいるように、全ての人間は平等ではない。

 この学校という小さな檻の中でも、その例外ではない。

 

二学年に上がり長野と席が隣になった須賀は、気分が向上して顔がほころんでいた。あの後の授業でも、須賀は長野にしつこく話しかけていた。話しかけられている長野は終始憤りを感じていたが、当の須賀はそんな長野の気持ちなど知りもせず、むしろ距離が縮まっていると勘違いしているのが現状。

 この僕に話しかけられて嬉しくないはずがないと、生粋のナルシストであり勘違い野郎の須賀は思っている。親からもらった力という力を全て使い無双しまくってきた彼の人生。だから常人の気持ちを理解できないのも仕方がないのかもしれない。

 こんな残念な性格になってしまうぐらいなら、せめて顔だけはもう少し普遍的であった方が良かったのかもしれないと、今の彼を見ていると思ってしまう。

 しかしそれはもう手遅れであり、彼はもう行くところまで行っている。今更彼の性格を直すなんてことは不可能である。貴重な自己形成期にそれほど甘やかされてきたとなれば、世の中自分中心に回っていると勘違いしてもおかしくない。

 それでも常人離れした容姿の須賀なら、ある程度の痛い言動も許容される。しかしそれは須賀に魅了されてきたものだけ。

 つまり長野にとって須賀は、ただの痛くてうざいナルシストとしか写っていない。

 天才が常人の気持ちを理解できないよう、常人もまた天才の気持ちなど理解できないのである。

 

 昼休み。食堂の隅に座る長野は、ひどくやつれ果てていた。


「どうした奈々!? ひどい顔だ」


「え? あぁ、まあちょっとね……」


 長野は精神的に参っていた。須賀に対する嫌悪と怒りでどうにかなりそうな状態で、なんとか冷静を装っていたのだから。もう精神崩壊を起こしてもおかしくないほど、長野の心はボロボロだ。

 そんな気持ちを少しでも紛らわすため、長野は食堂のカレーを思いっきり口に掻き込むが……。


「そういえばさ。須賀くんどう?」


 なんの変哲も無い平泉の質問だが、長野にとってはそうでも無い。平泉の口から「須賀」という単語が出た瞬間、長野はむせ返り口に含んだカレーを吐き出しそうになる。


「ゴホ! ゴホ!」


「だ、大丈夫奈々!? ほら水飲みな」


 グビグビと水を喉に通す。


「ふー、もう大丈夫。ありがとうのえ」


「うん。それよりもさ、今うちが須賀くんの名前だしたらむせたよね? もしかしてもう惚れちゃった?」


 そんな冗談まじりの平泉のいじりにも乗れないほど、長野は須賀のことが嫌いになっていた。長野は平泉をギロリと睨み付けると。


「ねぇのえ。同級生を駆逐したいんだけどどうすればいい?」


 そんなことを急に言われた平泉はビクゥと背筋を伸ばす。


「だ、だめだよ! うちは食べても美味しく無いから!」


「別にのえのことじゃ無い。それよりもさ」


 ちょうど長野が平泉に、須賀のことで相談しようとしたその瞬間……。


「ね、隣いいかな?」


 キラキラと輝く金色の髪に、女性よりも綺麗で透明感のある素肌。誰よりも整った容姿を持った、学年一の勘違いモテ野郎にして長野のストレスの原因である彼が、長野の憩いの場に乱入してきたのである。



























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