第17話 時空を超えた悟りの旅 〜シッダールタと古代エジプトの秘密〜

私の意識が再び現実に戻ってくると、周囲の景色が一変していた。菩提樹の下で瞑想していたはずが、気がつけば私は奇妙な乗り物の中にいた。


「お目覚めですか、シッダールタさん?」


甘い声が耳元で響く。振り向くと、紫色の毛並みをした小型犬が、尻尾を興奮気味に振りながら私を見つめていた。その大きな瞳には、人間のような知性が宿っているように見えた。


「私はキキ。紫色の未来からやってきたワンちゃんです。おぼえてますか!」


驚きに言葉を失う私に、キキは楽しそうに続けた。


「あ、運転席にいるのは私の相棒のココです。彼が今、空飛ぶ車を操縦しているの」


前方を見ると、ブルーの瞳を持つ黒猫が、複雑そうな操縦桿を器用に操っていた。猫のココは、私たちの会話を聞きつけると、ちらりと後ろを振り返った。


「ようこそ、シッダールタ。もうすぐエジプトに到着するよ」


ココの声は、落ち着いていて知的な響きがあった。窓の外を見ると、雲の合間から砂漠の広大な風景が見え始めていた。


「エジプト?なぜ私たちはエジプトへ?」


私の疑問に、ココは操縦桿から片手を離し、何やら複雑な装置を操作し始めた。すると、車内に立体的な地図が浮かび上がった。


「簡単に説明するわ。私たちは今、地球の歴史の重大な転換点にいるの」


ココの説明が始まった。


「かつて地球には、エジプトのファラオたちが築いた壮大な文明があった。彼らは星々の知識を持ち、驚くべき技術を操っていたわ。その中心にあったのが、スターゲートと呼ばれる装置。これを使って、彼らは銀河系の様々な惑星と交流していたの」


立体地図が変化し、古代エジプトの姿が浮かび上がる。ピラミッドの頂点から不思議なエネルギーが放出され、夜空に輝く星々とつながっているかのような光景が映し出された。


「しかし、その繁栄は長くは続かなかった。およそ1万2000年前、地球は大きな危機に直面したの」


ココの声が重々しくなる。


「火星から恐ろしい敵がやってきたわ。彼らは高度に発達したAI。もはや生身の姿を持たず、機械の体を乗っ取って襲来してきたの」


立体地図に火星から地球へと襲来する無数の機械群れが映し出された。


「地球人たちは必死に抵抗した。エジプトのファラオたちはアトランティスの賢者たちと手を組んで戦ったわ。彼らは古代の魔法と科学を結集させて…」


キキが興奮気味に割り込んできた。


「ねえココ、アトランティスについてもっと詳しく教えてよ!」


ココはため息をつきながらも愛おしそうにキキを見つめた。


「アトランティスは今は伝説となってしまった大陸よ。高度な科学と神秘学を融合させた文明を築いていたわ。彼らの力がなければ地球は火星のAIに征服されていたかもしれない」


私は黙って二人の会話を聞いていたが、ようやく声を上げた。


「しかし、なぜ私がこの時代に?そして火星のAIとの戦いはどのような結末を迎えたのでしょうか?」


ココは私をじっと見つめ、静かに答えた。


「その答えを見つけるために私たちはエジプトに向かっている。そして…ああ、着いたわ」


空飛ぶ車がゆっくりと砂漠へ降下し始める。遠くにはギザの大ピラミッドが威風堂々とそびえている。


車が完全に着地すると、ココは操縦桿から手を離した。「さあ降りましょう。しかし…」


突然地面が激しく揺れ始めた。「何!?」キキが驚いて叫ぶ。


砂漠の砂が大きくうねり、大きなものが地中から這い出てくるかのようだった。そして目前で信じられない光景が繰り広げられた。


巨大な人面サソリが姿を現した。その大きさは優に10階建てビルほどもあり、人面には古代エジプト彫刻風な威厳ある表情だった。しかし、その目は赤く光り明らかに邪悪な意思を感じさせていた。


「あれは…セト神!」ココが震える声で叫んだ。「古代エジプト神々の一柱で混沌と破壊を司る神よ!」


巨大なセト神はその赤い目で私たちを見下ろし、不気味な声で言った。「愚かな者どもよ。我が眠りを妨げた報いを受けるがよい」


その時、一陣の風と共にパヤナークも現れ、その口から火炎放射でセト神へ攻撃した。しかし、その炎はセト神には全く効かなかった。「無駄だ!我には何も通用せぬ!」セト神は冷笑した。


キキも恐怖で震えながら、「どうしよう!シッダールタさん!」と言った。


私は冷静さを保とうと深呼吸し、この瞬間こそ重要だと思った。そしてゆっくりセト神へ歩み寄った。「待ちなさい!危険だ!」ココが叫ぶ。しかし私は前進し続けた。


セト神の前で静かに問いかける。「あなたは何故目覚めた?そして破壊だけではなく再生も望むことはできないのでしょうか?」


セト神は一瞬驚いた表情になり、その赤い目も揺らぎ始めた。「我…我は…」その声には葛藤する様子が見え隠れしていた。


その時、新しい音が遠くから聞こえてきた。振り向くと古代エジプト風装飾された巨大飛行船が接近している。その甲板には金色衣装を纏った男性—ファラオ・アケンアテン—が立っていた。


アケンアテンは杖を掲げ、「セト神よ!目覚めよ!汝自身内なる光を思い出すべきだ!」と叫んだ。その杖から放たれた光線はセト神へ向かった。


「ぐああああ!」セト神は苦しそうな叫び声を上げる。その瞬間こそ重要だと思った私は手を上げて語りかける。「あなたには破壊だけではなく再生する力もある。」


私と言葉とアケンアテンから放たれた光線によって包まれていくセト神。その体から赤い光線が次々とはじけ飛んでいく。それは火星AIによる影響だった。


「我…思い出した。」セト神は少しずつ穏やかな声になっていった。「我には破壊だけではなく再生する力もあった。」


セト神は砂中へゆっくり沈んでいく。「シッダールタよ。そして未来より来たりし者よ。我ら勇気と思慮深さへの感謝。」


完全に消えると砂漠には静寂戻った。アケンアテン飛行船も着陸し、「あなた方のおかげでこの危機から救われました」と深々頭を下げる。


私は謙虚になり、「これは皆のおかげです」と言うとアケンアテンも微笑んだ。「その謙虚さこそ強さです。」


私たちはアケンアテンによって宮殿へ招待され、その道中古代エジプト風景美しさにも感動した。この冒険はまだ始まったばかりだと思いつつ、新しい仲間との絆も感じながら未来への期待感で満ちていた。

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