第15話 続・お泊り会議
4人と1人は朱夏の個室へと移動した。
えりは疲れていたのだろう、今は朱夏の天蓋付き巨大ベッドですやすや眠っている。
「さて。作戦会議を始めようではないか!」
海馬はすっかりいつもの調子へと戻っていた。
「作戦会議って言ってもな……具体的にどうしようか」
今までいろいろと動いてみたものの、一向に手掛かりらしい手掛かりも成果らしい成果もない。
「それじゃさ、一回状況を整理してみよう!」
「賛成ですわ。私はまだ状況を把握しきれていません」
心琴が人差し指を突き出して言うと、朱夏もそれに賛同した。
「じゃぁ、朱夏ちゃんに説明がてらこれまでの経緯をおさらいしていこう」
海馬は鞄からノートを一枚破って、紙とペンを用意する。
「鷲一、見取り図を描いてくれないか?」
「おう。任せとけ」
鷲一にペンと紙を渡すと鷲一は机に座りペンをとる。前回素直に褒められたからか、鷲一は嫌な顔をせず机に向かった。他のみんなは鷲一を取り囲むようにその筆の行く先を見た。
「まぁ、基本的な配置だが、駅の正面には広場があってそれを挟むように右がレンジャーショー用の特設ステージ。反対側、つまり左がお祭りの進行用の本ステージだな。夢では駅に沿ってたくさんの屋台が並んでいて、左右と正面は道路がつながっている。道路以外はビルだの店だの背の高い建物に囲まれている。ちなみにこの正面の道路をまっすぐ行くと心琴の家だ」
鷲一がすらすらと図面に書き入れていく。
「なんで、鷲一が私の家知ってるのさ……」
心琴はちょっと顔を赤らめた。
「朝いつもこっちからくるだろ?」
鷲一がしれっと返す。
「まぁ! いつか遊びに行ってみたいです」
「この家を見てから私の家を見せるのかぁ……ま、朱夏ちゃんならいいっか!」
「ほらほら、話がそれているよ」
あきれ顔の海馬が話を元に戻した。
「おぅ、すまん。で、俺らが夢を見始めるのは13:30頃。本ステージではお祭り開幕を知らせるブラスバンドが始まる」
「ふむふむ。よく覚えてるね。僕の記憶とも一致しているよ」
「そこから町長の開会のあいさつが始まるんだよね。13:45くらいからかな?」
心琴は記憶をたどりながら確認する。
「そうだね。5分近くただただ挨拶が続く」
「で、レンジャーショーの開幕の声がこの頃に聞こえ始めるんだよな。つまり13:50分だな」
「その後数分……13:55くらいになるのかな?おじさんが……ね」
「ええ……」
海馬は朱夏に気遣ってか明言を避けた。
朱夏も軽く相槌をうつに留める。
「レンジャーショーは、マイクのお姉さんがお約束とか10分くらい話をして、ちょうどレッドが登場しようとするその時に電車が突っ込んできたなぁ。だから14:00ジャストくらいかな?」
心琴もなるべく鮮明に思い出そうと人刺す指を顎に当てる。
「そうか、お前連覇に連れられてぎりっぎりまであそこにいたもんな……」
「え!? よく助かったね心琴ちゃん!」
海馬は少し身震いする。
「あはは……。鷲一が助けてくれたんだよ。じゃなかったらまた死んでた」
「また、死んでた?」
朱夏がその発言にキョトンとする。
「実はね、ここにいる全員が、七夕祭りで何もしなければ死んでるんだよ。夢では俺が記憶にあるだけで5回は死んでる」
海馬が苦い顔をする。記憶力が良いからか、きっと、体がボロボロに引き裂かれた時の記憶が残っているのかもしれない。朱夏は私たちがお祭りに呼んで、そこから夢に登場したのでこの経緯は知らない。
「俺は3回目でちょっとずつ記憶覚えれるようになって、生き延びれたのは4回目くらいからだな」
「私は2回目の時に鷲一が助けてくれたの。記憶を現実世界に引き継げたのは「生き残ってから」なんだよね……」
「嘘……」
想像を絶する話に朱夏は絶句した。
「あ、あはは! そんな悲しい顔しないで! 最初は夢のループを断ち切ろうと動いていたんだけど、私たちが記憶を引き継いでいるのはきっとこの惨劇を止めるためなんだって思うようになったの」
「どういう原理か全く不明だけど……もしかしたら選ばれたのかもしれないしな?」
できるだけポジティブに捉えようとしているのが朱夏にも分かった。
「さぁて、これからだよね。大事なのは」
綺麗に書かれた見取り図を4人で眺める。
「そう言えばさ。多分銃だよな」
主語を隠してはいるが、町長の殺害に使われている凶器の話だというのは全員解っていた。
「……多分な」
「ならやはり普通の人が相手ではないね。現実的に銃を持っている。しかも遠いところから狙撃ができる。日本じゃ考えにくいことばかりだ」
海馬は頭を抱えた。
「あの世界は夢なんでしょ? 夢なら何でもありなんじゃないかしら?」
確かに普通の「夢」なら何でもできる。
けれどもこれが普通の夢と大幅に違うことを朱夏はまだ知らない。
「いや、その可能性は低いよ。あそこにある物すべてがリアルなんだ。夢だからと言って歪んでいる物事は無いに等しいと言えるよ」
「多分、こっちからなんだよ」
急に鷲一が見取り図を指をさす。
「は? 何がだい? 主語が無さ過ぎてわかんないよ」
「いや、だから。銃弾が飛んできた方向だよ」
「!?」
全員が顔を見合わせた。
「俺、ステージから町長を見てたから……。なんとなくの方向だけどな」
「その情報はとても大事じゃないか! もっと詳しく教えてくれ」
鷲一がしっかりと記憶をたどっていく。
「本ステージから見て……後ろ……右斜め後ろからだ」
「って事は殺し屋がいるのは……本ステージの真後ろ……背の高いマンションがあるよね!」
一瞬の沈黙。
「……どうする?」
おずおずと心琴が口を開く。
「敵は意外と近くに潜んでいるみてぇだな。乗り込むか?」
「いや、待て。マンションは個室に待機されていた場合部屋を探し出すのは無理だろう」
「それに、見つけても相手は殺し屋です。倒せるとも思えませんよ……?」
「うー……近くにいることが分かったのに!」
鷲一も心琴も朱夏も困り果てていると、海馬が急に立ち上がった。
「な、なんだよ?」
そして、3人にいい笑顔でこう言った。
「……いいアイディアがある。聞きたいかい?」
ごにょごにょと3人に耳打ちをする。
「え……! 危なくない!?」
「ほうほう。でも、理にはかなってんじゃね?」
「なるほどです!」
「今日は7月5日。チャンスはあと2回しかない。みんな、死ぬ気で頑張ろう」
海馬の耳打ちにより、4人はお互いの目を見てしっかりとうなずいた。
もうすぐ夜が更けてくる。男2人はゆっくりと立ち上がった。
「それじゃ……俺らは向こうの部屋に行くから」
「うん! おやすみなさい!」
「また、夢でな」
そうして4人は各々用意された部屋で床に就くのであった。
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