第31話 コインの裏側

 レジにて琴乃が申し訳なさそうに ごめんなさいと呟いた。大量の保存食である缶詰とリュックサックを店内から奪い店内を後にする。裕樹は相変わらず武蔵の背中でぐったりとしていた。忍び足で街を行動する。バック三つを抱えた琴乃が先導し合図に武蔵が歩き出す。そんなことを繰り返し戸締りがされていない一軒の家を発見した。

「すみません~生存者はいらっしゃいますか」

 反応がないことを確認し部屋に上がり込んだ。琴乃は缶詰を取り出し料理を始め武蔵は裕樹の看病をしている。

 ガスコンロのバーをひねるもガスが漏れだすだけだった。

「裕樹。マグある?」

 武蔵がポケットからマグを取り出し琴乃へ手渡した。

「琴乃殿。マグで何をなさるおつもりですか?」

 マグが火種となりガスコンロが機能する。

「こんな使い方があるんですね。勉強になります」

 興味深そうに琴乃の料理を眺める武蔵。裕樹はその風景を見ながら自身のマナ残量を確認していた。

(ショッピングモールから数時間が経過したか。食事でもとれば刀くらいは振るえそうだな)

 味噌の香りとごはんの匂いが部屋中を充満していた。

「主。そろそろごはんですよ」

「待ってたよ」膝に手を当てて無理やり体を起こした。テーブルに向かって足を運ぶなり違和感が裕樹を困らせる。よそられる茶碗は3つでいいはずが、なぜだか一つ多い事実に魔術の気配を感じた。

「誰だ」声を荒らげると視界が歪み暁が現れた。暁は気にすることなく箸を手にいただきます とお辞儀をする。武蔵もなにやつ と刀を抜くが裕樹が制した。

「暁がどうしてここに」

「気づくのが早いな。さすが模写の魔眼」

 琴乃もテーブルに着き鋭い視線を氷河に向ける。

「暁君は敵なの? 味方なの?」

 そのことに裕樹は勘づく。ショッピングモールを襲った魔術は三人を標的にしたものではないかと。

「大空はもうわかってるみたいだな」箸を茶碗に添え暁は話し始めた。

「数時間前にお前らを襲った魔術は俺らのものと言えば話が早いんじゃないか」

「あの強力な魔術が一人や二人で発動できるわけないだろ」

 裕樹も椅子に座る。

「お仲間は大空の魔術で黒焦げだ」

「そうでしょうね」武蔵は琴乃へ屋上での出来事を話し出した。

「そんなことがあったの?やりすぎじゃない?」

 裕樹はその問いに返答しない。

「暁。一つ聞いてもいいか」

「一つだけやで」

 暁の魔術が発動したことを裕樹の目は見落とさない。裕樹もポケットのマグに指を通す。

「今回のゾンビ騒動はおとり案件で本来は大空 裕樹、柊 琴乃、宮本 武蔵の抹殺が任務ではないのか」

 そこまで言い切ると暁は、げらげらと笑い出した。

「ちゃうちゃう。ゾンビいや使徒の抹殺と術者の断罪が任務で間違えない」

「違うな。表向きの任務はそうだろう。さっきの魔術、間違えなく俺達を三人を殺す為のものだった」

「ほーならどうして生きてる? 殺す為に魔術が使われたのなら、お前らが生きてることの方がおかしいのではないか」

 暁が机を叩き武蔵が反応するように刃を向ける。

「怖い怖い。では話そう君らが狙われているいきさつを。その前に条件を出したい。俺らも五人がかりで行動してたんだが裕樹の魔術で生存者は俺だけなんだ。話が終わり次第、決闘を申し込みたい」

「いいとも」裕樹は食事を始めた。

「自分らもわかってるとは思うが、あんたらは勢力を伸ばしすぎた。咎人ってだけで断罪対象であるにも関わらず、使徒である琴乃、蘇生者の美羽。そして守護者の宮本 武蔵。どう考えても一戦力として大規模になりすぎていると思わないか?」

「美羽も琴乃も大事な仲間ってだけだ」

「仲間で済むなら俺らのチームは壊滅していないぞ。そのくらいには君らの勢力は脅威になりつつある」

「話は分かった」食事を終えマナのめぐりがよくなったことを確認した裕樹は最後の質問をする。

「主犯格は誰だ?」その問いに誰も身動きをとらない。

「質問は一つだけってお約束だろ」

 裕樹と暁は外へ向かう。武蔵が動こうとするなり琴乃が「信じて待ちましょう」と説得した。

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