第25話 悪鬼と守護者
外で待っていると夏が近いのかワンピース姿で琴乃が現れ目のやり場に困った。さっと繋がれる手からは体温を感じ賢者のマテリアルが機能していることが分かる。
「まずは映画よ」
そういった琴乃が向かった先は駅前の映画館だった。休日とあり、人だかりができていた。ポースターを見るにアクション、ホラーの他、恋愛ものも上映されているようだ。
(女の子は恋愛もの好きだからな)
チケットを買ってきた琴乃から手渡された。チケットにはZONBIと書かれておりホラー映画なことに、ちょっとびっくりした。
着席するなりチケット購入時に買ったのか琴乃はポップコーンを抱えていた。ぽりぽりと食べ続けていたが映画の上映に手が止まった。外人の日常から始まった映画は入浴シーンから突如ゾンビが乱入。町がゾンビに襲われるシーンへ突入した。
「楽しかったね」
あたかも他人事のように話しているが映画のチョイスから悪意を感じた。
喫茶店に入ってからも琴乃は映画の話題を続けていた。
「でさ~警官が食べられるシーン。生々しかったよね」
「最後のほうのゾンビが群がるシーンもぞくぞくしたよな」
なんて映画の話題をしているうちに、琴乃のペースには待っていかれる。
「映画よかったね」
話が一段落ついたのか、コーヒーカップをコースターに乗せた。
「次は水族館です」
会計を済ませ店を後にする。チケットの水族館まで電車で向かい沿岸沿いに行き着いた。日本で一番の水族館を歌っているだけあって客足も多く、裕樹は人に酔ってしまいそうになる。
来場して間もなく、暗がりのフロアに着いた。
「うわ~綺麗」
水槽がライトアップされ魚の鱗が神々しく光っていた。お互い魚について、うんちくなど持っているはずもなく琴乃は綺麗を連呼していた。お次にペンギンコーナーに立ち寄りった。よちよち歩く姿が気に入ったのか かわいいと目を輝かせる琴乃。
(琴乃も可愛いところがあるじゃん)
イルカショーでは二人で傘に入り見学する。トレーナーが「ペン君と握手したい人」と挙手を求め、それに琴乃は手を上げる。
[じゃ~そこのカップル]
どうやら裕樹と琴乃もカップルに見えているらしい。大きな口をトレーナーにすりよせるイルカは笛が吹くなりひれを伸ばして握手の真似をした。二人してイルカのヒレに触れ笑いながら頭を下げた。
[お二人に大きな拍手を]
イルカショーも終わり閉園が近づいた頃、琴乃が咳ばらいを始めた。
「風邪ひいたか」心配そうに声をかける。
「違います~ラストはカラオケでしょ」
疲れを知らないのか琴乃はスキップをし次なる目的地へ向かっていた。カラオケ店まで十五分ほど歩いた。二階建てのカラオケ店が目に入り琴乃が指さした。
「なに歌おうかな」
久しぶりのカラオケなのか琴乃は口ずさんでいる。そんな時だった。裕樹のスマホが鳴るのと同時に轟音が響いた。地響きまでする大爆発がカラオケ店で起こったのだ。裕樹は咄嗟にスマホに届いたlineに目を通した。
[○○市のカラオケ店にて悪鬼と思しき魔術師の目撃情報あり。近場のものは即時逮捕、又は殺害を許可する]
Lineを読み上げているとスマホに赤い水滴がつき指で拭う。すると琴乃が怯えたように 「それ人の血液だよ」と言ってきた。視線を上げカラオケ店を見る。男の子が自身より身の丈が大きな男性を軽々と持ち上げていた。持ち上げられた男性は首がなく血しぶきが上がっている。
「悪鬼って聞いたことあるか?」
「私も初めて遭遇したけどあれはなに」
「人だ。それも魔術を異常なまでに体にまとわせた」
裕樹の模写の魔眼が悪鬼の術式を読み解く。術式はどれも禍々しいものばかりだった。血流操作だの細胞破壊など魔術としても異質なものばかりで、裕樹は吐き気をもよおした。
発動条件は対象に触れる。そこまでわかっても触れたら即死ってことが頭にこびりつく。
「ここは逃げよう」と琴乃の手を引く。
「討伐命令がでてるんでしょ? なら私達がやらないでどうするの。もっと被害者がでるよ」
そのセリフに明美先生が話していた正義の味方の意味を理解した。
「俺達で取り押さえよう」
「私は肉弾戦しかできないし裕樹はマナがない状態だけど、どうするの」
「秘策がある。スパイ活動をしてるいた際、使い魔召喚の魔術を会得してるんだよ」
「使い魔? ようは手足となるしもべでしょ」
「ああ。縁がある触媒を用いれば強い使い魔も召喚できると思う」
「わかった。召喚が終わり次第しかけましょう」
裕樹は腰袋から二枚のカードを引いた。一枚は剣を生成する魔術。もう一枚は召喚に必要なカードだった。剣を引き抜きカードへ突き刺した。
[恋焦がれし強者。汝、我の剣となり権原せよ]
「その詠唱なに?初めて聞くんだけど」
「完全オリジナルだ」
カードからブラックホールのような黒い球体が生まれた。球体は人型を象るなり色彩がはっきりしていった。白髪をなびかせる少女は黒いロングコートを着て片膝を立てていた。
「召喚に応じ、はせ参じました。我が名は宮本武蔵」
顔を上げた武蔵の顔立ちに琴乃と裕樹はびっくりした。本来なら動物を呼び出す魔術はずだが、まさか歴史に名を連ねる人物が登場するとわ。
「どういうことよ」琴乃が裕樹の胸倉を掴む。
「理由はわからない。でも戦力にはなりそうだろ?」
「そりゃそうだけど」
琴乃の視線に武蔵は頭を下げた。
「宮本さんは何ができるの?」
「私ができることなど。剣術のみでございます」
「でも刀持ってないよな」裕樹は両手を確認した。
「金重、了戒」
両腰に刀が生まれ、引き抜く姿はまさに侍だった。身の丈ほどの長さを有した刀を構える武蔵に裕樹は心強さを覚えた。
「じゃあ行こうか」
三人同時に走りだした。琴乃はマグで防御壁を展開、裕樹は身体強化の魔術を倍速、強度鉄で行い武蔵は一心不乱に走り続ける。
「魔術師か」悪鬼はニヤッと笑い地面に拳を押し当てた。爆風が地面をえぐり、えぐれた破片が銃弾のように飛び散る。前線を走っていた武蔵が柔軟に両手を使い裕樹に向かう岩を切り刻む。
「俺はいい。琴乃を守ってくれ」
「私はあなたに呼び出された刃だ。あなたの為に刃を振るうことはあれど、知らぬおなごの為に刃を汚すつもりはありませぬ」
防壁に風穴が空いたことを目視し、すかさず二本の剣を錬成する。武蔵の剣術を見よう見まねでこなし岩をことごとく切り落としていった。
「なんと」武蔵の驚き様に目もくれず裕樹はさらに加速して悪鬼の術から琴乃を守り切った。
「宮本さん……彼に触れず拘束することは可能か」
「手足を落としてしまえば不可能ではないが、出血死は免れん。一太刀で息の根を止めてしまった方が彼の為であろう。それと宮本さんはよさぬか。武蔵でいい」
武蔵の刀が悪鬼の首を捕える。だが悪鬼は半身をさげ右からの刃を蹴り上げた。悪鬼の手が武蔵に触れそうになり咄嗟に裕樹は悪鬼にせまる。手を掴むなり腕の血色がなくなり、すかさず持っていた剣で自身の肩をそぎ落とした。悪鬼から距離をとり左手でカードを引く、グリーンのカードは美羽の癒し魔術。みるみる痛みがなくなっていくのを感じた。だからと言って腕が再生するわけではなく痛覚が遮断したような感覚があった。
「無能どもが。俺を止めてくれよ」
悪鬼の涙。歩くだけで地面が風化し、道端に咲く花はことごとく枯れていく。パトカーは劣化しタイヤはぷすーと音を立てパンクする。
「体は大丈夫。後でリセットかけてあげるから」
琴乃の声に背を向け裕樹は再び歩き出す。琴乃が防御壁を展開したことに安心し、裕樹は足を速めた。
(こんな日に限って炎帝、雷帝も使えない状態なんだよな。さぁこの窮地どうする)
右から武蔵も参戦して金重のみの武蔵と片腕のない裕樹は共に行く。悪鬼との距離は縮まり武蔵が先に切りかかった。右肩から降り下ろされた刃に悪鬼が悲鳴を上げた。
「そうだ。俺が欲しかったのはこれだ。この痛みだ」
手傷を追っても相変わらずの口調に裕樹も切りかかる。人間であるという事実が裕樹の理性に歯止めをかけ幾重に刃を振るうが致命傷にはならない。
(あれは人の形をした鬼だ)
そう飲み込み悪鬼目掛け刃を伸ばした。手には血肉を切り裂く感覚が残る。瞳の先には喉元に剣が刺さる悪鬼がいた。剣を引き抜くなり悪鬼は跪き、声にならない声で雄たけびを上げた。
「命がこぼれる」
聞き取れたのは、この一文だ。悪鬼は地面に顔を擦り付け灰の様に消し飛んでしまった。
「やっと終わった」琴乃は崩れるように倒れ込んだ。
「大丈夫か。琴乃」
裕樹も肩で息をし琴乃に歩み寄った。
リセット と琴乃が唱えると戦闘中にかかっていた強化の魔術が解除され右腕は元の状態に戻っていた。裕樹は手の感覚を確かめるように手を握り開きを繰り返した。
「主、怪我は大丈夫ですか? かなりの出血があったように思えますが」
武蔵の心配そうな顔に辺りを見渡す。半壊した町に大量の血のりが付着しており見守っていた警察も辺りの惨状に腰を抜かしていた。
「任務ご苦労」
突如現れたのは小夜だった。辺りの警察に復旧指示を出し、ずけずけと現場に踏み込んできた。
「悪鬼はどうだったの? あまり見ない事例だから警察も対応に困ったものよ。話はここから。悪鬼がまとっていた魔術にどんなものがあったか知りたいのよ」
「血流操作、細胞破壊や触れたものの分解だった」
「そんな術式があるなんて……」
「仏魔官経験が長いあんたなら悪鬼を見たことくらいあるだろ」
「ないわ……悪鬼に出くわしたことは仏魔官になってからもない」
「どうしたら、あんな存在が発生するだよ」
「わからない。悪鬼がここにいたことも守護者として呼び出された宮本武蔵が存在する事実ですら頭がパンクしそうよ」
「今度のワードは守護者か……」
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