第9話 チーム結成

「おはよう! 諸君!」




夢が覚め、現実世界での待ち合わせ。


海馬が駅の広場に堂々と現れたのは7時近かった。




「おい。約束の時間を30分も過ぎてるぞ」


「私たちもう、学校へ行かなきゃいけない時間なんだけど……」


「金色のお兄ちゃん遅いよぉ」




鷲一も心琴も連覇も呆れた顔で金髪のアロハ男をにらんだ。




「おお。そうだったのか。僕も授業があるが、9時からだからね」




海馬はの鷲一達の予定なんて知らないよと言わんばかりの態度だ。




「授業? 海馬は……大学生なのか?」


「残念。僕はまだ予備校生なのさ」




実に誇らしげに海馬は言う。




「そ、そうですか……」




流石の心琴も呆れた顔をしていた。




「どうしよう? これからの事話し合いたかったのに……」




残念そうにする心琴に海馬はさらりと言ってのける。




「まぁ、顔だけ合わせればいいだろ? 正直実際に顔を合わせる必要さえ僕には疑問だったけどね」


「はぁ? どうしてだ?」




鷲一は疑問で返す。




「LIVEのチームを作れば十分だろう?」




現代を生きる海馬はさも当然のように言ってのける。


しかし機械音痴の鷲一にはなじみのない言葉だった。




「まぁ、そう……だね……。チームを作れば……」




心琴はちらっと鷲一を見る。




「チーム??」




案の定一人だけついていけない人がいる。




「ちょっと、ふざけてる場合ではないよ、鷲一君」




海馬は少し面白くなさそうな顔をした。




「なんで俺の名前知ってるんだ!? 教えてないよな?」


一方で鷲一は慌てている。




「君のアカウント、本名だろ??」


「な、そんなところ見てるのかよ」




鷲一は自分のページをいまだにいじっていなかった。


鷲一のアカウントのトップページには本名が一番大きく表示されている。




「アカウントの名前の変え方が……わかんねぇんだよ」




最後の方はぼそりと小さくつぶやいた。




「くくくっ!! はーっはっは! 君も冗談なんて言うんだね!」




何も言えなくなってる鷲一に心琴が口を開く。




「あの、海馬さん。鷲一はアカウント作ったの一昨日なんですよ。操作全般わからないんです」


「……うそだろ!?」




海馬は目が出る程驚いた。


現代人、しかも自分よりも年下の男子がこんなにアナログな生き方をしているとは海馬は予想だにしなかっただろう。




「悪かったな!」




またまた、鷲一はそっぽを向いてしまう。




「君のあだ名はネアンデルタール人で決定だね!!」


「また原始人扱いかよ!!!!」




鷲一はポケットを手に突っ込んで駅に向かって行ってしまった。




「え、ちょっと鷲一!?」


「もう、時間なんだよ! 遅刻するっての。遅れておいて偉そうにしやがって……。心琴、その、チームだかなんだか作っておいてくれ!」






そう言い残すと鷲一は人ごみの中へ消えていった。






「あーらら。すねちゃった」


「海馬さんのせいですよ」




チーム……とは言い難いこの現状に心琴は大きなため息をつくのであった。




◇◇






ぺぽん。




夕方、帰路に着き、駅を通過した頃、スマホの画面には大きい文字でこう書いてあった。


『KO・KO・TO・シー・ホース・鷲一・五芒星レッド大好きがチームになりました。』


KOKOTOは心琴だろ?シー・ホースが海馬。




(って、五芒星レッド大好きって……まさか!?)




【KOKOTO:五芒星レッドは連覇君のアカウントだよ!】


【シー・ホース:小学生君もこれでチームの一員だね!】


【五芒星レッド大好き:ありがとう! きんいろのおにいちゃん! レンパね、ママのスマホ借りたの!】


【KOKOTO:ねー!これお母さんのスマホだもんね】


【シー・ホース:よく貸してくれたね!】




3人は好き勝手会話をし始める。


小学生の連覇でさえ、普通に使いこなしているのを見ると鷲一は時代を感じた。


自分だけ会話に参加できていない。




(なんとかせねば……。)




鷲一は少し焦った。


確か先日、右下の三角形を押せば入力できるって心琴が言っていたのを思い出す。


△を押してみると、マイクのマークとキーボードのマークが現れる。


ひとまず、マイクのボタンを押して「あー」と言ってみると……




【鷲一:あー】




そのまま、表示された。世の中は本当に便利になっていっているらしい。


ちなみにその横のボタンを押すとキーボードが出てくる。




(声を出せないときはこっちも使えそうだな)




始めてチャットができたことに少し喜びを覚える。


そして、さっそく心琴も反応を返してくれた。




【KOKOTO:おお! 鷲一も入力できたみたいだね! よかった!】


【鷲一:なんとかな】


【シー・ホース:おお。文明開化の花が咲いたようだね】


【鷲一:うるさい。タツノオトシゴめ】




心琴が言うのは本心からだろうが海馬は茶化しているに違いなかった。


ひとしきり挨拶だの日常会話だのが終わると心琴はようやく夢の話を切り出した。




【KOKOTO:さて、そろそろ本題なんだけど】


【五芒星レッド大好き:ゆめのはなし? そういえば、ママはゆめを覚えてなかったよ】


【シー・ホース:君のママも夢に出てきているのかい?】


【五芒星レッド大好き:うん。でもね、途中で消えちゃうの。泡になって風に飛んでくの】




今まであまり話題になっていなかった連覇の母親が「泡になって飛んでいく」事もこの夢ならではの不思議な現象だ。




【鷲一:らしいんだ。何か心当たりはあるか?】




チームの中で一番状況が分かっていそうな海馬に意見を促す。




【シー・ホース:僕だって何もかもをわかっているわけじゃないからね……。もう少し詳しく教えてくれないかい?】




流石の海馬もこの件については何も知らないようだった。


3人はこれまでの経緯を話しがてら、連覇の母親が泡になったらしい事を説明した。




【シー・ホース:ふむ……これもあくまで推論でしかないが……】




状況を聞いて、海馬は思った事をこう纏めた。




【シー・ホース:君のお母さんは、きっと死なないんだと思う】


【鷲一:どういうことだ? 俺の記憶では全員……死ぬぞ?】




鷲一は頭の中で事故のことを思い出すが、あそこに生存者などいなかった。


早いころから生き残った人を探して歩いていたので鷲一はそう言い切れる。




【KOKOTO:もしかして……逆にあの夢に出てくる人って、七夕に死んじゃう人だけなのかな?】




心琴の発想は自分とは真逆だった。




【鷲一:確かに……死ぬ人しかいないのは、生き残る人は全員夢から除外されているからって事か?!】


【シー・ホース:そう、とても不自然だよ。あの夢は】




 あれだけの人が亡くなる事故。


 歩いているすべての人が「死亡」はとても不自然だ。


「重症」あるいは「軽傷」の人間が居てもおかしくない。




【鷲一:そういえば、屋台で店に誰もいない所があるんだ】


【KOKOTO:え?そうなの?】


【鷲一:もしかして、店主が事故によって死なないから夢に「出演」していない?】


【シー・ホース:憶測の域は脱しないが、その可能性は大いにあるね】


【五芒星レッド大好き:……よかった】




一連の話を聞いて連覇は安心した様子だった。と言う事は、連覇のママとやらを探しに行く必要もなさそうだ。




【KOKOTO:うん。君のママはとりあえず助かるね!】


【五芒星レッド大好き:レンパ、ずっと不安だったから、ママいなくて】


【KOKOTO:よかったね!】


【五芒星レッド大好き:うん!】




チャットの文字にまるで連覇の声が聞こえるような気持ちになる。


きっとあの泣き虫小学生はいい笑顔をしているんだろうなと思うと鷲一も笑顔になった。




【シー・ホース:……まぁ、憶測でしかないんだけどね!】




だんだん海馬の性格がわかってきた気がする。


こいつは人が喜ぶと逆のことを言いたくなるひねくれものなんだろう。




【鷲一:海馬、お前空気読めないやつだろ】


【シー・ホース:空気は読むものじゃない!作るものさっ!】




そう、そして自己肯定感が強い。




【KOKOTO:……作るもの?】


【シー・ホース:そうさ! それが僕のやり方さっ!】


【KOKOTO:じゃぁさ……あの脱線事故で死んでいく人たちの未来……私たちで作り変えようよ!】


【鷲一:え?!】




海馬の一言から心琴が閃き、話は思わぬ方向へ大きく飛んで行った。




【シー・ホース:……ほぉ。詳しく聞かせてくれないか?】




しかも海馬まで結構乗り気だ。あの二人は一緒にして置くとろくなことが怒らないかもしれないと内心でため息をつく。




【KOKOTO:だからね、あそこの人に電車が脱線することを伝えて、みんなを助けるの!】


【鷲一:……俺、それ一回やったよ。ステージを乗っ取ってマイクでそのことを伝えたけどつまみ出されたんだよ】




思い切って行動したことがある。


死んでいく人を救えば夢のループが覚めると思っていた頃にイベントステージジャックを試みている。今となってはそれで心琴に出会えたからまぁ、よしとはするが、思い出したくはない。




【KOKOTO:あ……。そうだっけ?】




心琴は一回目の夢の内容はうっすらとしか覚えていないようで、そんな反応が返ってくる。




【鷲一:それで救えたのが心琴ひとり】


【シー・ホース:あっはっは。君達、本当に馬鹿だねぇ!! 嫌いじゃないけど、もう少し頭を使おうよ!】




その話を聞いて海馬が思いっきり鷲一を馬鹿にした。




【鷲一:喧嘩うってんのか!?】




あの時自分にできる最大限の事をしたのもあって腹立たしい気持ちが沸き起こる。




【シー・ホース:冷静に考えてみろ? いきなり、ステージに上がってきたどこの馬の骨ともわからない奴、しかもスタッフでもなければ警察でもない。そんな奴の言う事を聞く人なんていないだろう?】




だが、いつだって海馬は正論をついてくる。




【鷲一:ぐ……でも、それ以外にどうやるんだよ!】


【シー・ホース:おじさんを救うんだ】


【KOKOTO:え、おじさん? って町長さんの事だよね?】


【シー・ホース:そのとおりさ!】




海馬の発言を聞いて鷲一はあきれた。


海馬は町長を救うのが元からの目的だ。




【鷲一:それはお前が救ってほしいだけだろ】




吐き捨てるように鷲一はいった。




【シー・ホース:それもあるが、考えてみろ。あの場所で一番『権限』のある人間。それは誰だ?】


【KOKOTO:……町長……?】


【シー・ホース:そう、町長に『避難指示』を正式に発表してもらう】




鷲一はにわかには海馬の言うことが信じられなかった。




【鷲一:あんなに挨拶を聞いてもらえてない町長にそんな力があるのか?】


【シー・ホース:おま! ぶっ殺すぞ!? おじさんの悪口を言うな!!】


【KOKOTO:ちょっと!? 海馬さん落ち着いて!?】




海馬は町長のことが大好きらしい。突然罵声が飛んできた。




【鷲一:悪口じゃねぇけど……とりあえず悪かったよ】


【シー・ホース:ふん。あのイベントステージもおじさんが依頼主だ。お祭りを子供たちに楽しんでほしくて呼んだんだよ】


【KOKOTO:へぇ! 町長さんすごい人なんだね!】


【五芒星レッド大好き:町長さんはレッドとお友達なの!? すごいすごい!!】


【シー・ホース:だろ!? 心琴ちゃんと連覇君にはおじさんの凄さが分かったんだね】




まるで『鷲一だけがおじさんの良さを分からないんだよね』と言わんとしているようだ。


海馬とは性格面で相容れないものを感じる。




【鷲一:はぁ……まぁ、つまり。おじさんの権限をフル活用して、イベントステージのスタッフとか、警備員とかを通じて、速やかに祭りの人々を安全な場所へ誘導する。それがいいって事だな?】


【シー・ホース:ザッツライト!】




うれしそうな海馬のメッセージを呼んでため息がもう一つ出る。直接顔を合わせて話をしていたらぶん殴りたくなっていただろう。




【鷲一:結局ステージのスタッフさんだよりじゃねぇか】


【KOKOTO:まぁまぁ。……でもそれしかなさそうだね】




とにもかくにも、こうしてLIVEを使ったチームの結成で今晩やるべき事が決まった。




【シー・ホース:じゃぁ、今回の夢ではおじさんを助ける!】


【鷲一:了解!】


【KOKOTO:頑張ろう!】


【五芒星レッド大好き:えいえいおー!】




『チーム』というチャットグループに本当のチームを感じつつ鷲一はアプリを落とす。


こうしてチームの作戦会議は幕を閉じた。

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