第18話 スフィンクスの謎

砂漠の風が熱気を帯びて吹き荒れる中、一行はついにギザの大スフィンクスの前に到着した。 巨大な石像は、悠久の時を経てなお威厳を放ち、沈黙の中で一行を見下ろしている。


「ここが、地下迷宮への入り口なのか...」


シッダールタは、感慨深げにスフィンクスを見上げた。その眼差しは、古代の謎を解き明かそうとする探求心で燃えていた。



仲間との再会


その時、背後から力強い声が響いた。


「待っていたぞ、シッダールタ!」


振り返ると、そこにはレン、マリリン、アインシュタイン博士、そしてホウの姿があった。


「レン!マリリン!みんな無事だったのか!」


シッダールタは安堵の表情を浮かべ、駆け寄った。


「ああ、なんとかね。お前も無事そうで何よりだ。」


レンは、いつもの冷静な口調で答えた。彼女の隣には、マリリンが少し疲れた様子で立っていた。


「お父様は...?」


マリリンは、心配そうにシッダールタに尋ねた。


「バオバオは、パヤナークの子どもたちと共に、火星AIの追っ手を引きつけている。必ず合流してくれるはずだ。」


シッダールタは、力強く答えた。彼は、バオバオの強さと勇気を信じていた。


「それにしても、よくここまで来れたな。火星AIの妨害は激しかっただろう?」


ホウが、鋭い視線で周囲を見回しながら尋ねた。彼女は、常に警戒を怠らない。


「ああ、ファラオ・アケンアテンの助けがあったからな。彼は、古代エジプトの技術を使って、火星AIの追跡をかわしてくれたんだ。」


シッダールタは、感謝の気持ちを込めてアケンアテンの方を見た。


「ファラオ・アケンアテンには、感謝してもしきれない。彼は、セト神を解放するために尽力してくれただけでなく、私たちにも手を差し伸べてくれた。」


アインシュタイン博士は、テレパシーで語りかけた。


「さて、感傷に浸っている暇はない。地下迷宮の入り口を見つけなければならない。」


レンは、話を元に戻そうとした。


地下迷宮の探索


一行は、スフィンクスの周囲をくまなく探したが、地下迷宮への入り口は見つからなかった。


「どこにも見当たらないな...」


レンは、苛立ちを隠せない様子で言った。


「もしかしたら、このスマホに似た装置が役に立つかもしれない。」


シッダールタは、ポケットからゼロポイントフィールドアクセス装置を取り出した。


「これは、古代アトランティス人が発明した装置で、地球の叡智からアドバイスを受けることができるんだ。」


シッダールタは、装置の電源ボタンを押した。小さなディスプレイが点灯し、古代ギリシャの哲学者プラトンのホログラムが現れた。


「汝、地下迷宮の入り口を探し求める者よ。スフィンクスの足元を見よ。そこに、汝を導く鍵がある。」


プラトンの言葉に、一行はスフィンクスの足元に注目した。


「何か、刻まれている...」


マリリンが、スフィンクスの足元に刻まれた小さな文字に気づいた。


シッダールタは、再びゼロポイントフィールドアクセス装置を起動し、今度は古代ギリシャの歴史家ヘロドトスのホログラムを呼び出した。


「この文字は、古代エジプトの象形文字だ。解読すれば、地下迷宮への入り口が明らかになるだろう。」


ヘロドトスの助言に従い、一行は象形文字の解読に取り掛かった。


地下迷宮へ


解読された象形文字は、地下迷宮への入り口を示す暗号となっていた。


一行は、スフィンクスの足元から隠し扉を見つけ、地下深くへと続く階段を降りていった。


「すごい...」


マリリンは、息を呑んだ。地下迷宮は、想像をはるかに超える規模と壮麗さを誇っていた。


古代エジプトの神々や王たちの姿が刻まれた石灰岩の壁、幾何学的な精度で設計された複雑な通路、天井から落ちる水滴の音、そして、重く湿った空気。地下迷宮は、古代エジプトの神秘と威厳に満ちていた。


2つのスターゲート


迷宮の奥深くへと進んだ一行は、広大な地下空間にたどり着いた。


その空間の中央には、巨大なオベリスクがそびえ立ち、その周囲には七つの柱が円を描くように配置されていた。


そして、部屋の奥には、2つの巨大な円環状の構造物があった。


「これは... スターゲート!」


レンは、驚きを隠せない様子で叫んだ。


「2つもあるとは... 一体、どこへつながっているんだ?」


ホウは、鋭い視線でスターゲートを見つめた。


2つのスターゲートのそばには、それぞれ1冊の書物が置かれていた。


シッダールタが書物に触れると、ホログラムで内容が表示された。


「これは... 火星に関する記録だ!」


1つ目の書物は、古代エジプト人が火星と交流していたことを示す記録だった。 火星の女王イシェト、火星への帰還、星の守護者たち... 忘れ去られた歴史が、今、明らかになろうとしていた。


---火星とその女王の秘記---


第1章:天に輝く赤き星

古代エジプトの賢者たちは、天を見上げ、昼夜の間にその動きを観察し続けた。天体は神々の意志を映し出し、人々にとっての預言となり、未来を知るための手がかりを与えていた。その中で特に異彩を放ったのが、夜空に赤く輝く星――人々はこれを「デシェレト(赤い王冠)」と呼んだ。デシェレトはエジプトにおいて、上エジプトの女王を象徴する赤い王冠であったが、同時に彼らはこの赤き星に何か特別な力を感じていた。


賢者たちはこの星が単なる天体ではなく、神々が住まう世界の入り口であると考えた。彼らはこの星を「セドジェト(永遠の火)」と名付け、その動きと周期を正確に記録し、宮殿や神殿においてこれを崇めた。星の動きが大地に影響を与え、ナイル川の氾濫や国の繁栄に関連していると信じられた。


セドジェトは単なる星ではなかった。彼らの文献によれば、この赤き星は遠い過去に火星と呼ばれる惑星であった。地上の古代エジプトの王たちは、火星から訪れた神々によって文明がもたらされたという伝説を、密かに受け継いでいた。これが「火星の女王」の物語の始まりである。


第2章:火星の女王――イシェトの降臨

火星の女王、名をイシェトといった。イシェトは古代の文献に記される伝説の女王であり、その起源は神話の領域にまで遡る。彼女は火星の地に君臨していた女神であり、火星がまだ豊かな大地と青い空に覆われた時代、その民を治めていたと伝えられている。イシェトの姿は黄金に輝く冠を戴き、腕には蛇を象った装飾を纏った姿で描かれる。彼女の目は灼熱の太陽の如く輝き、その一瞥でどんな者もその場に跪かざるを得なかったと言われている。


イシェトは火星の民を高度な知識と技術で導き、彼らはその技術を使って偉大なる都市と神殿を築いた。しかし、ある時期に火星は急速に荒廃し始め、女王イシェトは選ばれた少数の者たちと共に、地球――エジプトに降臨したとされる。彼らは宇宙船のような「火の舟」でナイル川沿いに現れ、エジプトの地にその知恵と文明を授けた。エジプトの神殿に残る記録には、イシェトがナイルの神であるハピと結びつき、繁栄をもたらしたと記されている。


第3章:秘密の神殿と天空への門

イシェトとその従者たちは、彼らが地球に到着してからまもなく、地上に特別な神殿を築いた。この神殿は「セペド・レケト」と呼ばれ、天に通じる門とされている。火星から来た彼らは、エジプトの王たちに宇宙と時間の秘密を伝え、この神殿を通じて再び火星へ帰還できると信じられていた。神殿は巨大な石で作られ、火星の女王が降り立ったとされる場所、すなわちナイル川のほとりに建てられた。この神殿は現世と異世界を繋ぐ役割を果たし、死後の世界への入り口とされた。


この神殿の中心には「赤き冠の石」と呼ばれる奇妙な赤い石が据えられた。この石は火星からもたらされたものであり、古代エジプトの文献では、「星々の力を宿す」とされていた。この石を触れた者は、未来を予見する力を得るとも言われ、神官たちはこの石を神聖視し、その前で祈りを捧げていた。


さらに、この神殿には「天空の舟」と呼ばれる装置が隠されていたと伝えられている。天空の舟は、かつてイシェトが使用した飛行船の残骸であり、それを再び動かすことで、火星に戻ることができるとされていた。しかし、この技術を動かすためには特定の儀式が必要であり、その詳細は「禁じられた書物」として限られた者しか知ることができなかった。


第4章:エジプトの王と火星の女王の契約

古代エジプトの初期王朝時代には、イシェトとの契約が交わされたと言われている。伝説によると、初代王ナルメルはイシェトの姿を夢の中で見た。彼は火星からのメッセージを受け取り、自身の王権が神々から与えられたものであることを悟った。イシェトは彼に、火星の力を用いることでエジプトを繁栄に導く方法を教え、その見返りとして、彼の死後に魂を火星に送り返すことを約束した。


この契約は「星の契約」として知られており、エジプトの王たちは火星の神秘的な力を借りて王朝を築いたとされる。ファラオたちは死後、火星に帰還することを望み、ピラミッドや墓はそのための通路として建設されたと言われている。彼らは死後、イシェトのもとに戻り、再び彼女の庇護の下で新たな命を得ると信じていた。


エジプトの歴代の王たちは、イシェトへの崇敬を示すために、彼女の名を讃える碑文を残し、神殿に奉納物を捧げた。彼らの中には、火星からの知恵を授けられたとされる王もおり、その知識によってピラミッドや神殿を建設し、天体の運行を精密に計算する技術を持っていたと言われている。


第5章:火星への帰還とその失われた道

しかし、時が経つにつれ、火星への道は次第に閉ざされていった。イシェトの後継者たちは、地球に留まり続けたが、彼女自身は火星に帰還し、その後、再び姿を現すことはなかった。エジプトの文献によれば、火星と地球を結ぶ「光の舟」は、ある日を境にして動かなくなり、セドジェト――火星は再び遥か彼方の星となった。

古代の神官たちは、イシェトの再臨を待ち望んでいたが、それは成されることはなかった。彼らは次第に火星の記憶を失い、神話としてのみその物語を語り継いだ。ピラミッドや神殿に残された火星の象徴も、次第に別の神話体系に組み込まれ、イシェトの存在は歴史の闇に消えていった。


だが、一部の秘された文献によれば、

イシェトの帰還は予言されており、彼女が再び地球に降臨し、エジプトを再び繁栄へと導く日が来ると信じられていた。その日まで、火星への道は閉ざされたままだったが、選ばれた少数の者たち――「星の守護者」と呼ばれる神官たち――は、その道を開くための儀式と技術を代々受け継いでいた。


第6章:星の守護者たちの秘密の継承

星の守護者たちは、火星との繋がりを密かに保ち続けていた。彼らは王族や貴族の間で活動し、イシェトの教えを忠実に守り続けた。守護者たちは、火星からもたらされた技術を維持しつつも、その力が悪用されることを恐れ、外部には決して明かさなかった。エジプトが数々の外敵に侵略された際、彼らはその知識を密かに隠し、火星との連絡が再び可能になる日を待ち続けた。


古代の碑文の中には、彼らがナイル川沿いのどこかに「火の石」を埋め、それがイシェトの帰還の鍵となることを示唆しているものがある。この火の石は、火星のエネルギーを蓄えたものであり、それを用いることで「光の舟」を再び動かすことができるとされている。守護者たちは、エジプトの隠された地下宮殿にその場所を守り続けてきた。


第7章:未来への予言

最後に伝えられている予言によれば、再び赤き星セドジェトが夜空に特別な輝きを見せるとき、イシェトの子孫が現れ、火の石を手にしてエジプトを再び光栄に満ちた時代へ導くとされている。火星とエジプトは再び結びつき、失われた知識と技術が復活するという。


この予言が記された文献は、古代エジプト末期にあたる時代に書かれたものであり、次第にエジプトがその影響力を失い始めた時期と一致する。王国が衰退する中、火星との繋がりが再び重要視され、イシェトの再臨に対する希望が高まったとされる。


終章:火星の女王、イシェトの遺産

火星の女王イシェトがエジプトにもたらした知識と神秘は、古代エジプト文明の多くの側面に影響を与え続けた。ピラミッドや神殿の建築技術、天体の観測技術、そして神々との深い精神的な繋がりは、すべて彼女の遺産であると言える。また、イシェトの存在そのものが、エジプトにおける神話体系や信仰の一部として残され、火星との神秘的な繋がりが未来永劫語り継がれることとなった。


古代エジプトの文献が示すように、イシェトはただの神話上の存在ではなく、エジプトの繁栄と衰退における重要な鍵であった。彼女が再び戻るという希望は、エジプト人にとって永遠に輝く赤き星と同様に消えることのない灯火となり、いずれ再び彼らのもとに光をもたらす日が来るのを、星の守護者たちは信じて疑わなかったのである。



「そして、こちらは... アトランティス!」


2つ目の書物は、アトランティス大陸の高度な文明と、その滅亡の記録だった。 超能力、先進技術、そして、傲慢さゆえの滅亡... アトランティスの物語は、現代社会への警告のようにも思えた。


---『われた西方の楽園』— 太陽の翼と沈みし王国の記録---


第I章: 天と地を分けた時代

我が国の古より語られる神々の時代、その遥か西方に、かつて大いなる楽園があったと言われる。海と大地の境界に位置し、天の大いなる星々と調和し、豊饒と知恵に満ちたその地は、かの偉大なる神々が地上に降り立ち、彼らの民に啓示を与えた最初の場所であった。


この地は「アトランティス」と呼ばれ、七つの黄金の丘に囲まれた都であった。彼らの王国は、エメラルドの宮殿と広がる湖の水面に神々の姿を映し出し、その都の中心には、光輝く大いなる神殿がそびえ立っていた。その神殿には、太陽神ラーが最初にこの地に授けたという「太陽の翼」が安置されていた。これは無限のエネルギーを宿し、王国全土を照らし、作物を豊かにし、人々の命を守っていた。


第II章: 賢者と技術の源泉

アトランティスの人々は、神々と直接交流し、天の理を学んだ賢者たちであった。彼らは霊石と呼ばれる特別な鉱石を操り、星々のエネルギーを集め、光を自在に操る技術を持っていた。この技術は、彼らの生活すべてを支配し、空を飛び、海を渡り、山を動かすことすら可能にしたと伝えられている。


彼らの賢者たちは、我々が未だ解き明かせぬ**「マアト」**という宇宙の法則を理解していた。彼らの宮殿には、天上の星々の動きを記した書物が収められ、その知識は代々の王に継承されてきた。しかし、その力は強大であるがゆえに、乱用すれば破滅を招くとされ、王たちは慎重にその力を制御した。


第III章: 傲慢なる王と神の怒り

時が経つにつれ、アトランティスの王たちはその力に陶酔し始めた。彼らは神々の力を借りずに、自らの力で天を操ることができると信じ、星々のエネルギーを無限に引き出そうと試みた。彼らは新たなる神殿を建設し、「太陽の翼」のエネルギーを強化するために、さらなる霊石を地の底から掘り起こし、その力を集め始めた。


その中でも、最後の王であるゼムフラは特にその欲望に取り憑かれていた。彼は自らを太陽の神に匹敵する存在と信じ、全世界を支配する野望を抱いた。そして、ついに彼は「太陽の翼」を解放し、海の力すら操ろうとした。だが、その瞬間、天に異変が生じ、海は逆巻き、地は揺れ、大地に裂け目が走った。大いなる地震が起こり、アトランティスの都は海へと飲み込まれた。


第IV章: 崩壊と逃れし者たち

アトランティスの崩壊は瞬く間に訪れた。その都に暮らしていた人々は、海に沈む宮殿と共に失われたが、わずかに生き残った者たちがいた。彼らは賢者たちの血を引く一族であり、神々から与えられた舟によって海を越え、東方へと逃れた。彼らはこの地、ナイルの恵みを受けた土地へとたどり着き、新たなる国を築いたのである。


彼らはアトランティスの知恵と技術を持ち込み、この地にピラミッドを築き、失われた王国への畏敬の念を示した。ピラミッドは、失われた都の神殿を模して建てられ、また神々の力を呼び戻すための巨大な装置であった。彼らの目的は、かつての栄光を取り戻すことであったが、同時に過ちを繰り返さないことも誓った。

彼らが持ち込んだ「太陽の翼」の断片は、王たちに継承され、この地に新たなる文明をもたらした。しかし、その力を完全に復元することはできなかった。それは、神々が再び人間にその力を手にすることを許さなかったからである。


第V章: 忘れられた記録

そして時は流れ、アトランティスの記憶は徐々に薄れていった。我々の祖先たちは、その偉大なる王国のことを語り継ぐことをやめ、霊石の力や太陽の翼についての知識も失われていった。ただ、一部の賢者たちのみが、その失われた王国の記録を密かに保管し、未来のために残していた。


これが、その断片的な記録である。我々がアトランティスについて語り継ぐ理由は、ただその栄光を称えるためではなく、彼らの過ちを我々が繰り返さぬためである。我々は常に、天の法則を理解し、神々の啓示に耳を傾けるべきであり、過剰な欲望が我々の滅びを招くことを忘れてはならない。


第VI章: 終わりなき探求

今、この記録を読みし者よ、我々がかつて失われた王国と再び向き合う時が来た。大いなる文明が何処にあり、いかにして失われたかを探ることは、我々の未来を照らす光である。アトランティスは単なる伝説ではなく、我々が誤りを学び、より偉大なる未来を築くための教訓である。


天に浮かぶ星々の光を見よ。かつてその光が沈みし王国を照らしていたことを忘れるな。いつの日か、再び神々の力が我々の手に戻り、この地に新たなる楽園が築かれるであろう。しかし、その日が来るまで、我々は慎みを持ち、神々の意志に従い続けなければならないのである。


「火星か、アトランティスか... どちらのスターゲートを起動する?」


シッダールタは、仲間たちを見渡した。


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