第82話 少年&影山探偵団 ミコを救え!
「篤史、ボウリング行かない? ドリンク無料今日までだろ?」
篤史は「お! いいねえ~~、行こうぜ~~」と軽く答えてくれた。
弘樹は生まれた時から顔に大きなシミがあり、そのせいでイジメにあい、菅原学園に転校した。
よさこい祭りで芽依先生と仲良くなり、その繫がりで篤史と友達になった。
弘樹はイジめられた経験から基本的に人と話すことが今も苦手でいつも緊張してしまう。
篤史は色んな人と話せる明るいタイプだから友達になれるかな……と思ったけど、表裏がなく素直な性格で、一緒に行動するうちに自然と仲良くなった。
今では学校も一緒の時間帯に行くし、帰りも一緒だ。
たまにこうして学校帰りに遊びにいくようになった。
転校は悩んだけど、菅原学園に来て良かった!
横で篤史はスマホをいじりながら口を開く。
「ネクストボールは小学生はワンゲーム200円だから最高だよな~」
「普通の小学校行ってたら学校帰りにボウリング行けないよ」
ふたりで「最高だよな」と笑いながらカウンターで受け付けを済ませて、レーンに入った。
このネクストボールは菅原学園から一番近い駅の近くにあるので、いつもここら周辺で遊んでいる。
今まで子どもだけで商業施設に行ったことがなくて「こんなことして大丈夫なのか」と不安だった。
でも篤史は「全然大丈夫っしょ。行こうぜ~」と色んな所に弘樹を連れて行ってくれた。
最初は篤史にまったく勝てなかったけど、最近は弘樹のほうがスコアが良い。
弘樹はボールを選びながら口を開く。
「篤史はさあ、ほらまた、そんなバカみたいに重たいボールを選ぶからさ」
「はぁぁぁん? オドオドキョロキョロビクビクしてスコア20だったのに偉そうだなあ~~」
「じゃあ買ったほうがUFOキャッチャー奢りでどう?」
「余裕っしょ~~~」
まあ最近五連続で俺が勝ってるし、負けるはずないんだけど? UFOキャッチャー新しいぬいぐるみ入ったかなあ。
もう勝ったことを想定してニヤニヤしながらボールを選んでいたら、背中の服を思いっきり引っ張られた。
なに?! 苦しくなって床に座り込むと、すぐ横に篤史が来た。
そして弘樹の耳もとで早口で話した。
「(ミコが男といる)」
「?! どこに」
弘樹は立ち上がろうとして、そのまままた引きずり落とされて、座らされた。
篤史は小さな声で叫ぶ。
「(バカ、見つかるぞ!)」
「(どこにいるんだよ!)」
「(一番奥のレーン。ほら、ゆっくり顔上げて見ろよ。ええええ……あれ、おいちょっと……ヤバくねえ~?)」
篤史がボールの隙間から見て驚愕している。
弘樹も我慢できなくて篤史の背中を引っ張りベストポジションンを変わってもらい、一番奥のレーンを見た。
そこに居た男はヒョロヒョロとした若い男で……何よりミコがボールを投げてる後ろに座って写真を撮っているのだ。
ええ?! あんなポジションから写真撮ったらミコのスカートの中が撮れちゃうんじゃないのか?!
弘樹はストンと座りなおして口を開く。
「あの角度で撮ったらパ、パンツとか見えてないか?」
「だよなああ~~、なんかずっと後ろに座って写真撮ってるんだよ、なんだよあれ。いやちょっと待てよ、事務所の社長ってことねぇの? なんか撮影とかさ〜」
篤史はそう言ってすぐに席に戻り、リュックからiPadを出してミコの事務所を調べ始めた。
そして社長の顔を検索すると、ものすごく善人そうな太ったおっさんが出てきた。
一番奥のレーンでミコといる男とは全然違う。篤史は「てへ」と笑ってそれを閉じた。
「全然違うわ。その前に社長がローアングルで写真撮らないか」
「あんな座り込んだり、寝転んだりして写真撮ってるんだよ。彼氏だとしてもミコもそんなの撮らせるなよ」
弘樹はなんだか言い表せない気持ちに襲われていた。ドキドキ……イライラ、いや正確にはハラハラしていた。
日向ミコはアイドルで、弘樹は菅原学園に来るまで名前しか知らなかった。
でもはじめて歌を聞いた時にファンになった。子どものようなんだけど、甘くて、大人なんだけど……それでも公園に飛び出して遊ぶ幼稚園児みたいな。
そんな歌い方が魅力的だと思った。そしてよさこい祭りで弘樹の似顔絵を学校の旗に描いてくれたのだ。
これがまたびっくりするくらい下手な絵で笑っちゃうんだけど、それでもめちゃくちゃ嬉しかった。
それを言い出したのもミコで、描いたのもミコだと聞いてから、弘樹はひそかにミコの大ファンだ。
一番好きなのはもちろん蘭上だが、アイドルで一番好きなのは日向ミコだと思う。
そのミコが男といて、変な写真と撮られている。彼氏だろうか……? いや彼氏でもあんな角度で写真撮らせちゃ駄目だろ、アイドルなんだから!! あいつ何者だよ?!
そしてふと気が付いた。
「もし変な写真撮ってるなら、ネットに出てるんじゃないか? 影山なら分かるんじゃないかな」
「弘樹天才じゃん~~!」
「だろ?」
弘樹はスマホのアプリを立ち上げた。そのアプリ名は『影山』。影山と直接会話ができる専用アプリなのだ。
影山とも、よさこい祭りで知り合った。蘭上の大ファンで映像作りに手を上げたのは良いけど、今までしたことがない作業の連続で、毎日泣いていた。
そんな弘樹を助けてくれたのは影山だった。まず学校の掲示板を通じて連絡が入り、ソフトの使い方や、参考資料を送ってくれた。
そして日向ミコのファンらしく、ライブ映像も見せてくれたりして、一気に仲良くなった。
学長の航平曰く「影山は菅原の亡霊みたいなもんだ。存在してるのか、してないのかも分からん。でもずっと学費は払ってる正式な生徒だからな」。
誰も姿を見た事なくて、AIか何かじゃないか……なんて噂さえあったけど、菅原名物の超カルタ大会で足音が聞こえたらしく、騒ぎになっていた。
「本当に存在するんだ!」って。航平は「いや……代理の誰かなんじゃないか?」って笑ってたけど、何でもいいんだ。
男でも女でもAIでも良い。朝でも夜中でも気楽に話しかけられる友達に、もうなっていた。
その影山が「自分に話しかけたい時はこれを使ってよ」と入れてくれたのが『影山』というアプリだ。
ここに連絡をいれると即帰ってくるし、画像も音声も映像も即UP出来て楽しい。
弘樹はすぐに影山を立ち上げて話しかけた。
「影山、ミコが男といるんだけどさ、なんか写真の撮り方が変なんだ」
『いますぐその男の顔写真を送れ』
「え……でも……彼氏かもよ……? そ、そういうプレイ、とかの最中とか」
『写真の撮り方が変なんだろ? 裏で何してるかわからん。顔写真から全部割れるから撮れ』
「顔写真から、そんなことわかるの?」
影山の反応の速さに弘樹は驚いた。
でも影山はめちゃくちゃミコのファンで、ミコが好きだから超カルタ大会も出てきたと聞いた。
彼氏といるならと言いながら、変な撮影方法が気になってしかたない。
だからって男の顔写真……。え? 写真?
弘樹は篤史の服をグイグイ引っ張った。
「影山が相手調べるから写真送れって言ってるけど、近づかないと無理じゃないか?」
「う~~ん。そうだよな。いや、ちょっと待てよ、あっちの方トイレじゃん。トイレに行く顔して写真撮れば問題なくね〜?」
「大ありだろ!! そんなのすぐにバレるだろ!」
「トイレの写真を撮ってます~みたいな顔して撮れば問題なし~~」
「じゃあ篤史がやれよ!」
「ふざけんな無理に決まってるだろ、弘樹が行け!!」
俺たちはボール置き場に隠れてワーワーと「お前が行け!」と押し付けあった。隠し撮りなんてしたことないから無理!!
影山のアプリから無数の通知が入っていて見ると『早くしろ』『怖くない』『お前たちは小学生だ』『びびるな』と無限のメッセージが入っていた。影山は安全な所にいるから良いけどさあ!
そしてふと気が付いた。
「航平時計!」
「あ~~~そうだ。航平時計ならリモートで写真撮れるじゃん。あ~~でも航平時計って写真撮るときに大きな音がするぞ~」
「そうだった。航平さあ、自分の奴だけ無音カメラなんだぜ。ズルいよな大人だからってさ」
「芽依先生のこと隠し撮りしてるんだぜ~~ズルいよな~~」
「撮ってる撮ってる! それでこっそり見てるよな。でもこの時計くれたのは最高だよな」
「わかる~~。この時計めっちゃ楽しいよな~」
航平時計とは、学長の航平がオリジナルで作った腕時計で、学校特製のスマートウォッチだ。
小さなスマホみたいに色んなアプリが入っていて、腕時計同士で専用ラインを用いた会話も出来て楽しい。
菅原学園に通ってる生徒は先月無料で渡されたけど、腕時計を見た父親曰く「これ十万以上するレベルものだぞ?! 俺もほしい」と目を輝かせていた。
小学生にはかなりサイズがデカくていつもしてないけど、授業端末ログインする時に使ったり、学校の鍵にもなっているのでいつも持ち歩いている。
航平時計はボタンひとつで写真が撮れるし、スマホと完全連動していて、スマホから時計を立ち上げて写真を撮影することが出来る。
だからひとりがトイレに行く雰囲気で腕を向ける……離れているもう一人が離れた場所からスマホで撮影ボタンを押せば、簡単に撮影できる。
でも「盗撮とかされると困っちゃうからなあ~」と航平が言い出して、撮影するときは大きな音が鳴るのだ。
それだとミコたちにバレてしまう。
悩んでいたら影山から通知が入った。
『時計の写真アプリをアップデートして消音にした。これで問題ないはずだ』
それを見て驚いた。
さっきからマイクは全部ONにして、弘樹たちが話している会話はすべて影山アプリに流れるようにしたんだけど、それを聞いて即アプリをクラッキングしたようだ。この数分でそんなことしたの?! さすが菅原学園随一のコンピューターの天才。
超カルタ大会でも航平を出し抜いたのは影山だけだった。
クラッキングを航平が知ったら「はああああん??」って怒りそうだけど、緊急事態だから許してほしい。
それに航平が芽依先生を盗撮してるの、知ってるよ?
試しに腕時計をして写真を撮ってみたら音がしなかった。
これなら行ける。やってみよう。
弘樹は立ち上がった。
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