第37話 超カルタ大会①


 菅原学園の小学校校舎は『口』の形をしている。

 真四角の形に校舎があって、今、芽依がいるのはその真ん中にある小さな建物だ。

 漢字で言うと『回』この真ん中の部分。

 どうやらこの超カルタ大会は、小学校の校舎全てを使って開催されるようで、放送が鳴り響いている。

 

「よっしゃ、お前ら準備は出来てんのか!」


 学長である航平がカメラの前で叫ぶと、周りを囲んでいる校舎から「うおおおおお!!!」と叫び声が聞こえる。

 航平は続ける。

 

「いつも通りカルタを学校内に置いたのは近藤だ。世界で一番航平に厳しいけど公平な近藤!」

「つまんねーぞ!!!」


 芽依の横で長尾が笑いながらつっこむ。

 同時に校内からも「クソみたいな話は終われ!!」とブーイングが聞こえてくる。

 カルタを置いたのは近藤……って、この前来た時に車を出してくれた人? と思ったら、航平が司会して大騒ぎしている横、PCがある所に近藤が見えた。強面で真っ黒なスーツに黒縁のメガネ。

 あ、やっぱりそうだ。この方、警備員さんかと思ったけど違うのかしら。

 PC周辺には他にも数人の……この場合教師なのだろうか……女性や男性の姿が見える。

 みな画面を見ながら話し合い、スマホで誰かに指示を出している。

 航平はカメラに向かってドヤ顔でトークを続ける。


「俺のありがたい挨拶はこれくらいにして、年に一度のお祭りを始めるぜ! ルールは単純、たくさん札を集められたチームが勝ち。人殺し以外なんでもありだ、いくぜ!!」

「うおおおおおお!!!」

 航平が叫ぶと、この建物……校舎全てから拍手と歓声が上がった。

 すごい!!

「菅原学園流、超カルタ大会スタート!!」


 航平が叫ぶとウイィィィィ!!! と大きな音が響いた。

 そして室内にあったドローンたちが窓から次から次へと飛び出していく。

 それはまるで意思を持った生き物のように正しく、それでいて鳥のように素早く。

 思わず窓に駆け寄ると、たくさんのドローンが空に舞い上がっていく。

 その数は十や二十じゃない!

 芽依が立った真横……髪をくすぐるように爆音が風を連れ、もう一台が飛び出していく。

 この学校は山の中にあるので、空が広い。抜けるような青空に無数のドローンが一斉に飛んでいく。

 上昇したスピードそのままに、校舎の窓に飛び込んでいく。

 ……すごい!!

 芽依が興奮して窓際で見ていると、スタジオセットに男性が立った。

 テレビに出られそうなほど端正な顔立ちで、マイクを持っている。


「さて、メディア部が司会を代わらせて頂きます! 現時点で枚数を集めているのはラグビー部ですね。やはり一階にある札は体力が全て。陸上部との潰しあいです。人が来る前に上の階の札を取って窓から逃げたい!! 四階に映像を切り替えます」


 司会が言うと画面が分割されて校内の画像に切り替わった。

 どうやら校内にたくさんのカメラが置いてあるようで、走りまわるドローンと人たちが映っている。

 

「おっと、動きが見えたのは四階、六年生の部屋ですね。ここに札があることに気が付いた二台のドローンが札の取り合いを始めています。赤軍のドローンは……これは新兵器、なにかドロドロした……ああ、これはカエルの舌のような構造になっているんですね。それでくっつける作戦ですね。それに対して白軍は正統派。ピンのようなもので掴もうとしていますが……二台ぶつかりそうで怖いですね。故障した場合、校内にいる選手しか修理ができませんから、かなりの不安要素となります」


 芽依は説明を聞きながら理解する。

 なるほど。校内に入れるのはどうやら各チームひとりのみ。

 中に入った人は、札を集めるために走りまわることも出来るし、ドローンを修理することも可能。

 でもたぶん運動神経もあり、ドローンも修理できる人は少ないのだろう。さっき一階の札を集めていると言っていたラグビー部の人は走ることだけで札を集めていて、場合によってはドローンを投入してないのかもしれない。

 カメラに小さな何かが見えた瞬間、司会がマイクを掴んでテンションをあげた。


「おおっとお!!! ここで教師チームの名物ロボ、『キャリー』が現れたぞ。学長のおばあちゃんが使っていた三輪キャリーから発想したアイテムだが、三年前は建物から出ることさえ出来ず撃沈、二年前は建物から出られたが、わずか五分で電池が切れて撃沈、一年前は校舎内で踏みつけられて撃沈。さあ今年はどうだ?!?!」


 司会がキャリーと呼んだマシンは、車輪が三つ付いていて、それが回転しながら移動していく。

 中心に四角の本体があり、それがふたつのハンドスピナーに挟まれているように見える。

 それが廊下を疾走していく。

 司会がマイクを握って叫ぶ。


「そして階段に車輪をぶつけると……次の車輪が上にきて……ゆっくりだが上っていくぞ!!」

 キャリーは三つの車輪を回転させて器用に階段を上っていく。

「校舎内の階段の高さに完全マッチングさせたからな!!」

 航平が得意げに言う。全体が車輪のような構造なので、障害物がない廊下だと移動速度が速い!

 そしてすでにドローンが二体いる教室に到着、中に入っていく。

 航平がスタッフに細かく指示を始める。


「ここから測距精度を0にさげろ。いや、マイナス2だ。視野率45以下で絞れ。関節駆動のジョイントを……J1からJ4まで戻せ。E1、E2は全駆動にしろ。そうだ、いいぞ。あ、くそ視野がやっぱり酷すぎて全然見えねぇ……来るぞ!!」

 航平が叫んだのと同時に画面に映っていたキャリーに、ドローンが体当たりしようとしてくる。

 その瞬間、キャリーは片方だけの車輪を回転させて逃げた。

 司会が興奮して叫ぶ。


「すごいすごい!!! こんな機敏な動きができるようになったんですね。校舎から出られず泣いていた日が嘘のようだ!!」

「うるせえ!!!」


 航平が指示を出しながら司会につっこむ。

 キャリーはそのままクルクル移動して札まで移動。そして札の上に乗った。

 航平が指示を出してスタッフがキャリーに動きの指示を出す。

「どうだ!?」 

 航平が顔をあげると、ゆっくりとキャリーが動き出す。

 すると中心にあるボックス部分に札がしっかりくっ付いている。そして一緒に移動しはじめた。

「よっしゃ!!」

 航平が叫ぶ。


「おおっと!!! 中心にピンチのようなものを付けていたんですね。札を持って逃げる逃げる。本体の九割が車輪の激しい動きですが付けたまま移動できるか?! 札を付けたまま校舎の外まで出れば初のキャリーで一枚札ゲットだ!!」

「いけえええ!!!」


 航平も長尾も叫んでいる。

 キャリーは窓から逃げることができないので、一階まで逃げるしかないようだ。

 本体に札をつけたままクルクルと移動していく。それをドローンが追っていく。


 階段を器用にコロコロ転がって移動、角では片方だけ回転させて向きを変更させていく。

 空を飛んでいるドローンたちは、地面に近づくたびに体勢を崩してぶつかりそうになる。

 本体の車輪を回転させて移動しているキャリーは予想以上の速度で逃げていく。

 ぶつかりそうになると校内から悲鳴が聞こえてくるし、芽依も手に汗握ってしまう。

 車輪の塊が回転しながら逃げていく姿は、なんだか可愛いのだ。

 揺れて見にくいが……前方にドアが見えた。

 もう少し……光が近づいてきた、ここから出るだけだ!!

 その瞬間、叫び声がカメラに響く。


「捕まえてやるぜ!!!」


 出ようとするキャリーの視界カメラに真っ暗な何かが襲い掛かってきた。

 別カメラで確認するとそれは一階を走りまわって札を集めていたラグビー部の人だった。

 ドアから逃げようとしているキャリーに手を伸ばしている。

 大きな手が迫ってくる……捕まっちゃう!!

 

「逆駆動!!!」


 航平が叫ぶとキャリーは突然進行方向から逆方向に移動して、目の前のドアから暗い廊下に逃げた。

「どこだ?!」

 ラグビー部はキャリーを完全に見失う。

 明るい出口より、暗い裏口に逃げたほうが確実だと決め、キャリーは反対側のドアを目指して暗い廊下を加速しはじめた。

「くっそ……あ! 見つけた!!」

 ラグビー部が見つけるまでに、かなり距離を稼げた。

「逃げきれ!! あとは直線だ!!」

 航平が叫ぶ。

 視界カメラにラグビー部の人が追ってくるのが見える。

 それはどんどん大きくなって近づいてくる……キャリーも速いけど、ラグビー部の人も速い!!

 前方に光が見える……ドアまでもう少し……ラグビー部の人が更に加速して手を伸ばそうとする。

 あとちょっと……!!

「いけええええ!!!」

 航平の叫び声に芽依は身体に力を入れた。

 視界映像が激しく動いてノイズが走る、そして映る映像は真っ暗になり映像が途切れた。

 シンと静まった室内に司会の人が叫ぶ。


「逃げきれたか?!」


 ドア近くのカメラに画像が切り替わった。

 そこには通路に転がっているキャリーがあった。

 中心部分にしっかりと札を抱えている。

 札をゲットできたのだ。


「きたあああああ!!!」


 部屋にいた全員が叫ぶ。

 そして建物中から拍手と歓声が響き渡る。

 思わず芽依も拍手してしまう。


「よっし!!!」


 航平はPCに座っていた近藤や、他のスタッフたちとハイタッチした。

 なんだかよく分からないけどすごい! 見てて楽しい!!

 司会者は興奮しながら続ける。


「教師チーム、なんと足掛け三年、キャリーで一枚取りました。これは素晴らしいことです、正直感動していますが、ドローン三台がお互いを潰しあっている間にラグビー部は10枚、緑チームは8枚取得。教師チームはなんだかんだで1枚、最下位です!!」

「うるせえ!!!!!」


 航平が叫ぶのと校内から笑いが聞こえてくるのは同時だった。


「おおっと、天才葉山率いる緑チームの新兵器がここにきて面白い動きを見せてますよ。注目していきましょう。教師チームはいつも通りのスーパードローンも投入。さて後半戦ですよ!!」


 カメラが切り替わるのと同時に、窓からもう一台のドローンが飛び立っていった。

 そのサイズはさっき部屋から飛び立っていったどのドローンより大きい。

 芽依は思わず立ち上がった。

 なんだか見てるの楽しくなってきちゃったんだけど!


 

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