第38話 超カルタ大会②
「緑チームの葉山くんが導入したのは、超小型ドローン……飛んで外に出ることだけを考えたものです。この大会、人かドローンが札を掴んで出た時点でカウントされます。札の投げ捨てはカウントされません。毎回最後は札の取り合いは肉弾戦となりますが、それが始まる前に見つけて外に出す。それに特化しています」
紹介された緑チームのドローンは、他のドローンより構造がスカスカに見えた。
こういうのに全く詳しくない芽依でも、軽いほうが飛びやすいことは分かる。
葉山は校内を移動して札を見つけて、それを小型ドローンに札を挟んで外に出す……をくり返しているようだ。
司会は興奮しながら話す。
「葉山さんはこの『簡単ドローンキット』を子ども向けの会社に高値でおろして超お金持ちです。みんなでたかりましょう」
「なんだってーーーー、俺が貸した開発費返せ!!」
司会の言葉に航平がツッコミを入れる。
「二倍にして返したじゃねーか!!」
校内を移動している葉山がカメラに向かって叫ぶ。
航平は
「二倍じゃ足らねーくらい儲けてるくせによ」
とニヤニヤしながら言った。
司会はカメラを切り替えながら説明をする。
「緑チームが導入した小型ドローンは、電池も最小、総重量が異常に軽いため、プロペラはひとつしかついていません。だから見てください、この視界映像……全くブレていません。中に特殊なオイルを入れてブレを軽減させているそうですが葉山さんは全く教えてくれません。ずるい、金の亡者、天才、酷い!!」
司会の言葉通りだった。
他のドローンから届く映像は、すべて大きくブレている。
でも緑チームの画面映像は全くブレてなくて、美しいままだ。
「超大型ドローンにしか許されない揺れない視界を、ここまで小さな個体で実現させるのは素晴らしい技術力だと分かります。真空ジェルと油圧の研究をしていた葉山くん、ついにオリジナル商品を生み出してしまったと聞きましたがどうなのでしょうか。そしてフラフラ飛んでいるドローンを掴んで……あ~~~、勝手に奪う、酷い。鬼、悪魔!!」
「トロトロ飛んでるからだ」
「さすがドローン界の反社会的勢力!! そして自分のドローンにつけて外に出してしまいます」
「余裕っしょ」
へらへら笑う葉山の後ろに影が見えた……ラグビー部の人だ。
葉山も身体はそれほど細くないが、ラグビー部の人に比べるとかなり小さい。
「おおっと、ここにラグビー部が登場!! 前回は葉山くん、このラグビー部に捕まえられて、紐で縛られました!! 人の札を奪うようなことばかりしているからです!!」
ラグビー部の人が叫ぶ。
「ま~~~た悪さしてんのか、葉山」
「きたね」
葉山はにやりと笑った。
「きたよ!!」
ラグビー部の人が葉山に飛び掛かる。
すると葉山は胸元から何かスプレーを出して、ラグビー部の人に噴射した。
部屋一面に真っ白の煙が広がって、画面は何も見えなくなる。
同時にラグビー部の人の叫び声が響く。
「……おえええなんだマジくせえ、やべえええ!!」
それをモニターで見ていた航平は「うおおお?!?!」と叫ぶ。
煙が少し消えると、床に転がって臭さに悶えているラグビー部の人が見えた。
そこに大きいマスクをした葉山が現れて叫ぶ。
「世界イチ臭い匂いに拡散性を足した特殊ガスだ。完全に無害。ただ、死ぬほど臭い!! 屁でもくらってろ!! 去年の借りは返したぜ!!」
「あいつ、サイテーだな!!」
航平はPC前で手を叩いて笑った。
葉山はラグビー部の人の足首を紐で縛って札をすべて奪って教室を出た。
ずるい~~、こんな方法も許されるの?! 芽依は苦笑したが、最初にドローンを導入したのが教師チームでは何でもありなのだろう。
葉山の前にウオオオオン……と大きな音をたててドローンが下りてきた。それは教師チームの巨大ドローンだった。
そして更に四角い箱のような小さいドローンが数台見える。
司会が興奮して実況を始める。
「大会開始から一時間経過。半分以上のドローンが故障、もしくは電力不足で止まっている状態で、このきびきびした動きはドローン会社がガチで開発している真四角くんですね。この会社社長の牛島さんは菅原出身で、現在開発費をかけすぎて会社は潰れかけ。ここで勝利した映像を手に売り込みしようとしてますので、絶対に負けられません!」
「こっちは人生かかってんだよ!!」
今度は画面にスーツ姿の男性がカットインしてくる。一階にいるサラリーマン集団のようだ。
真四角で小さなドローンたちは、今までの物とは違う正確性を見せていた。
葉山の周りを飛び回り、それを叩き落とそうとする動きを正確に読んで動く。
「見てください。この的確な迷いがない動きを! 指示通りに飛べないから仕事に導入できないと言われているこの業界でこの正確さは特徴的ですね。視界さえもう少し確保できれば警察庁が導入したいと言っていると聞きましたが、ここは葉山さんと手を組んでみては?!」
「俺のは高いぞ!!」
「葉山さぁん、日本に警察ドローン飛ばしましょうよお」
画面にカットインしたふたりが叫びあっている。
葉山がドローンの処理に手間取っている間に……スーツ姿の男と教師がひとり、そして四人ほどの小学生が葉山に飛びついた。
そして物理で札を奪っていく。
葉山は再びスプレーを出そうとするが、小学生四人が乗っかって動きを止める。
そして胸元からドローンのリモコンを奪い、窓の外に投げ捨てた。
カシャーーーンと何かが割れた音がする。
「アーーーーー! クソガキーーーー!!」
葉山の叫び声が響く。
「ストラァァイイク!!!」
画面に篤史がカットインして叫んだ。
「おおっと、ここにきて牛島と教師チーム、それに小学生四チームが手を組んだ。葉山さんもここまでされたら動けない。あーーっと、今年も紐で縛られたぞ。色んな人たちの恨みがここで晴らされて、今、芋虫にされた~~~!! そしてみんなで仲良く札を山分けしたぞ」
「いっけーーーー!」
小学生たちが走りまわって喜んでいるのが見える。
その笑顔が可愛くて芽依は思わず笑ってしまうが、あの世界一臭いスプレーは投げ捨ててないようで、噴射しながら大騒ぎしている。
ものすごく近寄りたくない……。
画面が教師チームの巨大ドローンに切り替わった瞬間……モニターが真っ暗になった。
司会がモニター裏側にいるスタッフに向かって叫んだ。
「電源落ちた?!」
「違います、これ……回線にとんでもない負荷……いや、ちょっと待ってください、回線を乗っ取られました!!」
「うおおおお?!!」
航平は興奮しながらPCの前に座ってキーボードを高速で操作する。
会場にあるモニターがすべて真っ暗になっている。
そしてプツッ……と何か映像が映った……これは机がたくさんあって……水道が見える……家庭科室……??
みんな画面にくぎ付けだ。そこにトコトコと……エプロンを着た近藤が入ってきた。
「?!?!?!」
モニターを見ていた近藤が顔を上げる。航平が近藤を見る。
近藤は静かに首をふる。心当たりがないようだ。しかし再生が続くと、画面を見ながら「ああ……」と小さく言って目を伏せた。
映像内の近藤は冷蔵庫から卵を出して……黄身を丁寧にわける。そして粉を計量、バターを白く泡立てていく。
司会は笑いを噛み殺しながら口を開く。
「えっとですね……どうやらこの会場の回線がハッキングされているようです。外部からの映像……それも、学長のSPである近藤さんが……丁寧にクッキーを作っている映像ですね。ちょっとすいません。どこから流されているのかも分かりませんが、近藤さんがっ……めちゃくちゃ丁寧にクッキーを……くっそ……なんでこんな手つきが丁寧なんだ……」
「ぎゃははははは!!! 近藤お前、家庭科室でこんなことしてたの?!」
「クッキングクラブの女子たちに教えてほしいと頼まれまして」
映像内では、女の子ふたりと強面の近藤がクッキーを作っている。
ご丁寧にあのクッキングで有名なテーマソングまで流れていて……正直芽依も口を押さえて笑ってしまう。
ある意味平和な映像が流れているが、下のフロアや航平のスタッフたちはみんな叫んでいる。
どうやら手元に来ている映像すべて近藤さんのウキウキクッキングにされてしまったようだ。
「落ちた、もうダメだ」
「内部班、ドローンの回収だけでも頼む」
「え?! なんだ、札が根こそぎ消えてるみたいだぞ」
「なんだ?!?!」
会場が騒然となる。
画面内の映像では、近藤さんがカメラ前から離れた瞬間に、女の子ふたりが画面の前にくる。
そしてピースサインをした。
司会がPCを見ながら実況を続ける。
「回線に相当な負荷がかけられているように見えましたが……違いますね、これはそう見せられているだけ……ですか……? こんなことが出来るのは噂の天才ハッカー、誰も姿を見たことがないという影山くんの仕業ですね?! どこからハッキングしてるのかも分からない。すごい!! 今、下のチームが総出で解析に入ってますがお手上げの状況です。学長もシステムに入ってますが、どこからか分かりますか?!」
航平は恐ろしい速度でキーボードを打って顔を上げた。
「ハッキングはフェイク。外だ。あの野郎、物理で映像ラインに流してる、そっちが本丸だ!!」
そう言って航平は窓の外を見た。
外から砂利を踏む音が聞こえて、画面はプツリと切れた。そして映像は校内の絵に戻った。
しかしすべての映像は地面に落ちたドローンを映している。
そこに細い腕が映り込んだ。そして落ちたドローンを掴んでそこから札を取り、校内カメラに見えてピースをした。
さっきクッキーを作っていた女の子だった。
「大成功~~~~!」
手には数枚の札を持っている。
後ろに札を奪い取られたドローンたちが無残に転がっている。
その後ろには小学生たちもジャンプしているのが見える。
そして女の子はカメラに手をふりながら
「影山くーん! 今度お礼するねーーー! ドローンオタクが壊滅してスッキリ~~邪魔邪魔ぁ~~」
航平は爆笑して手を叩いた。
「影山引き込んだのやべぇな!! あの子どうやって呼んだんだ?! ちょっと待てよ、あのクッキング部の子……アイドルの日向ミコじゃないか? あいつアイドル好きだったのか……。来年から影山も参戦するの?! 毒ガスとハッキング対策かよ、何の大会だよ~~」
航平の笑い声と共に、アイドルソングが流れ始めた。
女の子は社内カメラの前で楽しそうに歌い始めたのだ。
周りの小学生たちも一緒に踊り始める。もう何がなんだか分からない。
一階からは「落ちて壊れた……」と泣き言が聞こえてくる。
二階では視線のすべて近藤に集まった。近藤はオホンと咳をして顔を上げた。
そして
「ミコミコクッキー……。美味しく作れました。まだありますが、食べますか」
と言った。
航平は手を叩いて爆笑して
「楽しく使われてるじゃねーーか!!」
と叫んだ。
もう本当に、どこがカルタなのか、学校行事なのか分からない。
でも芽依はものすごく楽しんでしまったし、もう二時間以上経過していたことに驚いた。
そして気が付いたけど、これは学校で学ぶすべてのことが入っている。
技術や知識はもちろん、人と作業すること、関わること、ひとつの目標に向かって手を組むこと、失敗してもいい、成し遂げること。
何よりみんな、本気で考えて楽しんでいるのだ。
その先にきっと学びたいことが見えてくる。
芽依は素直に拍手した。とても面白かったし、この学校を、航平を見直した。
それにあのミコミコクッキー、とても美味しそう。
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