第21話 運命共同体

 放課後、明美先生の話が気が気でない裕樹はだんまりと琴乃の隣を歩く。

「ちょっと公園に寄らない?」

 琴乃の提案に後ろをついていく。シーソーにまたがった琴乃に手招きされ反対側に腰を下ろした。古びたシーソーがキーと異音を奏でる。

「話があるんじゃない?」

 琴乃の真剣な目元に小さく息をはき先生からのアドバイスを話した。

「私が前衛ね~」くすっと笑う琴乃。

「無理な話だろ」

「無理だと思うならマグ貸してくれるかな」

 二人はベンチに場所を移した。裕樹はポケットの中から緑が付与されたマグを手渡す。

「発動条件とかあるのかな~」指輪を左右から観察している。

「俺のマナを微量流すだけだ」

「こつってそんだけ?」琴乃は頬を膨らませた。

「わかったよ」

 赤、黄のマグも渡し説明を始める。

「緑は移動、防御。赤は発火。黄色が帯電だ」

「そっけない説明ね。トリガーとかあるんじゃないの?」

「まずはイメージすること。もう一つはイメージと色を間違えないことだな」

 そう話したそばから琴乃の全身に球体上の防御壁ができ、裕樹は軽くノックする。日常的に使っているからこそわかる。強度は鉄以上で全身を覆う工夫までされている。初心者としては合格点だった。

 さらには雷撃で缶を射抜いて見せた。どうやら魔術の素養は裕樹より上らしい。

「最後に炎の魔術ね」

 拳が燃え上がり指輪が腐り落ちる。

「私の魔術と仕様が異なるとわいえ所詮魔術ね」

「所詮? 付与するのにこんだけ時間がかかったんだぞ」

「裕樹はマグに付与されている術式を理解してないからよ」

「術式? そんなものがこのマグに書かれているのか?」

「書かれているんじゃない。意識的なものよ。裕樹はカードキャストが専門かもしれないけど本来なら詠唱やら術式やらを使って魔術起動をするのよ」

「どうせ俺の魔術はシンプルですよ」裕樹はソッポを向く。

「そんな怒らなくてもいいじゃない。魔術は大抵、親から子へ受け継がれるものよ。私も美羽もそんなことはないから固有ではあるのだけど」

「親は錬金術師だもんな」

「私もこれで前衛で戦えるってわけね」

 その言葉に背筋が凍った。

「琴乃は前衛で戦いたいのか」

 震える声を必死で誤魔化し琴乃と目を合わせる。

「私は使徒よ。肉体面での強度は裕樹の比じゃないのだから前衛は当たり前のことでしょ」

「だからって無理しなくてもいいんじゃないか。琴乃から呪詛を供給されていれば俺だって肉薄を図ることぐらい可能だ」

「男らしいこと言えるじゃない。妥協して二人でってのはどう」

「琴乃は仏魔官としての仕事を一緒にこなしてくれるのか?」

「運命共同体なんだから当たり前でしょ。今までの様に見てるだけなんて嫌」

 琴乃の決心は固いようで断固して共同戦線を譲ってはくれなかった。いつものように身近で見ていてくれればいいのにと裕樹は思う。だが付与魔術の鍛錬は本来、琴乃が魔術を使えるようにと磨き上げたものの為、特訓の成果が実ったという安堵もあった。

「わかったよ。これからは一緒に戦おう」

「そろそろ夕飯の時間よね。美羽を待たせちゃう」

 自宅に戻るなり大きな封筒がポストからはみ出ているのが見えた。琴乃に見られないようこっそりと引き抜く。

「私、先行ってるから」

「ごはん楽しみにしてる」

 二人が別れ裕樹はその場で封筒を開封した。中には一枚だけ手紙が入っており任務と書かれた文字が見えた。

[任務 魔獣出没の為、緊急警報が発令されております。大型魔獣の為、単独での戦闘を禁止。連絡があり次第、急行することを命じる]

(これが仏魔官の任務か~ 授業中とかにはやめてほしいものだ)

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