第29話 汚染された町
非常口をくぐった。螺旋階段を下り扉を開くとそこには非日常が待っていた。電気が止まっているのか信号は点滅をやめ人気がほとんどない。だが扉を閉めるなり民家の影から顔を出す使徒の姿があった。
「本当に、この町は使徒に占領されているの?そんな風には思えないけど」
琴乃の言葉に辺りを見渡す。町をぐるっと一周覆った塀は即席で作ったのか鉄板が張られているだけのものだ。
「使徒も顔を出したことだし報道通りなんだろう」
話をしている間もなく、武蔵が走り出した。両手には金重、了戒が握られており目に入った使徒、目掛け刃を振りかざす。だがどうだ腹部から二分割された使徒は未だに動きを辞めず武蔵は這いまわる使徒の心臓目掛け刀を突き刺した。
「主。彼らは心臓を破壊したのでは行動をやめないようです」
武蔵の甲高い声が町に響く。人がいないせいか思いのほか声が通り音に反応した使徒がぞろぞろと現れた。使徒相手にアクロバティックに動き回る武蔵は使徒狩りのコツを掴んだのか斬りやすい脚のみを両断していった。
「武蔵~数も数だ一掃するから離れてくれ」
距離をとった武蔵を確認し腰袋からカードを引き抜いた。
「インストール雷帝の証」
「雨?」と空を見上げる琴乃を尻目に地面に手を突く。
「雷帝の逆鱗」
雨音に交じり落雷が使徒目掛け降り注いでいく。正面を一掃していると左右からも現れ模写の魔眼で座標を認識し葬り去っていった。
「 裕樹にそんな魔術があったなんて知らなかった」
「ゼロ距離戦闘を得意としてきたが、遠距離もいけるよう練習をしてたんだよ」
「練習って?」
「明美先生のライター役を俺がやってた」
首を傾げる琴乃はさておき使徒の雄たけびが町から消えていく。
「次行くぞ。ここからお父さんの家まで何キロあるんだ?」
「おおよそしか分からないけど二十キロは歩くようね」
「なら極力マナは温存しないとな」
カードを引き錬金術で武蔵が握っていた金重を生成する。
「琴乃はどうする?」
「私?」と琴乃はは何を思ったのか地面目掛け拳を飛ばした。すると地面は亀裂が入りコンクリートが砕けていく。
「これで問題ないでしょ? 武蔵~こいつらの弱点わかったわよね」
「はい。こいつらの弱点は脳です。琴乃殿なら顔面を殴るだけで倒せるはずです」
裕樹は二人の順応性の高さにあっけにとられながらも足を進めた。歩けば歩くほど使徒は出没し、それらを三人で裁いていく。
「琴乃右から」
琴乃の拳が顔面を砕く。使徒は生命活動を止め膝から崩れ落ちた。
「拭くものある? 」
血だらけの拳を気にしているのハンカチを手渡す。武蔵は武蔵で新しい急所を発見したの使徒の背後に周り首筋に刃を向けていた。
「こいつらの弱点は現状だと足元、脳、首筋が…… 主、上です」
見るまでもなく炎帝をインストールした裕樹は自身を中心に火柱を立て使徒を焼き払った。
「キリがないな。オマケにどこに潜んでいるのかさえわからない」
「歩きましょう。お昼になる前に開店しているお店を探さないと」
琴乃の提案に頷く。
「もうすぐ昼も近いしな。それから生存者を助けないと」
武蔵は金重、了戒を両手に警戒するように左右を見渡していた。空き缶や小石を拾っては音を立てるように民家に投げ込んでいく。一体また一体と姿を現した。順に首元を切断して、そのたびに刀に血液が付着する。
「武蔵そのくらいでいいんじゃないか? 害がないものまで倒さなくてもいいぞ」
「主のおかげで集団は壊滅しましたが、まだ残党が残っていますので」
「あのな~疲れって知ってるか? 武蔵」
「そうよ。いざって時に力になれないんじゃ使い魔失格よ」琴乃が会話に入った。
「そうですね…… 守護者の立場からすればこの街の使徒は殲滅したいのですが、使命より主、琴乃殿のお力になるのが優先でしたね」
「わかってくれればいいんだ」
町並みは集合住宅地か商店街へ変わっていた。八百屋、肉屋と並ぶ中、加熱抜きで食べられるものが果物しか見当たらなかった。八百屋から持ち出したリンゴを片手にさらに足を進める。武蔵もリンゴが気に入ったようで足取りが軽い。
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