第30話 ショッピングモールを死守せよ

 商店街を抜け大きな交差点へ行き着いた。四方が見渡せる場所だけあり、あちらこちらで使徒の姿が目に入る。武蔵はリンゴをかじりながら腰の刀へ手を掛けるが仕掛ける気配がない。琴乃も足音を立てず裕樹の後ろをついて歩く。だが目的のショッピングモールは目の前と三人は顔を見合わせ臨戦態勢に入った。

「主。魔術の準備を。それまで私が時間稼ぎをします」

 琴乃も拳を構えマグの加速を利用し使徒を撃破していた。

「同じく。これだけの数、私と武蔵の手にあまるわ。裕樹どうにかしなさいよ」

 腰袋からカードを引き体へ付与魔術を行う。緑色のカードを引いた裕樹は、まだ見ぬインストールを行った。

「インストール 風神の陰謀」

 風を圧縮するイメージで両手を重ねる。吹き荒れる風に危険を察知したのか武蔵も琴乃も物陰に隠れた。手の中の風が渦を巻き今にも暴発しそうな程、密度が高まる。目視できる範囲を標的に魔術起動を行った。

「風神の威嚇」

 解き放たれた魔術は周囲に大規模のツイスターを生み出し裕樹の視線に合わせ使徒を追尾していく。竜巻が通った箇所には使徒の四肢が残り血肉が交差点にこびり付く。駆け寄ってきた琴乃の目はきらきらしていた。

「今の魔術って風魔術の応用よね」

「そうなるね。魔術防壁や移動魔術の応用だ。自身に付与すれば、天候を操れるんじゃないか」

 武蔵はどうやら竜巻が気になるらしく刀を構えていた。

「主よ。あの竜巻は魔術なのですか?」

「俺の手元を離れた段階で災害だが」

「なら対処は私に委ねてください」

「そのままでも自然消滅するぞあれ。マナは発動タイミングで流しただけだからな。枯渇したら単なる風でしかないぞ」

「その前に腕試しがしたいのです」

「腕試し?」

 武蔵は走り出し竜巻の進路に立ちふさがった。瞳を閉じ金重、了戒を小脇に集中力を高めていた。衝突すると思われた時「一心一刀」と武蔵の声がした。竜巻は霧散し風が吹き上げる。

「この時代では、このような形で剣技が使えるようですね」

 ふむふむと刀を振り回すなり武蔵は合流し目的地こと食事が取れるショッピングモールへ向かった。ショッピングモールは通電されておらず明かりがない。そのうえ食品の腐敗が進んでいるのか匂いが想像以上のものになっていた。

「私が食べ物を探してきますね」

 そういった武蔵は颯爽と走り出した。

「それにしても、ひどい匂いね」

 使徒が故に鼻が利くのか琴乃は口元を抑え呼吸をしていた。

「確かにな。様子を伺う限り使徒が目撃されてから数日は立っているんだろうよ」

「街が汚染されてからか…… この間の映画のような光景が広がっていたのかな……」

「映画通りなら使徒化を招き入れたやつが、この街にいるはずだ」

 レジ付近で割りばしやらを回収していると外から轟音が聞き取れた。缶が落ちる音がしたと思いきや武蔵が現れ天井を指さした。

「魔術が来ます」

 それだけ言い残し壁を蹴って上層へ向かっていた。

「魔術? 私達以外に潜入している人でもいるのかな」

「わからない。ただ俺達だけが潜入したとも考えずらい。ひとまずはこの建物を死守してくる」

 裕樹は止まったエスカレーターを上り屋上駐車場を目指した。屋上までの道のりには武蔵が片付けたであろう使徒の残骸が残っていた。裕樹も腰に差していた刀に手をかけ屋上へ急ぐ。屋上では南西を見つめる武蔵の姿があった。南西では大きな花火が咲き残り火が町へ降り注ぐ。

「主」武蔵に呼びかけられ魔術の準備をする。カードを引き「インストール 水神の涙」と詠唱をした。近場からできる限りの水をショッピングモール周囲にかき集め火球が降り注ぐのを待った。

「ウォーターウォール」

 ばーと跳ね上がる水に火球が着弾した。大爆発に交じり蒸気が辺りを包む。模写の魔眼をもってしても視界が濁る中、武蔵だけはまだ空を見つめていた。

「第二派来ます」武蔵が声を張る。

「方角は? 俺からは視認できないぞ」

「同じく南西から。今度のターゲットは私達のようです」

「はぁ? なぜ俺らを」

「理由はわかりませんが、外敵とみなされたようです」

「武蔵、着弾までのカウントお願いできるか」

「はい。私の方で魔術を四等分にします。なので主は衝撃に備えた魔術を」

「任された」裕樹は南西に向けて両手を伸ばす。

 武蔵のカウントに合わせ体内でマナを練り上げる。武蔵も金重、了戒を手に屋上で跳躍する。

「我が剣に司るは花びら。季節を前に咲き乱れろ。虎切」

 二刀が降りぬかれ斬撃が大空を翔る。火球をいとも容易く切り裂き武蔵が着地する。

「五、四、三。主」

「ああ」

(インストール水神、風神)

 右手を拳に左手を火球に向け着弾のタイミングで手を握る。「氷神の手鏡」三枚の氷がウォーターウォールの前に出現し分散した火球から耐えしのぐ。一枚。二枚と受け止めることに成功した裕樹はさらにマナを練り上げ炎帝をインストールした。

「砲撃があった座標はわかるな」

「ここから南西三十三キロの地点です」

「倍返しって知ってるか武蔵」

 きょとんとする武蔵の返事を待つことなく魔術を行使していく。右腕に炎が宿りとぐろを巻く。向けられた腕から炎が放出した。町をも飲み込む大きな術式が放たれショッピングモールから敵地までを更地に変えていく。火力に後退をする裕樹を武蔵が背後から支えた。

「ふー一段落だな」

 町中が火の海になる中マナ切れを起こした裕樹は地面に膝をついた。

「無理もないです。追撃の必要性があったのでしょうか?」

「牽制だよ。次、標的にしようものなら返り討ちにするぞってな」

 ウォーターウォールも解除され裕樹は倒れ込んだ。

「マナ欠乏ですね。無理をするから背中に」

 武蔵におぶさり屋上を後にする。とぼとぼと武蔵は足を進めると心配そうな顔をした琴乃がエスカレーターを上がってきた。

「何が起こったの? 地震が起こるわ。町中、霧に包まれるわで大変な事態になってるんですけど」

「琴乃殿にも主の勇士を見せたかったものです」

 裕樹は薄く笑いを浮かべる。

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