第24話 付与魔術

 駅前の歩道でアクセサリーが販売されていた。本日は魔術道具の買い出しで放課後、琴乃と寄り道をしていた。

「一つ千円」大柄の外人が言った。

 財布を開き琴乃と顔を見合わせ頷く。

「これ全部ください」

 全部? と聞き返した外人に万札を三枚見せ、ようやく理解してもらえた。袋にアクセサリーをまとめた外人は店じまいを始める。

「これで当面マグには困らないわね」

 大き目の指輪をはめた琴乃は嬉しいそうにそう話す。裕樹も袋から指輪を取り出し中指に通す。どくろのデザインが装飾した指輪。

「なあ。文明物から魔術を発動するって実際どうなんだよ」

「どおって? しっかり発動してるじゃない。不満でもあるの」

「不満がどうこうじゃないくてさ、原理というか……」

「ああ~。そんなことが気になるまでに成長したか」

「話を逸らすなよ。付与魔術の原理はおおよそわかってるけど魔術道具の意味が分からない」

「いうなれば贄よ。指輪を贄に魔術起動をしてるんだよ」

「違う。どうして文明物なんだよ。付与するなら紙でもいいだろ」

「わかってないわね。加工技術、成分に触媒とするだけの価値があるのよ」

「製作者の魂でも宿ってるとでも?」

「違うわ。私たちは技術を利用しているのよ」

「よくわからん」

「口頭で説明するのは難しいかな。でも覚えておいて。私達が日常的に使ってるスマホもテレビも現代技術がなしえたものだって」

「なるほど。現代技術をマナの代用に使っているわけか」

「その通りよ。術式起動にマナを消費するけど大部分は現代技術で補っているのよ」

 自宅に帰るなり裕樹はテーブルに着いた。カードキャスト と唱え腰袋からひたすらカードを引き机に並べていく。アクセサリーの総数だけカードを並べカード上に指輪やネックレスを置いていった。カードは無意識に付与魔術を行使していく。

「どう終わった?」琴乃が顔を出す。

「付与は完了したよ。次は琴乃の番だな」

 琴乃まで歩み寄りマテリアルがぶら下がっているアクセサリーを引っ張り上げる。賢者のマテリアルを手の中に納めた。

 全身から体力を吸われるような感覚は何度経験しても慣れることはない。マナを注ぎ込み次第よろけて壁に背を預けた。

「大丈夫? マナを使いすぎじゃない」

「付与魔術は余裕がある時にしかできないからな」

「だからって」心配そうな眼差しを向けられ裕樹は一人で立てるところを見せた。

 千鳥足でテーブルまで戻りアクセサリーをかき集めた。触れてみて付与魔術は成功していることが分かった。マグをそのままに寝ころび座布団に顔をうずめる。

「そんなところで寝たら風邪ひくよ」

 そんな注意など今の裕樹には届いておらず瞬く間に眠りに落ちた。意識がはっきりしたのは目覚まし時計の音色が耳についた時だった。

 おはよう と顔を出した美羽。

「魔術を使うのはいいけど、しっかり後片づけしてよね」

 朝から説教モードの美羽に はいはい と返事を済ませ片付けを始める。本日、日曜日。特に予定もない裕樹は片付けを終え部屋に戻りベットへ入った。天井のシミを見つめ魔獣との一戦を思い返す。

(マナ、魔術回路、魔術強度。カードキャスト。付与魔術)

 そんことを思い寝返りを打つ。

(雷帝、炎帝を常備使えるようにしとかないといけないのか)

 バタバタと足音が聞き取れ部屋の戸が勢いよく開く。

「裕樹起きてる」琴乃の声だった。

 琴乃に背を向けるように再び寝返りを打つ。

「あんた彼氏っぽいことしなさいよ」

「彼氏っぽいこと?」のそっと上体を起こし眠り眼をこすった。

「デートよデート」

「放課後に買い出しならしただろ? マグも作ったし。少し寝かせてくれよ」

「ばっかじゃないの」

 ポニーテールを揺らしながら近づいてくる琴乃。

「魔術師はデートもできないのかしら」

「そもそも俺ら、カレカノだっけ?」

  は~と琴乃の声が部屋中を響く。

「俺、告白とかしてないだろ」

「告白がないと関係性を理解できないほど鈍感なわけ?」

 琴乃は裕樹の胸倉を掴み手繰り寄せる。強引に唇を奪われ裕樹はあたふたした。

「朝から何すんだよ」

「私との関係は使徒と咎人だけなわけ?」

 琴乃の瞳はうっすらと湿っていた。

「わかった。わかったから泣くな」

「じゃ裕樹の決意、口にしてよ」

「決意?あれか……琴乃を使徒にした責任を取りたい。これでいいのか」

 右頬に痛みを感じた。

「他にいうことがあるでしょ? なにカッコつけてるの」

「わかったよ。俺は琴乃のことが好きです。隣にいさせてください」

 それでいいのよ と頷く琴乃に納得がいかない。致し方なく琴乃の手を引き抱きしめる。すると扉から美羽の姿があり顔が赤くなる。口元が[見てないから]と言っており、さらに顔が熱くなった。

(こんな交際のスタートも俺らしいか)

 琴乃から離れ二人してリビングへ向かう。リビングでは既に箸を握りしめる美羽の姿があった。お腹減ったよ と頬を膨らませている美羽に頭を下げる。食事は昨晩のおかずだった。

(朝から揚げ物かよ)

 声に出してないはずが琴乃は不機嫌そうだ。

「あまりもので悪かったわね」

 一口食べ そんなことないぞ と咀嚼した。美羽が立ち去るのを確認した裕樹は口を開く。

「デートってどこへ行くんだ?」

「今回は私に任せて」

 水族館のチケットを見せつけられ あ~と納得がいく。水族館のチケットは仏魔官としての報酬で千鶴さんから頂いたものだった。

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