第3話隣のうざい奴がコミュ障な件について

 人と人とが良好な関係を築くうえで必要なものは、コミュニケーションである。言葉と言葉を交わすことで生まれる信頼、好意。人とのコミュニケーションをうまく取ることのできる人間は、社交的であり他者からの厚い信頼を勝ち取ることができる。

 逆にコミュ力の低い人間は、暗い、根暗、インキャの烙印を押され、周囲の人間から若干距離をおかれてしまう。

 昨今さっこんの社会でも、勉強ができるものより他者とうまくコミュニケーションを取ることができるものの方が必要とされている。他者とすぐ親密な関係になり、円滑に話を進めることができるものの方が、社会的地位を築くことができるのだ。

 それほどコミュニケーションというものは、大切なのである。

 無論、それは恋愛においても……。

 

 完璧超人である須賀雅紀は、悩んでいた。今まで悩み事とは無縁の人生を歩んできた彼にも、初めて悩み事ができた。深刻そうな顔をしながら、チラチラと隣の長野の方を見ている。

 そう……彼は長野に話しかけたいのだ! しかし、今まで他人に自分から話しかけたことなどほとんどない須賀は、どうやって話しかけようか苦悩していた。

 基本他人が話しかけてきて、その相手の話に合わせているような会話ばかりを取ってきた須賀は、今までのこの16年間、およそコミュニケーションと呼べるコミュニケーションを取ってこなかったのである。

 須賀のコミュニケーションは相槌か、聞かれた質問に答えるものがほとんどで、自分から話題を振ったりといった経験が皆無なのである。今までの人生で積極的に他人と関わろうとしてこなかった弊害が、まさに今彼の目の前に立ちはだかっていた!

 それでも長野と仲良くなりたい須賀は、長野に話しかける。


「……長野さん。いい天気だね」


 で…………でたぁぁぁぁぁぁーーーーーー! なんの発展性もなく、返しにも困るなんとも厄介なカス以下の質問。これを振ってくる人間は今までろくに他人と関わってこなかったんだ……と哀れみの視線を向けられてしまうほどの質問。

 こんな質問を投げかけられた方はたまったもんじゃない。

 現に長野は、頭の上に大きな疑問符 が見えそうなぐらい、「何言ってんだこいつ?」という顔をしている。

 もともと須賀に対してあまりいい印象を持っていないのに、それに加えて先ほどの子猫ちゃん発言で長野の須賀に対する好感度は下がるところまで下がっていて、むしろ不快度が上がるところまで上がりきっている時にこの質問。

 しかし、それでも長野は無視せずに返す。


「そ、そうですね」


 それは彼女の優しさか、または人気者の須賀を無視したら後々面倒そうという考えがあるからか……。多分後者だろう。

 須賀は長野と話せた喜びを感じているが、長野はもう二度と話しかけないでほしいと思っていた。

 こうして、彼と彼女の初めてのコミュニケーションは終了した。




























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