第42話



 今度こそ殺されると思い、思わず目をつぶったその時。

「何してるんだ、勝弘!逃げろ!」

 その言葉と共に、ムカデの女の腹から刀が飛び出た。

 見ると、俺の落としたアゲハ丸を拾った操生が、全裸になって背後から女を刺し貫いている姿があり、思わぬ深手を負った女はムカデと共に悲鳴を上げた。

 俺はすぐさまその場を跳ね起きると、操生と共に女の背後から刀を抜き、そのまま女から距離を取った。

「悪い操生、あと、服どうにかしろ」

「うるさい!白無垢脱ぐのに手間取ったんだよ!あんなもん着たことないからどう脱げばいいか分からないだろ!」

 耳まで真っ赤にしながら怒鳴り声を上げる操生に、それもそうかと思った俺は、とりあえず上着だけ脱いで操生に渡した。

「それ着とけ、後、刀だけ渡してお前は逃げろ。着物脱いだんなら逃げられるんだろう」

「何言ってんだよ!ここまで来てお前を置いて逃げられるわけないだろ!」

「うるせえな!今はそう言うこと言っていられる状況じゃねえだろ!ここは俺が何とかするから、お前は逃げろ!」

「いーやーだー!」

 思わず俺は操生の頭をはたくと、操生の手から刀を取り上げようとするが、操生の方は手にした刀を一切話そうとせず、思わずしょうもない喧嘩のようなことになる。

 そんなガキがおもちゃを取り合うようなことをしていると、不意に、女は手にした薙刀を落とし、周囲にからん。と、大きな音が響いた。

 女の方を見ると、突如として女の身体にひびが入り、そこから徐々に灰が崩れるように女の身体が崩れ落ち、その中にいた巨大なムカデが姿を現した。

 それだけじゃない。

 女の身体からは、大蛇ほどもある巨大なムカデが一匹どころか、二匹も三匹も這い出ると、まるで糸をより合わせてより太い糸を作るように、ムカデ同士で絡み合っていく。

 そうして複数のムカデが絡み合っていくうちに、ムカデ同士で合体していき、やがてより巨大な一匹のムカデその姿を変えていく。

一匹の巨大なムカデとなったそいつは、見上げるほどの巨体となって、蛇のようにとぐろを巻いた。

 ムカデがとぐろを巻いた動きで一瞬、周囲には風が起こり、俺の足元に女が使っていた薙刀が転がってきた。

 吹き飛ばされた薙刀を拾った俺は、そこで一つの作戦を思いついた。

「……操生、やっぱその刀はお前に預ける。俺はこの薙刀を使うから、代わりに俺の作戦通りに動け」

 俺がそう言うと、一瞬、操生は俺の腹の傷を見て何か言いたそうにしてたが、結局は何も言わずに頷いた。

「……わかった。何したらいい?」

 いつになく素直にうなずいた操生を見て、俺は今までのムカデの様子を見ていて気付いたことを交えて、知っていることを全て言う。

「多分、今のところあのムカデはお前の持っている刀でしか仕留めきれない。理由は長くなるから今は聞くな。とにかく、今はその刀しかあのムカデは殺せない」

「……わかった。それじゃあ、武器を交換するのか?」

「いや、お前が使ってお前があのムカデを殺せ。むしろ、今はお前しか殺せない。とみるべきだ。さっきから、あのムカデは俺を殺そうとはしてたけど、お前は殺そうとはしなかった。多分、あのムカデの狙いはお前の身体を乗っ取ることだと思う。さっきの女みたいに、お前の身体に寄生して、乗っ取るのが目的なんだ。だが、そうする為にはお前に生きていてもらわないと困るんだろう。つまり、アイツはお前を殺せないが、お前はアイツを殺せる武器を持っている。アイツを殺すのにこれ以上ない条件だ」

「それって、僕だけあのムカデに突っ込めってことか?まあ、別に構わないけど、それって作戦って言える?」

「もちろん、俺が囮になる。アイツはお前を殺せないと言ったが、逆に言えば俺は殺せるってことだからな。俺がアイツの囮になって、アイツの首を延ばす。お前は隙を見て、アイツの首をその刀で切り落とせ。そうすれば、勝てると、思う」

 俺はそこまで言うと、ここにきて妙に傷み始めた腹の傷を抑えながら、静かに薙刀の柄を握り締めた。

「それに、手にして改めて分かったが、薙刀の長さは日本刀よりも長い。こうして手持ちの武器となった以上、互いに離れた方がいい」

「分かった。じゃあ最後に、この刀で、あんなに大きなムカデの首を切るなんて、そんなことできるの?」

 操生の最後の疑問に、俺は思わず笑ってしまった。

「逆だろ。最初から大きくなれるなら、大きくなればいい。なのに今まで多くならなかったてことは、大きくなれなかったと見るべきだ。逆にアイツは、今の状態の方が弱っているんだ。現にアイツは、今俺達に対して、何もしない。こんだけ長いこと喋っているのにだ。つまり、一撃でもあたりゃあ殺せるはずだ。そうでもなけりゃあ、こんな姿にならねえよ。ただ、あの巨体になにもねえはずがねえ。急所をずらしているくらいのことはしているんじゃねえかと思う。だから、表でも見える確実な急所である首を狙う。できれば脳天を勝ち割りたい」

「分かった。それじゃあ勝弘、今すぐ囮として突っ込んでくれ」

「今までしおらしかったくせに、早速言うじゃねえか」

「これ言い出したのお前の方だろ。それよりも、行くぞ勝弘!」

 威勢よく言う操生の声に、俺は小さく苦笑すると、はいよ。とだけ答えて、薙刀を構えて目の前の巨大ムカデに突っ込んでいった。

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