第16話 作戦開始!

 七夕まで残り2日の夢。

 心琴、鷲一、海馬、朱夏、連覇は雑居ビルで円陣を組んでいた。


「それぞれの動きは分かってるね?」


 海馬が皆を見渡す。


「うん! 大丈夫だよ!」

「ええ、バッチリです!」

「うっしゃ! 気合い入れてこうぜ!」


 皆んなから元気な声が聞こえてくる。


「ば、僕大丈夫かな?」


 連覇だけが不安そうな顔をしてた。


「大丈夫だ。安心しろって!」

「もしもの時は鷲一が守るからね」

「うぅ、不安だよ」


 それでも不安そうな連覇に心琴が頭を撫でる。


「連覇君ならきっと大丈夫! しっかり者だもん! 何時でも私達が付いてるよ!」

「う、うん。頑張るね!」


 そんな連覇の不安をよそに海馬から号令がかかる。



「さぁ、いくぞ!」




「作戦開始だ!!」



 ◇◇


 合図とともに4人は海馬の指示に従って行動を開始した。

 心琴は特設ステージ側、

 朱夏は本ステージ側、

 海馬と鷲一は駅へと向かった。


 特設ステージ側に走る心琴が海馬に言われたことを頭の中で反復する。



『まず作戦1。お祭りに売っている「五芒星レッド」のお面を2個買ってくる。これは心琴ちゃんに頼みたい。』

『五芒星レッドのお面? 2個ね! 了解だよ!』


 お面屋さんは駅前の屋台が並ぶ場所の特設ステージ側にある。

 雑居ビルからはそれなりに距離がある。


「私、足が遅いから急がなきゃ……」


 焦る気持ちを抑えながら人混みをかき分けていく。


「お面……お面屋さん……」


 辺りをキョロキョロと見渡す。

 すると一番特設ステージに近いところにお面屋さんがあるのが見えた。


「あった!」


 けれども凄い行列だった。

 これから五芒星レンジャーをやるとあって、次々と五芒星レンジャーのお面を買っていく。

 青だの、緑だの、ピンクだの次々とお面が売れていく。


「まずいよ……。お面売り切れちゃう」


 列の最後尾に並んだ心琴は心の中でレッドを買わないで!と叫んでいた。


「五芒星レッドください!」

「レッドください!」


 次々に買われていくレッドのお面。

 列の中盤にはあと3つしか残っていなかった。


「どれにする?」

「レッド!」


 あと3人というところでレッドは2つしか残っていなかった。


(お願い!! レッドは買わないで!!)


「ブルーください!」

「緑ください!」


 そして、残るはあと一人……というところで。


「レッドください!!」


 心琴の目の前の子がレッドを買っていってしまった。


(どうしよう!! レッドのお面2個必要なのに!!)


 目の前に飾ってあるレッドのお面は1つだけだった。


「お姉ちゃん、どれにする?」


 屋台のおじちゃんがいい笑顔で声をかけてくる。


「あ、あのレッド2つ……」

「ごめんねー……今、レッド1つしかないみたいだ。他の色じゃダメかい?」

「ダメなんです……レッドじゃなきゃ……」

「うーん、困ったな、売り切れなんだ」


 おじさんが額を搔こうとするとコツンと頭に被っているお面に当たった。

 屋台のおじさんが宣伝用にかぶっていたお面を見た心琴が大きな声を出す。


「おじさん、被ってるお面……買えませんか!?」


 五芒星レッドのお面だった。


「おお! いいよいいよ! おじさん被っちゃったけどいいかい?」

「はい!! ありがとうございます……!!」

「そうかいそうかい!」


 おじさんはわざわざ後ろを向いてお面を外し、違うお面を頭につける。

 レッドのお面を商品棚から取り、自分の被ってたお面と重ねて心琴に渡した。


「じゃ、これと、おじさんのお面ね! どうぞ!」


 心琴はおじさんからお面を受け取ると、走って雑居ビルへもどった。


 ◇◇


『作戦2は駅の中の薬局だ。鷲一は髪染めを買ってこい。ワンデーのスプレータイプの奴な。』

『ワンデーのスプレー?』


 聞きなれない言葉に首をかしげる。


『おいおい。まさか髪を染めた事ないのかい?』


 定期的に髪を染める海馬からしたら日用品だが、髪染めた事がない鷲一にとっては未知の商品だ。


『まぁ、店の人にでも聞いてくれよ。色はブロンズだ。』

『ブロンズ?』

『いちいち聞き返してくるなよ。』


 またまた首を傾げている鷲一に呆れていった。



「海馬のやつ……結局きちんと教えてくれなかったし。大丈夫か……?」


 薬局に向かいなが鷲一は頭をかきむしった。

 駅の中には薬局の他にも百円均一や居酒屋も併設されている。

 ここの中にはあまり人がいないことから、被害が少ない場所なのかもしれないと鷲一は思う。

 薬局を見つけ、ガラス張りの自動ドアが開くと一直線に髪染めのコーナーへ急ぐ。


「えっと、白髪染め……。じゃないな」


 とりあえず近くのものを手に取る。


「これは……ブリーチ? ヘアカラー……???」


 色々な種類がありすぎて困惑する。


「……すみません」


 やむなく近くの店員さんに声をかける。


「はい?」


 品出しをしていた女性店員さんが寄ってきてくれる。


「あの、ヘアカラーでスプレーでブロンドのってありますか?」


 覚えている単語をとりあえず羅列する。


「ワンデーのものでしょうか?」

「多分それだな」


 鷲一が一番よくわかっていないので店員さんの言われるがままについていく。


「スプレータイプの物はこちらになります」

「えっと、茶色はこれ一色か?」

「はい。申し訳ありませんがスプレータイプはあまり色数ないので……」

「わかりました。ありがとうございました」


 お礼を言うと店員は自分の仕事へと戻っていった。


(うーん。大丈夫かぁ……?)


 自分の手にある茶色はどう見てもブロンズじゃない。

 けれども普通の毛染めは時間がかかる。


(他の色……は……。金と黒か……。)


 鷲一は茶色と、それから金と黒も手にとった。


(混ぜたらそれっぽくなるか?)


 苦肉の策になりそうな予感を感じながら鷲一は3本のスプレーとともにレジへと向かった。


 ◇◇


『ねぇ、海馬お兄ちゃん、私は?』


 朱夏が海馬を覗き込む。


『朱夏ちゃんは作戦3。……エリ担当だ。』

『エリちゃん?』

『作戦3、朱夏がエリをこの雑居ビルまで連れてくる。』

『……それだけ?』

『この中で一番君が適任なんだ。なぜならね……?』


 ……。

 雑居ビルで朱夏はため息をついた。


「思ったより重大責任ですね」


 もうすぐブラスバンドが終わろうとしている。

 エリはいつも通り、パイプ椅子の最前列でその様子を眺めている。


「朱夏ちゃん! おまたせ!!」

「お帰りなさい、心琴さん!」

「おかえり、おねえちゃん!」


 猛ダッシュで心琴が帰ってくる。


「朱夏ちゃん! これ!!」

「いってきます!!」


 朱夏はバトンのように五芒星レッドのお面を受け取ると、急ぎ足で本ステージの元へ歩いていった。


「エリちゃん。楽しいですか?」


 朱夏の呼びかけにエリは笑顔で頷く。


「向こうでヒーローショーをやるんですって。これがヒーローのお面です。付けてみてください!」


 エリに五芒星レッドのお面をみせる。

 エリはよくわからない顔をしていたが、朱夏かお面を被る動作をすると真似をしてお面をつけた。


「似合ってますよ。とっても可愛いです!」


 朱夏はエリがお面をつけたのを見てホッとした。

 海馬の言葉を思い出す。


『エリがお面をつけていると言う情報を敵に見せつけるんだ。』

『え? どう言う意味ですか?』

『パイプ椅子にエリは今座っている。これは敵も見ているだろう。』

『うん。』

『だから、心琴ちゃんからレッドのお面を受け取って、その一つをエリに被せるんだ。必ず顔を見えない状態にしてくれ。隠した上で雑居ビルに連れてくるんだ。』


(お兄ちゃん。とりあえず、第一目標はクリアです。あとは連れ出すだけですね!)


 ◇◇


 一方、朱夏が出ていった雑居ビルに鷲一が帰ってくる。


「またせたな!」

「おにいちゃん、おかエリ!!」

「鷲一! 急ごう! もうあんまり時間がないよ」

「おう!」


 そういうと、鷲一は連覇の上着を脱がす。

 脱がされた連覇は上半身裸だ。


「これ、皮膚についても大丈夫か? 首とか」

「わかんないよ! 私だって髪染めないもん」

「え、ちょっと! お兄ちゃんたち大丈夫!?」


 3人でギャーギャー言いながら連覇の髪を染め始めた。すると連覇の髪はどんどんと色が変わっていく。


「お、すげぇ、本当にスプレーしただけで色変わるんだな。ってか、沢山買ってきて大正解だった」

「茶色だけだったら遠目から見ても気付かれてたかも」


 色を混ぜながらスプレーする内に連覇の髪色はそれなりに明るい茶髪になった。その色はエリの髪色に似ている。


「おおー! かっこいいよ、連覇君!」

「うわぁ! すごい! ありがとうお兄ちゃん、お姉ちゃん!」


 連覇が自分の頭の色が変わったのを心琴が持ち歩いている手鏡で見て喜ぶ。


「さてと。そろそろ朱夏が戻って来る頃かな……?」


 そう話しているとドアが開く。


「お、おそくなりました!」


 エリの手を引っ張ってここまで走ってきた朱夏だった。


「おお! エリちゃん! ようこそ、私たちのアジトへ!」


 エリが心琴にハグをする。


「君が「エリ」? 僕連覇! よろしくね!」


 同い年くらいの女の子に連覇はドキドキしながら挨拶をする。

 エリはニコッとしてみせる。


「連覇くん、エリちゃんは喋れないんだ」

「え? どうして?」

「どうして……かは……わかんない」

「ふーん。ま、いいや! レッド被ってる人に悪い人はいないもんね!」


 そう言うと連覇はエリのお面を指差してニコッと笑った。


「おい、悪いが……そろそろ」


 鷲一が言いかけると、心琴があっち行けと言わんばかりにドアを指差す。


「鷲一は外に出てね?」

「わ、わかってるって! 言われなくてもみねぇよ!」


 鷲一はそそくさと扉から出ていく。


「連覇君とエリちゃんはこっちにいらしてくださいね」


 朱夏は元気な声でこういった。



「お着替えの時間ですよ!」



 ◇◇


 鷲一が扉の前でぼーっと待っていると、階段から海馬が帰ってきた。


「よぉ」

「ふぅ、5階まで階段を上るのは疲れるね」


 海馬は体力はあまりないみたいで階段を登っただけで息を切らしている。


「必要なものは買えたか?」

「もちろんさ」


 海馬が手に持っていた買いもの袋をちらつかせる。


「そっちはどうだい?」

「順調だと思う。今着替え中だ」


 鷲一が扉を指差す。

 するとタイミングよく扉が開いた。


「あ、海馬お兄ちゃんおつかれさまです!」


 朱夏が笑顔で出迎える。


「おまたせ! 二人のお着替え終わったよ!」


 心琴も顔を出す。そして部屋の内側に視線を促す。


 そこにいたのは『男の子のズボンとTシャツ、そしてランドセルに黄色い帽子をかぶった』エリ。

 そして、『フリフリのお人形のようなドレスを身にまとった』連覇がいた。


 連覇はとても照れ臭そうにしている。


「ぶっ……ふふ」


 真っ先に笑ったのは海馬だった。


「に……にあってる……ぶふ」

「金色のお兄ちゃんひどいよ! お兄ちゃんでしょ、この服着ろっていったの!」

「ごめん、ごめん!」


 と言いつつ、腹を抱えて笑う海馬を連覇は涙目で睨みつける。


「連覇、こう言う大人になっちゃダメだぞ」

「うん。ならない」


 むすっとしながら連覇は答えるのだった。



「さて、これから、連覇とエリには五芒星レッドの仮面を被ってもらう」

「『連覇・エリ入れ替わり作戦』の決行だね!」


 心琴は心なしかテンション高めにそう言った。


「なぁ、海馬? 本当に大丈夫か?」

「いいかい。今回の最終目標は、『おじさんに避難指示を出してもらう事』だ」


 みんなが頷く。


「あの時、おじさんは何かを見ている。挨拶が終わって振り替えった時、恐らくだけど、銃を構えている人を。だから、エリを庇おうとしてステージを飛び出し、最終的に撃たれるんだ」


 険しい顔で海馬は続ける。


「だから、エリはパイプ椅子に座っていてはいけない」

「うんうん」

「だけど、エリがパイプ椅子にいなければ、殺人犯もエリを追って動くだろう」

「犯人さんが動くとまずいの?」


 心琴は素直な疑問を打つける。


「もちろんまずいよ。僕らの事ばれたら、明日明後日の内に『現実』で殺されるだろうね」

「げ」


 心琴は思った以上に危険な事をしている事にちょっと気づいた。


「だから犯人には、いつも通りにエリを狙って貰う。エリは僕らの言葉を理解できてないから機敏に指示を守れない。その為に連覇君。君に影武者になってもらう」


 海馬はしっかりと連覇を見た。


「ね、ねぇ。そんな危険な役させて大丈夫かな?」

「出来ればさせたくねぇよな」

「大丈夫。今回は銃狙撃の前におじさんに動いて貰う手筈だ。万一その時間まで動きが無ければ走って逃げるんだ」


海馬がしっかりと連覇を見ると、連覇は不安げな表情のままだ。


「う、うん」

「一緒にエリを守ろう、連覇」


 連覇はちらっとエリを見る。

 エリはキョトンとしていたが、連覇を見ると微笑み返してきた。

 連覇は喋れない少女の笑顔を見ると、なんだか守らなくてはいけないような気がしてきた。 


「うん! 僕、怖いけど頑張るよ!」

「じゃぁ、俺らは次の持ち場へ。エリと心琴は隠れてて。朱夏と連覇は本ステージ前のパイプ椅子へ」

「了解!!」


 6人3チームはそれぞれの持ち場に移動していくのだった。

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