落ちこぼれとバカにされた少年が 自由なギルドを作る

薄味メロン@実力主義に~3巻発売中

第1話 落ちこぼれからの脱出

「長らくお待たせしました。これより、新人冒険者の採用面接をはじめます」


 聞こえて来た司会の声に、人々が息をのむ。


 一斉に光が消えて、スポットライトが俺だけを照らしていた。


「1人目は、16歳の少年です。彼は馬車で3日かかる王都まで道のりをその足で歩いて来ました。Fランクの魔物を討伐した実績もあります!」


 一度そこで言葉が切れ、「ほぉ」や「おぉ!」などと言った声が聞こえてくる。


「悪くないな」


「ええ。外泊も魔物の討伐も経験済みであれば、使えるかも知れませんね」


「うちで育ててみるか」


「いやいや、おたくには荷が重いでしょ。我々が確保しますよ」


「何を言う。彼にはうちのようなフレッシュなギルドこそ--」


 実を言うと、長い距離を歩いたのは、馬車に乗る金がなかったから。


 Fランクの魔物スライムを倒したのも、死にたくない一心で振り回した木の棒が、たまたま当たっただけ。


 だけど、ウソは言ってない。


 もしかしたら、このまま何処かのギルドに採用されて、俺も冒険者に!!


 なんて思っていると、


「--保有スキルは “占い師” 。プロフィールは以上です」


 あれだけ騒がしかった客席の声が、一瞬にして消え去っていた。


 誰かが持つ青いライトが光り、男の声が聞こえてくる。


「すまない。もう一度、保有スキルを教えて貰えないだろうか?」


かしこまりました。1時間前の調査ではありますが、“ 占い師 ” との結果が出ております」


「……そうか、ありがとう」


(なんだ無能かよ)


(期待させやがって。さっさと消えろよな)


 そんな声が聞こえていた。




★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★




 不作に見舞われた故郷を出て2ヶ月。


 俺は、空腹さえ感じなくなった腹を手で押さえながら、冒険者ギルドに出来た長い列に並んでいた。


「おい、見ろよ。例の“占い師”だぜ」


「へぇ、あれがそうなのか。“占い師”のくせに冒険者に成りたいとか言うバカだろ?」


「ある意味すげぇよな。平民の“占い師”なんて、ゴミ漁りの仕事が限界なのによ」


 ぷははは、と俺を笑う声が聞こえてくるけど、気にするだけの余裕なんてない。


 お腹がすいた。


 目眩がする。


「次の方、どうぞ」


「どんな仕事でもいいんです。何か、俺に仕事を……」


 最後にご飯を食べたのは、いつだったのか。


 4日? 6日?


 ダメだ。頭がぼーっとする。


「申し訳ありません。冒険者の資格をお持ちでない方への依頼は、今日も来てなくて……」


「……そう、ですか」


 ぷははははは! と、飯に成らない笑い声が、背後から聞こえていた。


 どうやら冒険者ギルドここに、飯はないらしい。


 商業ギルドなら、飯があるだろうか?


 貿易ギルドなら?


「おい、“占い師”。お前、いつ死ぬんだよ? 得意の“占い”で当てて見たらどうだ?」


「おっ、いいねぇ。ついでに、“自分を占ったら死ぬ”ってヤツも確かめてくれよ」


「「ぷははははははははは」」


 その前に、鍛冶師のギルドに飯を探しに行く?


 もう、いっそのこと、無断で外の森に行ってしまおうかな?


 街に帰って来れなくなるけど、森なら飯が--


「てめぇ! 無視してんじゃねぇよ!!」


 誰かに肩を掴まれた。


 だけど、振り向くだけの気力はない。


 振り向いたとしても、飯は貰えないと思うし。


「てめぇ、平民の“占い師”のくせに、死にたいらしいな!!」


 むしろ、このまま振り向かずにいたら、飯が貰えたりしないだろうか?


 殴られるか、剣で斬られるかすれば、慰謝料の代わりに飯が--


「おい、やめとけ。ギルド内じゃ面倒事になるぞ。それにあれだ。そんなヤツの相手なんて、時間の無駄だろ?」


「……ちっ。それもそうだな」


 不意に肩が軽くなって、よろめいた。


 だけど、それだけだ。


 ごはんは、貰えなかったらしい。


「雨……?」


 あてもなく歩いているうちに、いつの間にか、外に出ていたみたいだ。


 大粒のしずくが額に当たって、頬を冷たさが流れ落ちていく。


「水で腹が膨れればいいんだけどな……」


 雨と一緒に、パンでも降ってくれないかな?


 そんな思いで、水しか落ちて来ない空を見上げて、口を広げる。


「…………冷たい」


 そのまま力が抜けて、ぬかるんだ地面に、背中から倒れていた。


 見えるのは、地獄のような黒い空。


 痛みは感じない。


 それどころか、体の感覚がない。


「なにか、食べ物を……」


 闇に向かって、手を伸ばす。


 だけど、指先に触れるのは、腹が膨れない雨ばかり。


「俺に、食い物を……」


 そう願っても、無駄だった。


 動かない体に雨が当たって、地面に流れ落ちていく。


「天国なら、腹いっぱい、食えるかな……」


 そんな淡い期待も頭に浮かんだけど、たぶん、ダメだと思う。


 願い続けても、パン1つくれない神がいるような天国だ。


 地獄に行っても、食べ物は、たぶんない。


「なにか、食い物を……」


 かすれる声で願っても、無駄だった。



--そんなとき、



「〈運命の神々よ。我の行くしるべを示し給え〉」



 聞いたこともない言葉が、口から出ていた。



--腹が、熱い。



 マグマのような何かが、腹の中に湧き上がって来る!


「ぐっ……」


 なんだ!?


 何かが俺の胃を広げている!?


 苦しい! 気持ち悪い!!



--死ぬのか?



 俺は、飯も食えないまま、死ぬのか?




「……っはっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」



 そんな思いとは裏腹に、遠くを歩く人々の、ガヤガヤとした声が聞こえる。


 降り注ぐ雨が、冷たい。



【南門の前にある小さな宿屋。その裏道でタンポポの花と希望の道を開け(100%)】



 目の前に、金色に輝く文字が浮かんでいた。

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