第32話 友人との一戦

  道路へ出て間もなく暁が両手にナイフを握った。裕樹もマグを用いて金重を模倣する。

「刀一本で俺に勝てるつもりか? 近接戦闘で俺に勝てるなんて思うなよ」

「稽古をつけてもらった時のことは覚えているさ。ごあいにく、この程度の魔術しか披露できないものでね」

「知っているさ。マナが欠乏しているんだろ? 知った上で決闘を申し込んでる」

「卑怯者のすることだな」

「こうでもしないとお前さんに勝てる気がしない」

「ショッピングモールへ向けられた魔術攻撃も、この為の布石ってわけか」

「想定外のことが起こったとすれば仲間が全滅したことだけだ。人を殺した感想はあるか」

「殺人ならとうにこなしている。今更問う方がおかしい」

「使徒も人間か」

「ああ。使徒を人間でないと否定できない」

「琴乃か? ならいっそのこと使徒が蔓延る街で死を与えてやればよかったんだよ。お前さんは」

「それはできない」

 裕樹は正中線に刀を構えた。

「琴乃には自我があり食人衝動も抑えている」

「それは大空 裕樹あってこその自意識だ。裕樹が離れれば三日と立たずこの街の住人と大差ない」

「そうかもしれない。なら俺が生き延びるって選択をとるだけだ」

「正義か。いや、それはもう悪性に他ならない」

 暁は手にしていたナイフを手放す。さらに懐から数本ナイフを取り出し地面に落とした。地面に散らばったナイフはまるで意思があるかの様に振動を始めた。

「俺の得意分野は体術だ。だから自分の魔術が、どうも性に合わなくてね」

 ナイフが浮遊し暁の前で静止した。

「大空相手に手の内を隠してもしかたないしな。模写の魔眼にはどう映るよ」

 裕樹にはナイフの一本一本にマーカーが記されているのが見えていた。

「遠隔操作術式だろ。ナイフと指を結び付けたアナログ的な魔術だ」

「言ってくれる」中指が動くなりナイフが裕樹の頬をかすめる。

「俺の格闘術と相性が悪くてね。拳を使えないんじゃ武術は使えないからな」

 間合いが詰められ裕樹の頭部目掛け蹴りが襲い掛かる。腕で回避行動をとるが下からナイフが襲った。顎を引きナイフをよけるも頭上から三本のナイフが降り注ぐ。

(やばい。動きを見極める以前に体がついていけない)

 右手の金重でナイフを払う。追撃の下段蹴りに裕樹は地面を蹴った。ジャンプしてる間も背後からナイフが襲いマグで魔術防壁を展開しバックステップを踏んだ。

「指先での魔術操作、さらには得意の体術で接近戦とはな」

「格闘技と魔術の合わせ技と言ってくれよ。大空のように大規模魔術は使えないが近距離戦ならお前と対等に渡り合える」

「対等ね……」

(やばい。やばい。こんな魔術師は初めてだ。近距離戦闘と遠距離魔術の連携なんてどう崩せば)

「頭を回せよ。さもないと死んじまうぞ」

 十本のナイフが裕樹へ向けられる。ナイフは四方に拡散し裕樹は模写の魔眼で動きに反応する。

(殺しに来てる。マグも、もう二つしかないしどうすれば)

 残り僅かなマナを模写の魔眼にまわし致命傷となるもののみを金重で払う。傷は一つ、二つ増え気が付けば両足にナイフが刺さっていた。

「これで動けまい」

 膝に刺さったナイフが裕樹を行動不能にする。

「悪鬼の一件はご苦労だった。仏魔官として死んでくれ」

 暁の膝が裕樹の左胸を強打した。心臓が痙攣をおこす感覚と出血多量で視界が濁りもう立つことすらままならない。

(悪鬼か。そんなことも……それだ)

「悪鬼か」裕樹は血が滴る口元で笑いを浮かべる。腰袋からカードを引き握りつぶした。

「悪あがきか。マナがない、お前に何ができる」

 体内のマナが全身を発熱させる。痛覚が鈍ったのか体はまだ動けると叫んでいた。

「人ならざる鬼を」

 ナイフが心臓目掛け突き進む。だが服を貫くと同時にナイフは溶解する。

「なにをした」

 放たれたナイフに裕樹は狂ったように笑った。ナイフは一本目同様,液状化する。

「悪鬼の再現だ。俺の目は他人の魔術を貯蔵し再現する。なら悪鬼と一戦交えた俺は悪鬼の真似ごとも可能ははずだとね」

 裕樹の周囲に咲く花々は枯れ、コンクリートは風化していく。

「それが悪鬼か。そこまでして生き延びる理由はなんだ」

「三人で、この街から生き延びることだ」

「お前の覚悟見させてもらったよ」

 そういうと暁はスマホを取り出した。耳に押し当てたと思えば悪鬼化の魔術が解除される。どうやら通話相手は琴乃ようだ。カーテン越しに琴乃がリセットと口にしたのが見て取れた。

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