第28話 リスク
制服姿では目立つので黒のコートを羽織り身支度を整える。美羽は登校準備。他武蔵、琴乃、裕樹の面々は戦闘に備えた格好で玄関に集合する。
「美羽頼むぞ。風邪で休みとだけ伝えておけよ」
「わかってる。お姉ちゃん後は頼んだよ」
「お父さんのことは任せて」
家を出て二手に分かれる。裕樹は全身のマナを調べるように全神経を体内に集中させていた。
「琴乃殿は使徒ですから問題ないですけど主は咎人とは言え人間ですよね? 捕食された時の対応方法も検討しなければいけませんね」
「捕食って物騒ね。ちょっと待ちなさい」
そういった琴乃が裕樹に唇を押し付ける。長い長いキスに武蔵が止めに入った。
「琴乃殿なにを……」動揺を隠せない武蔵。
「これである程度の身体強化はできたはずよ」
「模写の魔眼ですか?」
「それもあるけど微弱であれ彼の身体強化も行えるのよ」
「なんとキスにそんな効果が」
「主?」裕樹は集中しているせいか反応すらしない。「主? 主?」袖を引っ張られようやく我に返った裕樹は体が熱を帯びていることに気が付いた。
「琴乃の仕業か?」
はぁ~とあきれる武蔵。
「主よ。琴乃殿とキスされておられたではありませんか」
「いつ?」と緩い反応に琴乃もあきれ顔をした。裕樹も唇の感覚に頬を染める。
駅までの道のりは静かなものだった。お互いが使徒とどう敵対するか決めかねているようで武蔵は琴乃の様子を伺っていた。
「お父様を助けに行くとはいえ同胞を手に掛けるんですか」
武蔵は一人ぽつりとつぶやき琴乃は反応をせず足を進める。
「あの数だ。手加減していてはこちらが袋小路だ。サクッと攻め入るぞ」
「「はい」」二人の声がハモる。
「琴乃。心の準備は問題ないか」
「何をいまさら。あの人数を正常化できるほどの逸材がこの世にいるわけないでしょ。こちらも裕樹の命が掛かってる。手を抜いたりはしない」
裕樹は疑問符を浮かべる。
「主だけなのです。危険にさらされるのは」
さらに疑問が深まる中、駅に到着した。駅は始発ともあり人だかりができていた。そんな中、異質な存在が混じっていた。腕を組んだ二人組は、あたかも裕樹達を待っていたかの様な佇まいをしていた。
「ようやく来たか。大分待たされたぞ」「あのニュースを見てここに来ないって選択肢はないとは思ってたけど」
明美先生と千鶴だった。二人は歩き出し路上駐車してあった自動車に乗り込んだ。
「早く乗りなさい君達」
お言葉に甘え後部座席に三人で乗り込んだ。
明美先生はひょいっと顔を出し「本当に電車で向かうつもりだったのかね」と笑った。
「ここからだと最短で迎えるのが電車じゃないですか?」
「情報が甘いな~最寄り駅はとうに通過指令が発令されているぞ」
琴乃も武蔵も外の景色を見て集中していた。
「だったら車なんてとっくに通行止めでしょ? 封鎖されているくらいですし」
「私達を誰だと思っているのよ」千鶴の声にびくっとする。
「そう私も千鶴も仏魔官よ。ただ対人専属のね」
「対人?」ふわっとしたと思いきや自動車が加速をはじめ高速道路を走り出した。
「私達は君の様な戦闘向けではないのだよ。知ってると思うが私は幻惑魔術。千鶴は魔眼と物理的な戦闘をしない。いわば工作員だ」
「で今日の目的は?」
バックミラー越しに見える明美先生をガン見する。
「君達を〇〇町には送り届けることが今回の任務だ」
「なら二人で現れる必要もないんじゃないですか?」
千鶴が腕を組み唸った後、第一声でこういった。
「君達をというか武蔵と琴乃という意味なんですけど」
「どういうことです?」身を乗り出しす。
「琴乃は元々使徒だ。感染のリスクは、はなっからないとして武蔵も問題ないのでないか?」
「それは戦闘力でって話ですか?」
武蔵は裕樹の膝に手を置いた。
「いいえ主。私は魔力耐性が備わっているので使徒化しませんから」
「そういうこと。守護者にはクラスってものが存在してな。彼女は剣士枠での輪廻転生をしているわけだ。そうなると魔力耐性を兼ね備えているんだよ」
「どこ情報です。それは」
「とある町で行われた魔術儀式の名残だ。守護者にはクラスに分かれた特性が存在していたとな」
「なるほど特性ってわけですね。それでも二人だけで行かせる理由がわからない」
「柊よ。ある程度なら大空と離れても理性は保てるか?」
琴乃はこっちを向きペンダントを見せてきた。
「十分な魔力があれば裕樹との距離は関係ないです」
「そう。この中で使徒化するリスクがあるのは大空。お前だけだ。だから私は君の行動を止めにきた」
千鶴が、ぎゃぎゃ~騒ぎ出す。
「まどろっこしいのよ。あんたは不参加。問題でもある?」
「問題しかない。大きな術式を使えるのは俺だけですからね」
「じゃこういいましょう! あなたじゃ力不足よ」
「雷帝、炎帝が使える今日なら戦力としては十二分なはずだ。千鶴は身近で見ていて知ってるだろ? 雷帝の動きを炎帝の破壊力を」
「わかったわよ」
自動車は高速道路のど真ん中で止まった。非常口が見え左右の扉が開いた。
「最後の忠告だ。リスクを孕んでまで大空が駆けつける理由を言ってみろ」
「頼られたから……俺も正義の味方であり続けたいから」
「正解だ」
明美先生と千鶴も自動車を折り非常口を指さした。裕樹が足を向けると先頭を歩く二人の背中がたくましく見えた。
「行ってきます」
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