第2話 希望の道

「金色の、文字……。占いか?」


 詳しくは知らないけど、宙に浮かぶ文字なんて他にはないと思う。


 ここには俺しかいないし、占ったのは俺で、対象も俺だよな?


 と言うか、


「体が動く?」


 さっきまでと、体の動きが全然違う。


 何日も飯を食べてないはずなのに、満腹感があるのはなんでだ??


 ぼんやりしていた周囲も、なんだかスッキリ見えるな。


「なにがどうなった……?」


 そう悩んでみても、なに1つわからない。


 目の前の文字が占いだろう、ってのも憶測だ。


 だけど、確かに文字が浮かんでいて、体が動く。


【南門の前にある小さな宿屋。その裏道でタンポポの花と希望の道を開け(100%)】



 もし、この金色の文字が、自分を占ったものだとしたら?


「飯が、食えるんじゃないか……??」


 【タンポポ】や【希望の道】の直接的な意味は分からないけど、おそらくは、


『小さな宿の裏にある道に行けば、いいことがある』


 そんな感じだと思う。


 正直な話し、状況はいまいち掴めない。


 だけど、体は普段よりも軽く、動くことに支障はない。


「行ってみるか……」


 ほかに行くあてもないし。


 そんな思いを胸に上半身を起こして、周囲に目を向ける。


 降り続いていた雨も、いつの間にか、止んでいたらしい。


 雲の切れ間から差した光が、『南』の文字を明るく照らしていた。


 



 周囲の目を避けて、細い道ばかりを道を進んでいく。


 そうしてたどり着いたのが、南門と王宮とを繋ぐ、王都のメイン通り。


 大きな道の両脇に露店が軒をそろえて、絶え間なく荷馬車が行き交う、そんな場所だ。


 そう記憶していたんだが……。


「ここ、南門であってるよな?」


 見上げた先にある巨大な門には、確かに『南』の文字があり、至る所に『南門』と書かれた旗が揺れている。


 それなのに、行き交う荷馬車どころか、露店の姿すらないのはどういうことだ??


「近くに魔物の群でも出たのか!?」


 なんて思ったけど、門を守る兵士たちに慌てた様子はない。


「……まぁ、俺には関係ない話しか」


 そう思い直して、周囲に目を向ける。


 どんな理由があっても、行かない理由にはならないし。


 むしろ、立ち去れ、って門番に言われる方が怖いな。


「えっと……、小さな宿、小さな宿……」


 ここは肉屋で、隣が剣と盾。


 そっちは奴隷商か。


「今さらだけど。門の近くに宿なんてないよな、普通……」


 門の開閉音が騒がしくて、敵や魔物の侵入を許せば、真っ先に狙われるような場所だ。


 そんな場所で、安心して寝られるはずがないし。


 こんな所に宿なんて作らないよな?



--なんて思っていた矢先、

 


「ん?」


 ふと、店と店の隙間に目が向いた。


 どうやら細い道になっているらしく、その先に古ぼけた建物が見える。


 どう見ても使われていない崩れた屋根。


 その下に、ベッドの絵が描かれた看板が転がっていた。


「あったな」


 見るからに小さな宿だ。


「……あったけど。なんだって、こんな場所に……?」


 閉店して数十年、と言ったところだと思う。


 立地は悪いし、大通りからは看板が辛うじて覗ける程度。


「そりゃ、つぶれるよな」


 なんて思うけど、建てた人には、何かしらの勝算か、理由があったのだろう。


「まぁ、なんだっていい。この先だな」


 この先に、希望めしが……。


 貯まっていたつばをゴクリと飲み込んで、通路の中へと入っていく。


 確か、建物の裏にタンポポが咲いている、みたいな文章だったよな?


「あん……? 行き止まり?」


 どうやら道の先にあるのは、つぶれた宿だけらしい。


 細い道は、そのまま宿をコに囲むように進み、宿の真後ろで途切れていた。


 あるのは、朽ち果てた宿の壁と、苔むしたブロック塀。


 何処かから飛ばされて来た大きなゴミ箱や木の枝が散乱してる。


「南門の前にある、小さな宿の裏道。……ここで、あってるよな?」


 確証はないが、他に該当する場所があるとも思えない。


「タンポポは? 飯は……?」


 タンポポの方はどうでもいいけど、希望は?


 飯は??


「どこかで間違えたのか?」


 考えたくはないが、占いが当たらなかった?


 詳しくは知らないが、絶対に当たるものじゃないと聞いたことがあるし……。


「もしくは、転がってるごみ箱の中に、飯が?」


 そんな思いで、ごみ箱の蓋を開く。



「--ひゅっ!!」



「……は?」



 金色の髪と、白い肌。


 タンポポの髪飾りが、目の前で揺れていた。

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