第39話 本人なら、なにか……。
俺やリリが分からなくても、本人なら!
「なるほど、なるほど! すっごく綺麗だけど、わっかんないねー!」
「だよな……」
ささやかな希望も、呆気なく消え去っていた。
だったら、リリやルーセントさんを占った結果に対して、何かしらのアドバイスでも!!
なんて思ったけど、
「うん、うん。こっちも心当たりなしだねー。【木】ってのは確かに私っぽいけど、これだけじゃなんともー」
「そうなるよな……」
新しい文字が増えた訳じゃないから、当然と言えば、当然か……。
彩葉もリリも魔力は扱えないらしくて、ボンさんの言葉に関しても進展なし。
「でもでも、たしかに隠さなきゃダメだよね。より良い未来を選べて、悪い未来は回避って感じでしょ?」
「……そうなのか?」
「おうともさ! これは“占い師”じゃなくて“予知師”だよ! 改名しなきゃだね! すっごいスキルだよ!」
「……」
予知か。
そう聞くと、確かに すごいような気がしなくも--
「もちろん、言葉の意味がわかったら! だけどねー」
にひっ、と笑った彩葉が、口元をやわらげてペロリと舌を出していた。
手を伸ばした彩葉が、ポンポンと肩を叩く。
「今のままでもすっごく綺麗だから、落ち込んじゃダメだぞ?」
ついでとばかりに頭を撫でて、よしよし、なんて微笑んでいた。
持ち上げてから突き落とすとか、いい性格してんなぁ……。
やばい、予想以上にへこむぞ? まじで、へこむぞ!?
まぁ、彼女なりのエールなんだろうけどな。
それに、誉められて浮かれてる場合じゃないのもわかってる。
「精一杯やるよ。特に、ルーセントさんのヤツは急ぐから」
「……そうだね」
【木】と【死】と【新】。
期限すらハッキリしないけど、【死】が優先なのは間違いないと思う。
それに、リリや彩葉を占った結果にも、【死】みたいな文字が、隠れる可能性だってあるんだよな。
「やっぱ、文字数を増やさなきゃダメだな」
彩葉を占ったおかげで、ってのもおかしいけど。
人数を増やしても謎が増えるだけなのは、嫌でも理解した。
やっぱ、占いの精度を高めるのが、今出来る最善策みたいだ。
「飯まで自分の魔力と向き合ってみるよ。リリ。夜飯を頼めるか?」
「もちろんです。任せてください」
ほんの少しだけ不安そうな目をしたリリが、猫耳を揺らしながら頷いてくれる。
リュックを手元に手繰り寄せた彩葉が、中から蟻の外殻を覗かせていた。
「私はリリさんの盾作りでいいんだよね? 端っこ借りるよ~?」
「あぁ、好きに使っていいからな」
「あいあいさー」
ふにゃんと敬礼をした彩葉が、【木】のメモを流し見て背を向ける。
冷蔵庫の前へと駆けていったリリが、きらきらした瞳で振り向いていた。
「ご主人様、ハンバーグと唐揚げとチャーシュー、どれがいいですか?」
「どれもうまそうだけど、あえて言うならハンバーグかな。彩葉は?」
「ん? 私? んー、美味しくて、お腹がいっぱいになるやつ!」
「……だそうだ」
なんだそりゃ、って感じだけど、わかる!
言いたいことは痛いほどわかる!
金は減り続ける一方で、まともな飯なんて食えてないだろうしな。
2日前までの俺なら、同じ答えだったと思う。
それはたぶんリリもだ。
「わかりました! いっぱい食べれるように、がんばりますね」
「えっ? あっ、うん。お願い、します……」
「はい!」
どうやら素直に受け止められる予定じゃなかったらしい。
目を丸くしてパチパチと瞬きをした彩葉が、リリの楽しそうな笑みを呆然と見詰めていた。
「んー! 美味しい! こっちも抜群! リリちゃん、すごい!」
「あっ、ありがとうございます! でも、すごいのは私じゃなくて、ご主人様ですよ」
「それもそうね! ありがや、ありがたや~」
拳より大きなハンバーグやジューシーな唐揚げを頬張った彩葉が、目元をしっとりと濡らしながら、俺に向かって手を合わせる。
なぜ、拝むのか。
美味しいもの食べて涙ぐむのは理解出来る。
なぜ、リリと2人で拝んでいるのか。
まぁ、どう見ても、リリが原因だけどな。
「なぁ、リリ。どうしてそうなった?」
「んゅ? なにがですか?」
「リリの料理がすごいのはわかる。めっちゃうまい。肉を食えて幸せだ! それが、なぜ俺がすごいに切り替わった?」
「えっと、私は調理をしただけで、食材を与えてくれたのはご主人様ですから」
「そうそう! リリさんの言う通り! んー、おいしー!」
リリに関しては今更感があるけど、彩葉の目も割と本気に見える。
まぁ、実害はないから、いいけどさ。
「それにしても、うまいな」
「うんうん。ハンバーグ、うまうま!」
「ありがとうございます! みんなで採ってきたメープルシロップでプリンも作ってみたので、食後に持ってきますね」
なるほど!
1個だけ売らずに残したのは、そう言う訳か。
スイーツまで食えるなんて、ギルマスやばくね!?
それもこれも、こんな俺に付き合ってくれた2人のおかげだよな。
「彩葉もリリも、腹一杯食えよ?」
「はーい!」
「ありがとうございます」
もしかして、俺、幸せなんじゃないだろうか?
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