第22話 正義の味方
三限目の授業が始まり裕樹は眠気に負け教科書を壁に机に突っ伏していた。明美先生の授業であったが注意もされることなく三十分が過ぎた。そんな時スマホのベルが眠りを妨げる。ほれほれ出番だぞ と明美先生から声が掛かった。クラスがざわめく中、琴乃とアイコンタクトをして教室を抜ける。
「場所は?」と投げかけられ急ぎスマホをチェックした。場所はどうやら学校から電車を乗り継いだ所らしい。
「いったん駅に向かうぞ」
走ってようやく駅につくも電車の待ち時間にあたった。待ち時間は初任務とあって緊張しているのか手の震えが止まらなかった。そんなだらしない手元を琴乃が握ってくれた。
「セーブ」
「なんだって?」
「お守りよ。これでどんな魔術を使っても、あなたの体を今の状態に戻せるから」
「肉体のセーブポイントね。琴乃の魔術は時間を遡るものではないんだな」
「私が生きている限り、あなたがどんな魔術的変貌を遂げても元に戻せるってわけ」
「変わった魔術だな」
「魔法じゃないんだから。時間を遡ることなんてできるわけないでしょ」
「了解。俺は琴乃を守るから」
電車に乗っても琴乃は手を離してはくれなかった。戦闘は幾度も重ねているが、実践だと思うと緊張が沸点まで到達していた。
「そんなんで私を守れるの?」
「武者ぶるいだから問題ないよ」
電車を、いくつも乗り継ぎ最寄り駅に到着した。町は既に避難が行われたのか人っ子一人見当たらず、歩くたびにパトカーが目に入る。
カップルと間違われたのか警察から 危ないぞ と注意を受け手帳を見せた。
「仏魔官でしたか。通りください」
案内され向かった先で発砲音が数度して、さらに緊張感が高まる。大型魔獣と遭遇するまで何人の警官が倒れていたことか。血みどろの現実が恐怖を煽り今にも引き返したい気持ちを必死で飲み込みこんだ。発砲があった場所まで道案内され、ようやく大型魔獣の姿を目にした。クマのようながたいに、オオカミのような長い鼻を持った魔獣は全身に銃痕があり出血が見られる。それでも足を止めず警官に鋭利な刃を突き刺した。
「裕樹、マグを用意して」
持ちうる限りのマグを渡し、琴乃は地面を蹴った。
「私が足止めするから」
警官を救助し魔獣の腕を掴んだ琴乃は雄たけびを魔術防壁で回避した。相撲状態の中、琴乃は一歩も後退することなく腕を弾く。どうやら力比べは互角のようで戦況は硬直する。
右からの攻撃が鼻先を横切りバク転で回避をした。琴乃の戦闘は人間離れしている以上に戦い慣れした動きだった。
「裕樹早く」
そうは言われてもマグの生成にマナを使い果たしていた裕樹は雷帝を呼べる状態ではなく魔獣の眼を直視する。幻惑の魔眼が魔獣を拘束するまで数秒とかからず、だが動きだすのも早かった。
(魔眼も使えないほどにマナが枯渇しているのか……)
動き出した魔獣は再び琴乃に襲い狂う。だが幻惑の魔眼を再現したわけでもないのに再び拘束魔術が魔獣を禁足する。
「千鶴いるんだろ」
「私はここよ」パトカーの影からひょっこりと顔を出した。
「単独行動は禁止って命令があったはずだけど」
「琴乃と俺。二人だから問題ないと判断した」
「なら最後までやりなさい。見て」
指差された先では魔獣がまたも幻惑の魔眼を破り琴乃に拳を振るっていた。琴乃は鋭利な爪から辛うじて、よけてはいる。制服は切り刻まれ下着が露わになっていた。
「魔獣に致命打を与えられる魔術を持っているのは裕樹だけよ」千鶴の一言に考え込む。
「いや~その実、付与魔術に専念しすぎてマナが空穴で」
「は~? 雷帝は?炎帝は?」
「自身への付与魔術は今はできないかな……」頬をぽりぽりとかく。
「あんた何しにここに来たのよ。できることをしなさい」
「できることを……」
カードを引くなり十字を描いたカードが手元に来た。使わなくても身体強化の魔術だとわかり使うこと躊躇う。だがそんな場合じゃない。俊敏に動き回る魔獣は町を破壊し琴乃との距離を詰めていた。
裕樹は走りながら「倍速、強度鉄」と条件を公言する。動き出した足が魔獣までの距離を瞬時に詰め顔面に拳を飛ばす。身体強化が成功したのか手に痛みは感じず回し蹴りからの、かかと落としで追撃した。
「ここからは俺の出番だ。琴乃は見ていてくれ」
琴乃へ背を向けカードを引く。見ずとも、もうわかる剣が示されたカードだろうと握るりつぶす。カードは剣となり引きずったまま魔獣の元へ向かう。咆哮に向かい剣を振り上げる。左目に外傷を与え腹部に二撃目、三撃目を与えた。刃は爪で受け止められ軽快に背後に周った。
「こいよ。化け物」
再度カードを引き手の中に納まめる。人狼のカードは両腕へ反映され魔獣に近い見てくれになっていた。得物のごとく爪で背中を撫でた。傷口から血しぶきが上がるも相手は微動だにせず魔獣は振り返り肉弾戦へ突入した。
「スイッチ」琴乃からの指示に一歩後退する。
致命傷を負わせるために腰袋へイメージを流す。貫くだけの一撃を連想しカードを引いた。
「やっぱり最後はゼロ距離か」
爪でカードを貫き手刀を構える。爪にまとった雷撃に人狼の毛が逆立った。スイッチと地面を踏切、現状可能な最高速度で両足を動かした。もつれそうになるほど脚は加速し次の瞬間、腕は心臓の位置を射抜いていた。引き抜いた腕には心臓が握られており即座に握りつぶした。
「初勝利の味はどう?」
「血の味がしたよ」
魔獣はみるみるサイズダウンして子犬に戻った。
「犬にまで憑依するのか邪気は」
「犬だけじゃない。人にだって乗り移る。だからこそ咎人は忌み嫌われるのよ。邪気を呼び寄せる体質を持って生まれたのが運の尽きね」
(運の尽きか……)
自身が咎人である葛藤以上に今は別の問題に直面していた。
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