第34話 戦場

 外からの轟音に四人が反応した。琴乃が真っ先にカーテンを開け外の景色を見渡す。

「近いよね…… ていうか外が火の海なんだけど」

 え と武蔵と裕樹が窓へ歩み寄る。

「始まったか」暁はそういった。

「始まったってなにがよ」

 文句がありげな琴乃が暁に近寄った。

「使徒狩りだ。裕樹は薄々気付いていたんだろ? 俺らも潜入している段階で他の魔術師もこの街に潜伏してるって」

「そうなるな。直感だが、この街に使徒は残ってないだろうな」

「そういうこと。昨晩から使徒狩りは行われているからな。残っているのは断罪すべき術者だけのはずだ」

「私達はどうするべきなの?」

 琴乃の質問に暁に変わって裕樹が口を開いた。

「早急に琴乃のお父さんを探し出さないと断罪対象にされるぞ」

 暁は笑みを浮かべた。

「柊 哲也。琴乃の父親は本当に助けるべきなのか疑問だがな」

「どういうことよ」琴乃が食って掛かる。

「この街には数人の魔術師が生活していたという情報が入っている」

 ほら と暁はスマホを見せつけてきた。その画面に魔術師の名簿が映し出され柊 哲也を除いて横線が引いてあった。

「これを見て琴乃はなんとも思わないのか?」

「お父さんが術者の可能性が高いってこと?」

「そうなるな。まず術者は柊 哲也で間違いないだろうよ。それでも向かうのか裕樹」

「それを断罪するのが俺の役目だ。一度は願いを叶えた、それ以上は正義じゃない」

「正義ね。偏った見方だが俺もその意見には賛成だ。琴乃はどうする? 俺達はこのまま柊亭に向かう。お前は武蔵と共に来た道を戻った方が身のためだぞ」

 琴乃は首を振り武蔵も断固として首を縦に振らない。

「主を置いて、のこのこ引き返すなんてできません」

「私も同感。まだお父さんだと確定した話でもないしね」

 裕樹がそうだな と返事をした。

「ここからは魔術戦闘だ。今や我、先にと犯人探しにやっけになっている頃だ。生存者は皆殺しってのが使徒狩りのマナーだからな」

「一刻を要する話だな。今すぐにでも柊亭へ向かうおう」

 話は、まとまり各自は身支度を始めた。暁と武蔵は得物の手入れを始め、琴乃はリュックサックいっぱいに保存食を詰めていた。裕樹は琴乃が使用できるように必要最低限のマグを用意して琴乃の元へ向かう。

「今日の分」と賢者のマテリアルを引っ張り上げるなり、琴乃からキスをされてしまった。

「使徒の毒素も必要でしょ」

「そうだけど。毎度キスされるのは緊張するから先に言ってほしい」

「キスくらいで」ふふと琴乃は笑った。

 二人が玄関前に向かうと準備を終えた武蔵、暁の姿があった。開かれる外の世界は昨日までとは別物だった。地形が変わり昨日まであったはずのショッピングモールも見当たらない。暁なんか「いや綺麗になったものだ 」と辺りを見回していた。警戒を怠ることなく先頭を裕樹が背後を武蔵が担当し道を進む。あたりは爆音やら金属音やらが響き渡り今では魔術師の戦場と化していた。使徒が存在できるわけないと思いきや武蔵が「咲き乱れろ 虎切」と技を繰り出し使徒を斬殺している。残党が残っているようで気を緩める状況ではなかった。轟音との距離も近づき暁が掛け声を上げる。

「気を引き締めろよ。むやみに戦闘をするな。これを第一に柊亭まで向かうぞ」

 一歩一歩と道を進み路地裏に身を潜める。水分補給を済ませ再び足を動かすなり武蔵が機敏に動き出す。屋根に飛び移ったと思えば「索敵網にかかりました」と声を張った。

「主。防御の態勢を」聞き取れた時には既に遅く、左右から自動車が向かってきた。「インストール」とカードをめくろうとすると暁が首を振った。

「俺がやる」ナイフが自動車のタイヤを貫きスリップする。

「遠隔操作系の魔術だな。俺が残る。三人は先に」

「わかったわ」琴乃も拳を握る。

 暁が走り出してから武蔵と合流し急ぎ足で目的地に向かった。武蔵の魔術耐性で索敵から逃れながら進む。小道を抜けると大通りが目に入る。大通りには魔術師が待ち構えていた。

「名乗るつもりはない。君達のことも知らない。使徒として排除するだけだ」

 一人の男がそう高々と宣言する。前衛を張っていた女性二人が刀を片手に走り出した。

「武蔵。一人で相手できるか」

「問うまでもありません」

 金重、了戒を手に地面を蹴った。琴乃も接近戦へ入り肉薄を図ていた。一発目のかかと落としが地面を砕き拡散した相手に襲い掛かかる。どうやら琴乃は魔術起動を妨害したいらしく致命傷を与える前に次から次へと相手を変えている。

 裕樹は二人の行動を目にしながら横たわっていた警察から拳銃を拝借した。

(魔術起動に使えそうだな)

 ハンマーの隙間にカードを挟みトリガーを引く。銃口からは炎弾が放出される。だが魔術防壁が炎弾を弾いた。

「武蔵。琴乃。防壁担当を叩いてくれ」

 そんな中、一人の男が裕樹へ歩み寄ってきた。長身の男の手には槍が握られていた。

「君が親玉かい?」

(インストール雷帝)

 予備動作を感じ取った裕樹は手刀を構え襲い掛かった。槍を手にしていた腕を切断し首元へ切りかかる。

「浅いぞ。裕樹」

 ナイフが四方向を囲み裕樹は咄嗟に後退する。

「暁。遅かったな」

「こんなところで油売ってるなよ。柊亭はすぐそこだぞ」

「わかった。二人と共に時間稼ぎをしてくれないか」

 暁が動きだすのと同時に地面に手のひらをつける。

 十人相手に三人で応戦しているところはまさに乱戦だ。即座に打開する必要性に裕樹は魔術を行使する。

「雷帝の導き」

 空が雨模様に変わり、ぴかっと落雷が敵の頭上から降り注ぐ。

「撤退」暁の合図に琴乃、武蔵の二人は裕樹の背後に身を隠した。

 落雷に悲鳴が混じる中まだ相手は勢威を失っていないのか魔術を発動した。地形変化の魔術が裕樹達を襲った。衝突に備え琴乃が防御壁を発動する。その横で暁が心臓目掛けナイフを放った。

 後一人といったところで武蔵が落雷の中を歩き出す。

「凄腕と見受けられる。主の魔術の中、身動きが取れるってことは私と同じ守護者の類か」

「我が名はモルドレッド。交霊術による召喚に応じた守護者さ」

 モルドレッドが歩くたび、ずっしりとした鎧の音がする。

「ここは引いてもらえないだろうか。我らのすべきことは主が叶えてくれよう」

「戯言はいい。一太刀だ。一太刀でその真偽、秤にかけよう」

 モルドレッドの鎧は崩壊が進んでおり剣の造形も危うい。

「叛逆ノ剣」「燕返し」

 両者の剣は交わることなくモルドレッドは姿を変えた。死体に交霊術を使用したのかモルドレッドの器は動きを止め時を置き首、胴体、下半身の三分割になった。

「どうやらマナの供給が止まっていたようですね」

 裕樹も雷帝の導きを止め、右肩を回した。

「武蔵以外にも守護者が限界しているとわな」

「役目を終える前に輪廻に帰ったのです。さぞや無念でしょう」

「モルドレッドか……円卓の騎士の一角だ。剣を交えていたら勝算はあったのか?」

「わかりません。ただ私より一撃という点では上だたったと言わざる負えないです」

「そうか……」裕樹は胸を撫で下ろす気分で歩き出す。

「もうすぐ。柊亭だ」暁が指さした先はもう見覚えがある場所だった。

 昔懐かしい思い出の場所。記憶がざわつくように脳が熱くなっていく。前回、琴乃と訪れた時とは違った感覚。足が勝手に自宅を目指すような錯覚に任せ、ひた歩きした。使徒を目にすることはなく魔術に反応する武蔵の姿もない。ゾンビ騒動は幕を引いたらしく街の上空をヘリコプターが飛んでいる。

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