第41話


やがて、鎧の全て剥がれ落ちると、中から、一糸纏わぬ一人の女の姿が現れた。


 新月の夜の闇の中でもぼんやりと浮かぶほど白い肌に覆われたその顔は、操生と瓜二つだった。


 予想外の出来事に、思わず身動ぎもできずにその場に固まっていると、女は薙刀を手にして、ゆっくりと大きな口を開けた。

 すると、その女の口から大蛇のように巨大なムカデが這い出て、カマ首をもたげるように、そのムカデは俺を睨んだ。

「コゾウううう……。コロスうううう」

 全身の半分をほどを女の口から出し、俺を睨みつけるそのムカデを見ている俺の頭の中で、俺は何故だか一つの疑問が解消された様な気がした。

 何故、俵藤太はもう一匹のムカデを殺せなかったか。

 もしかして、変若の蟲とかそう言うまどろっこしい事情は関係なく、単にムカデが人質取っていただけじゃないのか?


 惚れた女がムカデに取り憑かれてて、ムカデだけ殺すことが出来なかったってことじゃないか?


 あくまでも何の根拠も無い、直感でしかなかったが、そう的を外したものではない様な気がした。

ただ、そうすると、今度は別の疑問が俺の頭の中に生まれた。

「……お前が巫女を求めんのは、何なんだ?何の目的でこの町で髪継祭なんてものを続けるんだ?」

 思わず口にした疑問だったが、そんな俺の質問に目の前の相手が答えてくれるはずもなく、もむ目の前の女は手にした薙刀を振り回しながら俺に襲い掛かる。

 全裸の女が長い黒髪を振り乱しながら薙刀を振り回すと言うのは、出来の悪い怪談の様な話だったが、そんなことに怯えている暇も、笑っている暇もない。

 俺は女が薙刀を振り下ろした瞬間に、咄嗟に手にした刀でそれを防ぐと、女の一撃の威力を殺すように後ろに飛ぶ。

 攻勢を仕掛けてくる女の姿を見て、俺は半ば確信に近い直感が頭に過ぎった。

 このムカデをここで殺せば、本当に髪継祭の全てが終わるのでは?

 そう思うと、心臓の鼓動が痛いほど高鳴る反面、頭の中が冷静になった。

「絶対、殺す、この寄生虫が」

 そう呟くとともに、俺は女に向けて突っ込んでいた。

 すると、その女に取りついたムカデは、どこか俺を嘲笑うような鳴き声を立てた。

 そうして、薙刀を振りかざす女に向けて、俺は怒声を上げて刀を振りかぶった。


 その時だった。


不意に、俺の横腹を何かが貫いたような気がした。

 思わぬ激痛に、顔を歪めてその場に膝をつくと、その頭上を薙刀がギリギリの距離でかすめた。

 見ると、女の腰から更にもう一匹のムカデが女の身体を食い破って、伸びている姿が見え、そのムカデが俺の横腹に食いついているのが見えた。

 咄嗟に俺は手にした刀をムカデに叩きつけて、身体を切り落とすと、俺の横腹に食いついた頭を無理やり引きずり出して地面に叩きつけた。

 巨大なムカデは体を叩き切られたせいで、しばらくの間地面をのたうち回っていたが、やがて完全に息絶えるともに、灰になった蚊取り線香のように崩れて塵となった。

 ふと、女の方を見ると、女の背や左腕から先ほどと同様にムカデが体を食い破って姿を現し、薙刀な体のそこここに絡みつき、カタカタと顎を鳴らしている姿があった。

 その姿はまるで、ムカデを糸の代わりにした糸繰り人形を見ているような、不気味な嫌悪感があった。

 そこで俺は、自分が大きな考え違いをしていることに気づいた。


 この女はこのムカデたちに取りつかれているわけじゃない。この女と一体化しているんだ。

 それはつまり、この女を殺さなければ、このムカデはどうにもならないという事じゃないか?


 そう思った途端、俺が握っている刀が、一段重くなった気がした。

 それでもオレはもう一度、刀を両手で握って構えなおした。

 その時だった。

「……やめて……、たすけて……」

 不意に、女がそう言った。

 ムカデを口から吐き出しながら、すがるような目つきで俺を見る女は、やはりどこまでも操生の顔とそっくりで、刀を握る俺の手が思わず緩んだ。

 その瞬間。

 俺の足元にムカデが一匹絡みつき、俺の動きを止めた。

 そうして、女は手にした薙刀を大きく振りかぶって俺の頭上に叩き込み、俺は咄嗟にそれを防ぐものの、刀を取り落としてしまった。

 そのまま俺の脚に絡みついたムカデは俺の足元をすくって、俺を地面に転がし、女は手にした薙刀を再び大きく振りかぶった。

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