第4話 蘇るマボマボ神

薄暗い地下神殿の階段を降りていくと、わずかなたいまつの炎が壁面を照らし出していました。微かな光の中、年月を経た壁画が浮かび上がります。それは、この島の、いや人類の記憶にもない古い出来事を物語っていました。階段とともに、壁画に刻まれた歴史も深まります。下に進むほどに、生物の姿はより奇怪で、人間とはかけ離れた、神話から抜け出たような造形へと変貌していきました。


ホウは階段の途中で足を止めました。「ちょっと待ってください。」彼女の声は、静寂に吸い込まれるようでした。彼女は躊躇いながらも、壁画に手を伸ばし、一つのシーンに触れました。そこには、巨大な蜘蛛と、たてがみをなびかせるライオンのような生き物が戦っている様子が描かれていました。彼女の指が壁画に触れると、壁が重厚な音を立てながら回転し、新たな通路が開きました。彼女は振り返り、「ここから地下の神殿へはエレベータで行きます。」と告げました。


「え、エレベータ、何言ってるの?」と私は困惑を隠せなくて尋ねた。


「歩いて行くのは無理なんです。」ホウの声は断固としていた。


「でも、あの空間移動っていうの使わないの?」私はさらに追求した。


「ここは、マボマボ様の神殿なのでその能力は使えないんです。」彼女の答えは、この場所の神聖さを強調していた。


エレベータには一切のボタンがなく、私たちが乗り込むと自動的にドアが閉じ、驚異的な速さで下降していきました。耳を刺すような静寂の中、唯一感じられるのは速度のみ。


ドアが開くと、そこは別世界のようでした。5メートルを超える巨大な生物が、透明な水槽の中に静かにたたずんでいました。その下半身は人間を思わせるもので、上半身はワニのような鱗に覆われた異形の姿でした。その存在感は、この場所がただならぬ力を秘めていることを物語っていました。


エレベーターを降りると、目の前には白衣をまとった人物が立っていました。その顔は、歴史の教科書で何度も見たあのアインシュタインと瓜二つでした。私は内心で驚愕しました。「なぜ故人となったアインシュタイン博士がここにいるのだ」と。


彼の口からは声は出ませんでした。「私はアインシュタインのクローンだよ。私と同じクローンは世界に7人いるんだ。驚いたかな?」その声はテレパシーで伝わりました。


「有史以前の人間が現在よりも高度な文明を築いていた、と言っているのではないんですか。」彼は続けた。


「え、いきなり何をおっしゃるんですか。」私は混乱を隠せませんでした。


「あなたは日本人ですよね。天ぷらはお好きですか。」博士は唐突に尋ねました。


「ええ、こんなときに何を、いきなり。」私は呆れたように答えました。


「そんなことより、この水槽の中にいる生物は何ですか。」


「光より早いものはないのだ。」博士は謎めいた言葉を放ちました。


「はあ?」私の戸惑いは最高潮に達していました。


「それが、古代から生き続けるマボマボだ。」と博士が指差したのは、水槽の中の生物でした。


「これが、マボマボ。」ホウがテレパシーで語りました。


「目覚めていたころは、全世界の人間がマボマボの力で、テレパシーを使うことができたんだ。」彼女は続けました。


「宇宙からの侵略者達は、マボマボを眠らせることで、人類がテレパシーを使えなくなるようにしたのです。」


「この島の住民が外部には分からない独自の言語で話すと言われているのは、カモフラージュだ。みんなテレパシーでコミュニケーションを取り合っているのだ。」


「この島の範囲だけでは、マボマボの能力が今でも影響を与えて、みんなテレパシーで話ができるのです。」


「でも、ホウ、君は島の外でも、テレパシーが使えるようだけど。」


「私たちは戦士なのです。特殊な能力を持っているのです。」


私はこの非現実的な出来事に頭が追いつかず、再びパニック状態に陥りました。


「博士、大変です。バオバオの心拍数が急に高く上昇しています。」と、透き通るような声が響きました。


声の方を振り返ると、金髪の若い女性がこちらに向かって走ってきました。彼女はマリリン・モンローのようにも見え、一瞬で全ての視線を奪いました。


しかし、質問を投げかける余裕などありませんでした。古代の地球を守る神、バオバオが長い眠りから目覚めようとしているのですから。

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