第33話 咎人の末路
「俺の負けだ」スマホを耳から離し暁はそういう。
「悪かった。悪鬼化くらいしか生き延びる術がなかったんだ」
暁は裕樹に背を向けた夕焼け染まる街へ歩き出した。
「行くところないんだろ? 俺達と同行しないか」
「お言葉に甘えるとするよ。まずは得物の確保を優先してくる。朝方合流しよう」
戦いを終えたことにほっとし腰を落とす。それを見かねてか武蔵と琴乃が家を飛び出してきた。
「主。さっきのあれは……」
武蔵は腕を肩にかけ歩き出す。琴乃は、なにか言いたげにしていると思えば裕樹へビンタをくれた。
「あんた悪鬼がどんなものか知ってるでしょ? どうしていつも無茶するのよ」
「暁と渡り合う方法があれしかなかったんだ」またしても手が上げられ顔を下げる。
「主もこう申してますし、この辺りにしませんか」
武蔵の一言で冷静になったのか琴乃は腕を下げ家の方へ歩き出した。武蔵も部屋へ戻り裕樹はをソファーへ寝かしつける。裕樹といえば悪鬼化して以降、発熱が続き、ゆっくりと瞼を下ろす。
「主。大分無理をなさっていたような」
「無理もないわね。暁と言ったら仏魔官にしてアーレスの幹部よ。実戦経験だけなら裕樹や私の比じゃないもの」
「遠隔操作の術式。あれほど精度が高いものを現世で、お目にかかれるとは思いませんでした。戦闘の実力だけなら守護者に匹敵してます」
裕樹の寝息を横目に琴乃と武蔵はテーブルに座った。
「ねぇ武蔵は、もし裕樹が悪鬼になったらどうする?」
「答えかねます。私は大空 裕樹によって召喚されたものですから。守護者としての使命を真っ当するべきか否か」
「咎人である裕樹の末路を武蔵は知ってるの?」
武蔵は考えるように目線を上げた。
「悪鬼ですか?」
「そう。膨大なマナを所有する裕樹はいずれ魔術回路の暴走により悪鬼になる」
「悪鬼化はリセットでどうにかできないのでしょうか?」
「わからない。試したことがないのと悪鬼というものの情報が過不足過ぎて手に負えない。武蔵の目には悪鬼化した裕樹がどう見えていたの」
武蔵はちらっと裕樹を見た。
「同一人物とは思えないほどマナの乱れが激しかったです。これは仮説になりますが咎人が悪鬼になる現象はマナ欠乏から無理にマナを絞りだすことじゃないでしょうか」
「だとしたら悪鬼化が使えるのはマナ欠乏している時ってことね」
二人は悪鬼について咎人とはをひたすら話し合い気が付けば朝を迎えていた。
「おはよう」
武蔵と琴乃が返事をする。だが目元には大きなくまができていた。裕樹は台所に向かい琴乃が料理を施した皿を温め直す。
(マナも回復したしな。今日は全開で魔術を使えそうだ)
「飯できたぞ」振り返りざまに二人の様子を伺うも机に突っ伏し動く気配がない。温めた料理を片手にそっと膝を折った。
「二人して朝まで何してたのやら」
食事をしていると玄関が開きずけずけと暁が現れた。これ見てくれよ と新品のナイフを子袋から取り出した暁が自慢げに話し出す。
「切れ味よさそうだろ」
キッチンに置いてあった空き缶にナイフを突き刺した。
「どこまで行ってきたんだ?」
「裕樹達が立ち寄ったショッピングモールでな」
話もほどほどに武蔵が眠り眼をさすって歩み寄ってくる。どうやらお腹がすいているようで裕樹の食事を見るなり目をキラキラさせた。
「温めるから待ってろよ」
かんぱんと温めた缶詰を二人分テーブルに用意し裕樹はソファーに腰を預けた。
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