第36話 未来
ゾンビ騒動も、ほとぼりが冷め裕樹達は日常に帰っていた。夏休みが迫ったある日の昼下がり。屋上ではいつもの景色が待っていた。賑やかな教室が一望できる唯一の場所である屋上には明美先生の姿があった。ワイシャツの袖をまくり汗だくになりながらもいつものようにタバコをふかす。ちらっと裕樹の方を見るなり よ~と教師とは思えない挨拶をしてくる。
「無事に任務は遂行できたようだな」
裕樹の顔を覗き込む。
「使徒の制圧に関しては大きな成果は出せてないですけど」
「謙遜はよくない。潜入したグループは十チーム。討伐数だけなら君達のチームが堂々の一位だ。大空が放った三十キロ先まで焼き尽くす大型魔術が大半を占めているがな」
裕樹は小首をかしげる。
「まるで見ていたような口ぶりですね」
「見ていたとも。教え子の任務だぞ。衛星からの映像でばっちり確認してある」
「ちなみに生存したチームは?」
「五チームと報告が入っているな。暁のチームは相手が悪かったとしか言いようがない。君らに関わらなければ生存候補の優秀なチームだったはずだ」
「すみません」言葉が見当たらず頭を下げた。
「あの街は戦場だった。生存者は潜入班を除いて0。帰ってきただけでも大きな成果さ」
「先生は薄々、気付いていますよね」
明美先生は得意げな顔でこっちを向いた。
「私はなにも知らない。室内での出来事は衛星からは観測できないからね。伝えなければいけないのは任務は成功という事実だ」
「柊 哲也はどうなったのでしょうか」震える声を必死に誤魔化す。
「失踪扱いになっているよ。失踪で間違えないな?」
「はい」眼が合い情けない声で返事をした。
「それはよかった」
明美先生は扉を指さす。
「少々早いが一般高校の卒業おめでとう。君達は晴れて人から魔術師という進化体系を社会に認めさせたわけだ。おめでとうと言いたいが別れは悲しいものだな」
「一年間お世話になりました。仏魔官である限り、どこかで会うでしょ?だからさよならは言いません」
裕樹は歩き出す。
ゾンビ騒動は報道規制により終わりを迎えたが魔術は白日の下になっていた。テレビではびっくり人間などと紹介が入る中、政府へ魔術師の人権を求める暴動が起こるなど世界は大きく動き出している。事件から数か月がたった今、魔術は社会的に容認され今新たな一ページを迎えようとしていた。
裕樹、琴乃、美羽、武蔵の四人は大きな門の前に立っていた。世間的に受け入れられたことによる魔術学校の創立式が行われる。テレビにも題材的に取り上げられ校門前には記者が立ち並んでいた。
見慣れない会場とレンガ造りの校舎に期待に胸が膨らむ。
[魔術が国家公認になって早二か月。皆さんが待ちに待った門出の時です。魔術師の皆さんにはこれから新たな地位が与えられ……]
演説をしているのは屋上で見慣れた女性だった。
(思ったより早い再開じゃないか)
長い話に裕樹はスマホを見る。
[任務 都内にて魔術的犯罪が確認された。捜査ならび犯人確保を優先せよ]
裕樹は二人の肩を叩いた。
「任務だ」
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます