第42話 飯の危機?

「悪い、通してくれ。急ぎなんだ!」


 俺の飯の危機なんだ!!


 マジでやべぇんだよ!


 そんな思いで、3日ぶりに家を出た俺は、息をきらしながら、冒険者ギルドに駆け込んでいだ。


 受付に並ぶ人々を押しのけて、人だかりの中を進んでいく。


「おい。あれって、例の占い師だよな!?」


「ギルマスの印!?」


「獣人の奴隷と、もう1人は悪霊付きか!? なにがどうなってんだよ!!」


「嘘だろ。なんで“占い師”なんかが……」


 周囲がざわついているけど、それどころじゃない。


 それにある程度の予想はしていたからな。


「おい、“占い師”。てめぇ、なに勝手なこと--」


「ギルマスの緊急要請だ。遮ればどうなるか、わかるな?」


 わざわざ邪魔するようなヤツには、襟元の印を指差して、冒険者ギルドの職員たちに目を向ける。


 恵んでもらった金で買った地位だが、今の俺は一般冒険者より優先される立場だ。


 初めて正面から入る、ってことで、わざわざ目立つ場所に印を着けてきたんだからな。


 面倒事の回避に役立って貰わないと、仕方がない。


『退けよ。ギルマス様のお通りだせ?』


 そんな思いで、ニヤリと笑ってみせる。


 ってか、なんだこれ。


 気持ちいい! 癖になりそう!


「……チッ」


 苛立たしげに睨んでくる男の横を通り過ぎて、ルーセントさんの前へ。


 挨拶なんかも全て飛ばして、リリが書いたメモを掲げて見せた。


【古巣○剣○西○森○り救え】


 彩葉を占った結果と、


【古巣の剣を西の森より救え】


 憶測で意味が通じるように埋めたもの。


 【西の森】と言えば、スライムの数が異常だったあの森の事だ。


 近々、調査が入ると聞いていたが、やはり何かが起きているのだろう。


--彩葉が救わなきゃいけない、何かが。


「緊急性の高いものだと判断致しました。こちらへ」


 聞き耳を立てていた冒険者たちに聞こえるように宣言をしたルーセントさんが、受付の仕切りを開けてくれる。


 表情を引き締めた彼女が、いつもの小部屋へと案内してくれた。



 壁際に立っていようとしたリリと彩葉を隣に座らせて、ルーセントさんと向かい合う。


 挨拶なんかを全て吹き飛ばして、腹の中にある物をそのまま切り出した。


「〈堅牢の壁〉が、西の森に関わるクエストは?」


 【古巣の剣】


 たぶんだけど、彩葉が今所属しているギルドの冒険者を指す言葉だと思う。


 どう考えても守秘義務に引っかかる質問だろうが、【救え】ってあるからな。


 ルーセントさんの【死】の件もあるし。


 これを無視となったら、


『ギルマスの癖に、何もしなかったのか!? 剥奪だ!!』


 なんて事になりかねないからな。


 無限パンが、崩壊する!!


 その焦りは、俺なんかよりも、ルーセントさんの方がわかっているのだろう。


「[スライムの異常発生。及び周辺の調査]ですね。調査メンバーの9割が〈平和の供給者〉で構成されています」


「やっぱりか……」


 予想通りと言うべきか、占いの通りと言うべきか。


 おそらくは、その調査で何かが起こるのだろう。


「出立は?」


「2日前。今はもう、森の奥です」


「!!!!」


 間に合わなかったのか!?


「今から調査を止める、なんて事は無理ですよね?」


「そうですね……。おそらくは……」


 だよな。


 彩葉に出た占いの結果を憶測で穴埋めすると、


【新たな巣の加護を持ち、都に成れぬ古巣の剣を西の森より救え。その身は樹木の女神とならん】


 そうなるか、それに近い可能性が高い。


 つまりは、『西の森に行った元仲間を助けたらいいことがある』だと思う。


 けど、救わなかったらどうなるとは書いてないんだよな。


「止めれないか……」


 ギルマスの立場維持の為には、どうにかするべきなんだろうけど、俺が急いだ事実は知ってもらえたと思う。


 ルーセントさんには知らせたし、ボンさんも庇ってくれるだろうしな。


 正直な話し、知らないヤツらが怪我しようが、命の危機だろうが、あまり興味はない。


 問題は彩葉なんだけど……。


「私? 私なら大丈夫だよ? お兄さんがどうにかしようとすると、絶対 面倒に巻き込まれるしね」


「……いいのか?」


「うん、仕方ない、仕方ない。それにほら。未知の調査なら精鋭の人達だろうから、会ったことすらない仲だからねー」


 それでも無関係じゃない。


 と言うか、もし助け出せたら、Aランクギルド内での彩葉の地位向上。


 左団扇生活のチャンスじゃね!?


「無理な事は無理なんだから、忘れる! うん! そんなことより、先にルーセントさんを占った方がいいんじゃない?」


「……そうだな」


 無理はしない堅実派か。


 確かに生きていくだけなら、パンで十分だもんな。


 確かにその通りかもな。


「ルーセントさん。聞いての通りです。占える文字数が増えたので、出来ればもう一度占わせて欲しいのですが……」


 こっちはこっちで【死】を回避しないと、専属の受付嬢がいなくなる。


 と言うか、さすがに知り合いの死は、飯が不味くなるからな。


「もちろんです。よろしくお願い致します」


 頷いて目を閉じたルーセントさんの手を両手で包んで、意識を魔力に集中させる。


 そうして迷路を突き抜けて、詠唱の言葉を口にした。


「〈彼女の幸せな未来を ここに〉」


【8枚の剣が2枚○○○、西の森○朽ち果○○。惨劇○彩ら○○者を巣○戻さ○○柱の死○待つ(60%)】


「……!!!!」


 目を引くのは、最後の言葉。


「【柱の死】」


 思わず声が漏れていた。


 【死】の対象は、ルーセントさんじゃなくて、はしら


 大黒柱? 支柱?


 どちらにしても、ルーセントさんにとっての柱と言えば……。


「ボンさん!?」


「!! ギルマスは、西の森の調査に同行しております!」


「!!!!」


 聞こえてきた声に、思わず息を飲み込んだ。

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