第22話 引っ越しました!

 リリの下着選びを待ってから、武器代わりに鉄の棒を2本だけ買って、冒険者ギルドを後にする。


 本当は、短剣や盾なんかも欲しかったんだけど、1番安いナイフでも金が足りず。


 西の森なら木の枝で十分だからと、リリの服を優先した結果だった。


 たくさんの服が入った籠をリリに背負ってもらって、昨日と同じ道を宿に向かって歩いていく。


「2人合わせて、小銀貨4枚か……。かなり安くしてくれたんじゃないか?」


「たぶん、そうだと思います。でも本当に良かったんですか? 奴隷の私に綺麗な柄の入った物なんて……」


「いいさ。可愛い子はオシャレしなきゃもったいないしな」


「ひゃぅ……!! えっと、あの……、ありがとうございます……」


「それに、リリが稼いだお金だからな」


 結局買ったのは、リリ用が3着、俺用が1着。


 リリの下着も入っているからあまりマジマジとは見れないけど、ツルを編んだ隙間から可愛らしい服が見え隠れしている。


 彼女自身も早速着替えたらしく、今はゆったりとした白いワンピースの上に、可愛らしい上着を纏っていた。


「その服も似合ってるぞ」


「本当ですか?」


「あぁ、清楚なお嬢様、って感じだな」


 背中の籠が悪目立ちするけど、可愛らしさ増し増し。


「あの籠を背負ってる子、可愛いよな」


「猫人の天使だな」


「わかる~」


 相変わらず見られてはいるが、気持ちは分かる。


 俺に対する嫉妬の視線も、甘んじて受け入れるしかなさそうだ。


「この辺で昼飯にするか。なにか食べたい物は?」


「あっ! えっとですね。ルーセントさんが、『買わずに帰った方がいいですよ』って、言ってました」


「ん? そうなのか?」


「はい。理由は『帰ってからのお楽しみ』だそうです」


 何だろうな?


 リリも知らされていないように見えるけど、相手がルーセントさんなら大丈夫だろう。


 素直に従っておくか方が賢明か。


 そんな気持ちで宿へと帰り、部屋につながる廊下に目を向ける。


「おや。あんたたちは、8号室の客だね? ちょっと待っとくれ」


 その途中で、恰幅の良い女性に、背後から呼び止められた。


 高そうな服に、豪華な装飾の数々。


 余分な贅肉が腹に付くなんて、間違いなく金持ちだ!


 たぶん、この宿のオーナーだろう!


 うらやまし過ぎる!!


「はいよ、新しい部屋の鍵」


「新しい部屋?」


「おや、聞いてないのかい? 冒険者ギルドの金で泊まらせていいことになったからね。もとから泊まってた冒険者はみんな、ランクアップさね」


 部屋が足りないからと、冒険者ギルドとの話し合いで、宿側がごり押ししたらしい。


 俺たちは、1泊6000ルネンの部屋に移動だとか。


 無料で!


「気に入ったら、ずっと高い部屋を借りてくれてもいいさね。ふひひ」


 そのまま鍵を押しつけて、女性は受付に戻っていった。


 手の中にある鍵を見下ろして、リリに目を向ける。


 昨日の部屋の2倍って聞くと驚きもするが、支払われるのは俺の金じゃないからな。


 どうせタダで泊まれるのなら、高い部屋の方がいいに決まっている。


「それじゃ行くか」


「はい!」


 目を輝かせたリリと共に元の部屋から本を回収して、2階にあがる。


 廊下もドアも、昨日の部屋とほとんど一緒だったけど、ドアの向こうは全てが違っていた。


「わっ……!」


「広いな」


 思わずそんな言葉が口から漏れていく。


「ご主人様、見てください。台所がありますよ!? それにお風呂も!」


 部屋の大きさは、昨日の2倍はあって、風呂とトイレ、冷蔵庫付きの台所。


 玄関には下駄箱が、部屋の中には備え付けのタンスまであった。


 衝立で分けられたベッドもひとまわり大きくて、見るからにふかふかだ。


「ずこいな」


「はい。ご主人様のすごさには負けますが、素敵な部屋ですね」


 両手を広げて、楽しそうにしているのはいいのだが、どうしてそうなった?


 まぁ、いいんだけどさ。


--ピンポーン。


「ん?」


「誰か来たんでしょうか?」


 不意に鳴り響いたチャイムの音に、リリが動きを止めて警戒心をにじませる。


 ドアに目を向けたリリを手で制して、空いた穴から外を眺めた。


 立っていたのは、ついさっき見た、恰幅のいい女性が1人。


「冒険者ギルドから届け物さね。外に置いとくから、勝手にとってきな」


 それだけを言い残して、ボテリと背を向けた。


 ドアの外にあったのは、大きな木箱と、デトワール様宛と書かれた1枚の紙。


「ぐっ……、重たいな……。リリ、悪いけど手伝ってくれるか?」


「はい!」


 2人がかりで何とか部屋の中に運び入れて、蓋に手をかける。


 見えてきたのは、肉の塊や色とりどりの野菜たち。


「食材の山ですね!」


「みたいだな」


 差出人はボンさん--になっているけど、たぶん、冒険者ギルドからだろう。


 手紙には、『西の森を中心に活動する全ギルドへの補填

』だとあった。


 さすが国営ギルド!


 綺麗なサシが入った美味しそうな肉や、新鮮な野菜、干して乾燥させた魚まで入っているじゃないか!


 あぁ、ボンさん。あなたが神だったのですね!!


「昼飯は買わずに帰れ、ってのはこう言うことか」


「そうみたいですね」


 調理場も食材もあるし、今日のメインは高級肉に決まりだな!


 そんな思いで、箱の中を覗いていると、奥地に小さな箱が見えた。


「こっちは、ルーセントさんから?」


 彼女らしい綺麗な文字で、『諸事情により手渡し出来ず、申し訳ありません』と書かれている。


 最後の方は急いでいたのか、若干走った文字になってはいるが、どうやらギルドマスターに与えられる印が仕上がったらしい。


 小さな木箱をパカリと開くと、宝箱と盾が描かれた銀色のエンブレムが、重く輝いていた。

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