第41話 ダンジョン抜けますか

 飯が部屋の中にある!


 外に出る理由もない!


 って事で、宿から1歩も出ずに、1日経って2日経って。


 3日が過ぎた頃。


「抜けた……!?」


 髪の毛よりも細くなった魔力の糸が、細い通路を突き抜けていた。


 まぶたの裏に見えるのは、何もない大きな部屋。


 繋いでいたリリの手がピクンと跳ねて、背後から彩葉の声が聞こえてくる。


「なになに? ゴールな感じ?」


「ご主人様?」


「……いや、そんな感じじゃなさそうだな」


 見えている部屋は空っぽで、奥の方に小さな鍵穴が付いた鉄のドアがある。


 どう考えても、ゴールには見えない。


 ドアを開くのが正解なんだろうけど、細い糸じゃ、押すのも引くのも無理だ。


「どうしようもないな……」


「ありゃ、そうなの?」


「あぁ、先に進んだのは間違いないがな」


 他に行けそうな場所はなくて、鍵がありそうな場所も見当たらない。


 今回はここまでか……。


「〈彼女の幸せな未来を ここに〉」


 仕方なく諦めて、詠唱を口にする。



【ダン○○ンに新○○仲間○○出会い○求○○。樹木の花○祝福と盾○加護○(60%)】



「!!」


 パッと見ただけでも、確実に文字が増えている!


 穴は多いけど、最後の数字は【60%】。


 半分を越えたらしい。


 どう考えても、迷路を抜けた成果だろう。


 さて、肝心の意味は--


 なんて思って文字を目で追いかけていたら、


「私が、樹木じゅもくの花……」


 ふと、ささやくような声が、背後から聞こえた。


 振り向いた先に、呆然と文字を見詰める彩葉の姿がある。


 【樹木の花】


 その文字が、彼女の何かに強く響いたらしい。


「そうだよね。落ちこぼれでも、樹木の花でいいんだよね? 私は、私だもんね……」


 戸惑い半分、嬉しさ半分。


 そんな感じか?


 あまりにも雰囲気が変わりすぎて、彩葉を見守る事しか出来そうにない。


 そんな中で、恥ずかしそうに頬を掻いた彩葉が、小さく笑って見せた。


「ごめんね、お兄さんの『やったぜ!』 を横取りしちゃった。それで、それで? 占いの意味、わかりそうなの?」


 そう言って、リリの手元あるメモに、目を向けていた。


 あまりにも露骨な誘導だけど、まぁ、いいか。


 何かを隠すと言うよりは、照れ隠しに見えるしな。


「【ダン○○ンに】ってのは、やっぱダンジョンに、だよな? 【ダンジョンに新しい仲間との出会いを求めろ】か?」


「そうですね。私もそう思います」


「だよな」


 やっぱ、ダンジョンで新しい仲間に会え、って解釈っぽいな。


 問題は後半なんだけど、彩葉が知ってる感じだな。


「彩葉。答えれるならでいい。【樹木の花】とは?」


 漏れ聞こえた声からして、何かしらのほめ言葉だと思うけどな。


 そんな憶測も、大枠は正しかったらしい。


「えっとね……。私が産まれた国の風習なんだけど。樹木の精霊ドライアドの優秀な女性をそう呼んだりするんだよね」


「……なるほど。彩葉に相応しい呼び名って訳だ」


「えへへ、そういうこと」


 どこまでも恥ずかしそうに笑った彼女が、頬を赤らめて視線をそらす。


 唯一、わからなかった部分だが、どうやら単純な知識不足だったらしい。


「ちなみに なんだけど。王都にいるドライアドは、ハーフも含めて私だけ! だったり……、なんて……」


 当然 全ての住民を知っている訳じゃないと思う。


 けど、少なくともダンジョンに関わるドライアドの女性は、彩葉だけなんだろうな。


「なるほどね。【ダンジョンに新しい仲間との出会いを求めろ。樹木の花ドライアドの女性の祝福と盾の加護を】そんな感じか」


「ですね」


 チラリと振り向いた先にあるのは、リリ用に作って貰っている盾の姿。


 つまりは、【盾の加護】。


「彩葉を仲間にしたら、みんな幸せになれる」


 そんな占い結果だ。


 楽しそうな笑みを浮かべて彩葉の腕に抱き付くリリに、異論はなさそうだな。


「……えっと、みんななの?」


「あぁ。リリの幸せを占った結果だけど、彩葉が仲間になるなら俺は幸せだろうし。部下いろはを幸せにするのは、ギルマスおれの仕事だからな」


「…………」


 呆然と立ち尽くす彩葉を後目に、リリの方にチラリと視線を向ける。


 俺の意図をわかってくれたのか、彼女がふわりと微笑んで、首をコクコクと動かしてくれた。


「なぁ、彩葉。俺たちのギルドに入らないか?」


「ぇ……? ギルドに……? えっと、そんな簡単に、決めちゃっていいの?」


「いやいや、これでも厳重に審査したつもりだぜ? 冒険者関連の知識は俺たちよりあるだろうし、能力も人柄も申し分なし」


「…………」


 不安そうに表情を引き締めた彩葉が、楽しそうに笑うリリに目を向ける。


「いいの? 私なんかが入って……」


「もちろんです。ご主人様の目にも、ご主人様のスキルにも、間違いはないですから!」


 なんだよ、その根拠のなさは……。


 そうは思うけど、悪くない援護かな。


「彩葉、隣に来てくれるか? 彩葉の幸せな未来を占いたい」


「……うん。お願いしよっかな」


 加入を決めるのは、その結果を見てからでも遅くない。



【新たな巣○加護を持○、都に成○ぬ古巣○剣○西○森○り救え。そ○身○樹木の女神とな○○(60%)】 



「新たな巣……」


 そんな文字が、彩葉の前に浮かんでいた。

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