第43話 6枚の剣を
状況が変わった。
ボンさんが死ぬのはヤバい。
親である冒険者ギルドが崩壊したら、飯が食えなくなる!
そこまで行かなくても、新しいギルマスが“占い師”に優しいとは限らない。
どうする?
俺は、どうしたらいい?
「あの、ご主人様。【8枚の剣】って、冒険者さんの事ですよね?」
「?? そうなのか?」
「はい。奴隷商の従業員さんが、そう呼んでました。『今回の護衛は、剣を雇う事にする』とか、『力もあるから、剣に高値で売れそうだな』とか、そんな感じです」
なるほど。
だとすると、
【8人の冒険者が2人に減る】
【巣に戻せ】
それが出来なかったら、
【ボンさんが死ぬ】
そんな感じか。
「ルーセントさん、調査メンバーの人数は?」
「冒険者が8名。あとは職員とギルマスです」
間違ってなさそうだな。
その中の6人が【朽ち果てる】のか。
西の森に行ったヤツを助けろ、って書かれた彩葉の占いとも一致する。
「ボンさんに連絡する手段は?」
「いえ、申し訳ないのですが……」
だよな。
そんな物があるなら、真っ先に動いてるはずだ。
こっちは憶測だけど、
「“占い”の結果だけじゃ、救出の依頼を出すのも無理。ですよね?」
「……はい。おそらくは……」
だよな。
スキルって言っても、所詮は占いだ。
俺の“占い”を信じてくれそうなヤツなんて、ここにいる3人と、ボンさんくらいだろうし。
仮に信じたとしても、
「優秀な冒険者に依頼するのは、時間が掛かりすぎる。ですよね?」
「はい……。信用出来る方で、手が空いていて、未知の死が待っているかも知れない場所に行ってくれる人物となると……」
いないよな。そんなヤツ。
だからと言って、このまま待っていたら、いずれ飯が食えなくなる。
どうする?
どうしたら、飯の危機を回避出来る?
「ルーセントさん。ボンさんが向かったのは、森の奥。そう言ってましたよね?」
「はい。西の森の奥ですね」
「木々は生い茂ってますか?」
「木々、ですか? 森なので、おそらくは……」
だよな。
「俺が行くしかないか」
他に選択肢がない。
飯の危機なのは俺たちだけだからな。
俺とリリ以外は、積極的に動かないだろう。
「!! ご主人様!?」
「行く!? いま、行くって言ったの!?」
「確かに有効な解決案だとは思いますが、それは流石に……」
3人とも同じような反応だが、他に手がない。
それに森の中なら、俺にも勝機はある。
「周囲に山しかない村で育った田舎者だからな。魔物から逃げる事くらいは出来るさ」
問題は、俺の体力と、命の危険と、見つけられない可能性が高いこと。
だけど、ここで待っているよりはよっぽどいい。
飯の確保のための危険なんて、今更だ。
「ごっ、ご主人様が行くのなら、私も!!」
「いや、リリには別で頼みたい事がある」
「ぇ……?」
不思議そうな顔をするリリに、タンポポの髪飾りを握らせる。
「これって……」
--第4王女の髪飾り。
買い取ってくれそうな場所もないから、ずっと持ち歩いていた。
たしか、友好の証とか言ってたよな。
『困った事があれば、私を訪ねてください』
そう言質もくれた。
「どうにか彼女に会って、今回の件を話してほしいんだ。頼めるか?」
「はい、もちろんです。でも、それなら、ご主人様も一緒に--」
「いや、そっちも時間が掛かりすぎるからな」
第4王女様なら、権力をガツガツ使って、どうにかしてくれると思う。
だけど、そもそもどうすれば会えるのかがわからない。
もし会えたとしても、動くのに時間がかかると思う。
「俺が森に行って、リリが王女に会いに行く」
俺が失敗した時の保険だ。
ボンさんの死に間に合わなくて、おめおめと帰ってきた時に、職を失わないためのアリバイ作り。
「俺との繋がりがあるリリにしか頼めない仕事なんだ」
奴隷の契約魔術には、俺の痕跡も入ってるらしいからな。
髪飾りと合わせれば、万が一にも会えるかも知れない。
それに、
「【新しい巣の加護を持ち、西の森より救え】」
彩葉を占った、出だしの文章。
【新しい巣】ってのは、俺とリリの事だろう。
「彩葉。リリの方に付いて行ってくれるか?」
【加護】ってのは、どう考えてもリリの事だろうからな。
これで彩葉の幸せ、つまりは新しい飯に繋がるはずだ。
今後、俺が彩葉のギルマスになるのなら、その飯の一部が俺に回ってくるはずだ。
「護衛って訳じゃないけど、力になって欲しい」
「う、うん。それは、いいんだけど……」
「けど?」
「……ううん。なんでもないよ。リリさんの事は、任せてよ」
「????」
どうにも彩葉らしくないけど、まぁいい。
リリは相変わらず、自信なさげな顔をしてるな。
「相手が相手だから、無理はしなくていい。もし成功したら、空砲でも打ち鳴らしてくれ。すぐに帰ってくるから」
「……わかり、ました。ご主人様がすぐに帰れるように、全力で頑張ります!」
「おう。よろしくな」
「はい!」
タンポポの髪飾りを優しく握ったリリが、力強く頷いてくれた。
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