第40話 メイプル!!
「彩葉さん、彩葉さん。ほっぺにシロップが付いちゃってますよ?」
「え? ベッタリしちゃってる?」
「あっ、そっちじゃないです。ここですよ」
隣同士で彩葉と向かい合っていたリリが、おもむろに手を伸ばす。
指先が彩葉の頬に触れ、優しく拭う。
そのまま自分の口に近付けたリリが、指先をペロリと舐めて、目を細めていた。
「シロップ単体でも、濃厚で美味しいですね。さすが高級品、って感じです!」
「そだねー。薄めずにそのまま食べれるなんて、冒険者の特権って感じ! さすがお兄さん!」
「ですね! さすがはご主人様です!」
倒したのはリリで、採取したのは彩葉だけどな。
肉ばかりの夕飯よりもデザートの方が楽しそうなのは、さすが女の子って感じだな。
と言うか、今のやり取り、スルーでいいのか?
いや、俺はいいんだけとさ……。
「明日の朝食は、フレンチトーストにしますね。メープルシロップはまだいっぱいあるので、濃厚な感じで!」
「おぉー、いいね、いいね! あまあまにしよ、あまあまに!」
「まぁ、足りなくなったら、また狩りに行けば良いしな。どんどん使っていいぞ」
「にゅふふー! お兄さん、さっすがー!」
持ち帰ったメープルシロップの塊は、1個5000ルネンの高級品らしいけど、蟻の外殻が1匹5万の買い取りだったからな。
メープルシロップくらい、自分たちで食べても、罰は当たらないだろう。
と言うか、美味い物は、積極的に食べていく!
異論は認めない!!
そんな感じで
「色々と試してみるから、違和感があったら言うこと。いいな?」
「わかりました。何時間でもお付き合いします!」
ふわりと笑ったリリが、何時ものように猫の耳をピンと立てて、目を閉じた。
チラリと背後を見ると、腕を胸の下で組んだ彩葉が、興味深そうに俺たちの姿を眺めている。
「見てても面白くないと思うぞ?」
「そんな事ないよ。お兄さんの格好いい背中と、リリさんの無防備で可愛い顔を見れるから! あの綺麗な文字も真っ先に見たいし!」
詳しく聞くと、リリの方からじゃ鏡文字でしか文字が見れないらしい。
可愛さうんぬんに関しては気にしない事にして、魔力に意識を注ぎながら目を閉じた。
「ん……?」
ふと感じたのは、暗闇の中に見える小さな穴。
目を開くと穴が消え去り、魔力を意識するとまた見えてくる。
「繋いだ手を離しても消えるのか……」
「ご主人様?」
「いや、新しい発見に驚いただけだよ」
“占い”に魔力を込めようとすると見えるのだがら、無関係ではないだろう。
腹にある魔力を細い糸にすると、その穴に入りそうな気がした。
「リリ、それに彩葉も。違和感を見付けたら直ぐに止めてくれ。いいな?」
「わかりました」
「任せといてー」
前後から聞こえる頼もしい声に集中力を高めて、細い魔力の糸を穴に近付けていく。
「んっ……」
「リリ!?」
慌てて操作をやめて目を開くと、目を閉じたままのリリが、恥ずかしそうに頬を赤くしていた。
「ごっ、ごめんなさい! 大丈夫です! ご主人様の手から、暖かい物が流れて来てビックリしただけなので。そのまま続けてください」
暖かい何か、か……。
リリの表情を見る限り、痛い訳でも、無理をしている訳でもなさそうだな。
「……わかった。痛かったりしたらすぐに言えよ?」
「はい」
もう一度、集中力を高めて、穴の中に魔力を送り込む。
どうやら迷路のような空間になっいるようで、果てしなく続いているように見えた。
「彩葉。俺達に変化は?」
「ないよ。魔力はわからないけど、目に見える変化はない」
「わかった」
ゆっくりと魔力を動かして、そのまま奥へと進んでいく。
どうやら進めば進むほど、通路が狭くなるらしく、やがて魔力の糸よりも通路の方が細くなった。
その魔力を維持したまま目を開いて、リリの手を見詰める。
「〈彼女の幸せな未来を ここに〉」
直感を信じて、浮かんだ言葉を紡ぎ出した。
【ダン○○○に○○○仲間○○○会い○○○○。○木○○○祝福と盾○○護○(35%)】
「……増えた、のか?」
見比べないとわからないが、少しだけ増えた気がするな。
「リリ、体は大丈夫か? 体調に変化は?」
「大丈夫です。メモも任せてください!」
リリの顔色を見詰めみたけど、普段と変わらなく見える。
テキパキと文字を写して、過去の文字と見比べる姿も普段通りだな。
「ご主人様、最後の数値が9%増えてます! 文字も【祝】と【護】が増えました!」
「ほむほむ、大成功って感じだねー! 残り65%?」
「みたいだな」
どう考えても、魔力で迷路を進んだ成果だろう。
糸をより細くして奥まで行けば、文字が増えると考えて良さそうだ。
「次は彩葉を占いたいんだが、大丈夫か?」
「もっちろん! と言うか、お兄さんは? 2人続けてとか、大丈夫なの?」
「あぁ、魔力の減りや体力を考えると、続けては2人が限界っぽいけどな」
と言うよりは、今の感覚を忘れないうちに、彩葉も試してみたい。
たったの2文字かも知れないけど、増えた方がいいのは間違いないしな。
そんな思いを胸に、彩葉を正面に座らせて、迷路を進んでいく。
「んっ……! なるほど、なるほど。これは声が出るのも仕方ないね~。温かい感じで、温泉に入ってる気がする~」
「そうなのか?」
「おうともさ~。体全体がにゅわわん、って感じ?」
いや、知らねぇよ……。
痛くないのなら、いいんだけどさ。
「〈彼女の幸せな未来を ここに〉」
【新○○○○加護○持○、都に○成り○○○巣○剣○○○森○り○○。○○身○○○の女○とな○○(35%)】
「……増えたな」
「うん! でも、わっかんないね!」
「ですね……」
まぁ、そうは言っても、努力の方向性は見えたな。
「魔力をもっと奥まで届かせればいい。そんな感じだな」
飯のためじゃないけど、ちょっとだけ頑張って見ますかね。
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