第44話 ギルマスを助けに

「デトワール様、こちらをお持ちください」


「封筒、ですか」


「はい。冒険者ギルドからの依頼です。こちらをギルマスに渡して頂きたく思います」


 なるほど、最低限の体裁は整えてくれる訳か。


 助かる。


「承りました。リリ、彩葉。そっちはよろしくな」


「はいです! 任せてください」


「うんうん。秒で終わらせるから、死んじゃダメだよ?」


「任せとけ」


 俺も死にたくなんてないからな。


 互いに頷きあって、冒険者ギルドを後にした。



 封筒を服の中に仕舞い込んで、裏口から外へ。


 リリ達と別れて、町の中を歩いていく。


 ふと感じるのは、あの時と同じ視線。


「急いでるってのに……」


 4人、いや、5人か?


 あの時とは違って、周囲に人がいない細い道だから、相手の大雑把な位置はわかる。


 左右にある壁の向こうに1人ずつ。


 背後に2人。


 正面の曲がり角に1人。


 どう見ても、囲まれてる。


「このまま、見てるだけならいいけどな……」


 目的は未だに不明だけど、昼間の町中で襲ってきたりなんかしないだろ。


 そんな事を思っていた矢先、


「“占い師”の癖にギルマスになった、ってのはお前だよな?」


 不意に、剣を握った男が姿を見せた。


 隠し持っていた透明なナイフを引き抜いて、周囲に目を向ける。


 正面に1人。


 背後に2人。


 壁を乗り越えた者が、左右に1人ずつ。


 斬り掛かってくる様子はないが、全員が抜き身の剣を握り締めている。


 正面の男が、リーダーらしいな。


「……“占い師”? 何のことだ?」


「身を引くか、殺されるかを選べ」


 騙せるなんて思ってないが、問答無用か。


 身を引く?


 このタイミングで出て来たってことは、


「ボンさんの件。お前等も関わってるのか?」


 西の森でスライムが増えている。


 森の奥から助けだせ。


 そういう話だろ?


「……何の話をしている?」


 どうやら、違うらしい。


 だとすると、


「彩葉か?」


「…………」


 なるほど、


 悪霊のお出まし、って訳だ。


 見覚えはないが、全員が冒険者なんだろう。


「堅牢の壁か?」


 正面の男の眉があがったな。


 背後の1人も、肩をピクリと動かした。


 ボンさんの予想も、当たりか……。


 さて、どうする?


 正面は実力者。


 背後は2人。


 左の壁を乗り越えれば、大通りが近かったな。


 だったら……、


「やめておけ。俺たちが逃がすと思うか?」


「!!!!」


 視線を読まれたか?


 バッタリか?


 どっちにしろ、面倒なのはやはり正面だな。


「……堅牢の壁は、情報収集に定評がある。だったか?」


「万が一の場合は、そうなるがな」


 ここから逃がす気はない、って感じの目だな。


 他の5人も、徐々に殺気立って来ている。


「聞き方を変えよう。ひとりの女のために、俺たちと敵対する気はあるのか?」 


「…………」


 いつだったか、ボンさんにも同じ事を言われたな。


 そこ答えは、既に出ている。


「彩葉は飯の種だ。手放す気はない」


 人はパンだけに生きるにあらず。


 【木】に関係する幸せ。


 フルーツ食べ放題のためなら、命をかけれる。


『わかった。彩葉から手を引くよ』


 なんて言ったところで、無事に逃がして貰えるとも思えないしな。


 そんな思いで、ナイフを構え直して正面を見据える。


「ヤツの秘密に気付いたのか!?」


 何故か、正面のヤツの顔色が変わっていた。


 周囲の5人も、動揺しているように見える。


 いや、リーダーらしき男の豹変に驚いているのか?


 彩葉の秘密とは、何の話だ?


「気が変わった。お前はここで死んでおけ」


「元からそのつもりだろ?」


 秘密に付いては、考えている暇はなさそうだ。


 相手は6人。


 体力のあるうちに、面倒なヤツは倒しておきたい!


「俺の飯を邪魔すんな!!」


 渾身の力で駆けだして、突き刺せるようにナイフを握る。


「ほぅ、そう来るか」


 ドッシリと構え直す男に迫っていく!


--そう見せかけて、


 地面に倒れるように、背後に飛んだ。


「!!!!」


 地面に片手を付いて、両足で追い掛けて来ていた男の手を蹴り上げる。


 手から放れた剣を横目に、男の太ももにナイフを突き立てた。


「ぐっ……!!」


 引き抜きながら立ち上がり、男の肩を刺す。

 

 もう一度引き抜いて、男の背後に回りながら、ナイフを首筋に押し当てた。


「誰も動くなよ!?」


 はぁ、はぁ、はぁ、と肩で大きく息をしながら、周囲に目を向ける。


 足と肩から血を流した男が、バランスを崩してしゃがみ込んだ。


 抵抗するような力はないらしい。


 他の男たちも、俺の言葉を受けて、動きを止めたな。


「……奇襲の上に人質とは、卑怯なやり方だな」


「6人で取り囲むお前たちに言われたくはないな」


 そのまま男の体を盾にして、男たちから遠ざかっていく。


 曲がり角までは、もう少し……。


「仕方ねぇ。お前等! アイツごと切り捨てろ! 俺が許可する!!」


「なっ!?」


 本気か!?


 俺なんかを殺すために、仲間を見捨てるとか、あり得ないだろ!?


「まっ、まってくれ、ルナリオの旦那! 俺はまだ--」


「うるせぇぞ、役立たずが。堅牢の壁に、雑魚は必要ねぇ」


 本気の目をしてやがるな。


 周囲も、戸惑いってはいるが、リーダーの決定に従うつもりに見える。


 なんのために、生け捕りにしたと思ってんだよ!!


 どうする!?


 曲がり角を抜けても、大通りまでは距離があるはずだ。


「ヤツを囲め! 死んで逃がすなよ!!」


「ちっ!!」


 リーダーをる以外に、逃げ道はないのか!


 問題は勝てるかだが、そんな事を言ってる場合じゃねぇな!


--そう思った矢先、


「ぐっ……!!」


「なっ!?」


 俺の顔すれすれを背後から矢が通り過ぎて、リーダーの男の肩に突き刺さった。

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