第20話 人助けの先へ
昼休み絶好調の体で明美先生の喫煙所である屋上へ足を運んでいた。調子よく階段をのぼるなり明美先生の姿が目に入る。火がつかないのかライターを何度も擦り付けていた。
「はい」マグを使い点火させる。
「器用なもんだ。もうそんな微調整ができるようになったのか」
ふむふむと感心しながらも欠かさずタバコをふかした。
「相談があるんじゃないのか?」
裕樹は朝の出来事を話した。
「君は好んで呪詛を受け入れたのかい? 彼女の好意に甘えたのかね?」
「等価交換かなっと」
「呪詛は呪いそのものだ。好意がなければ有難迷惑ってもんさ。第一彼女は本当にジョギングが必要だと思っているのかね」
「本心はわかりませんが一緒に戦うためだとか」
「一緒に戦うか……。 それはいい提案だ。そもそも君が前線に立つことすら間違っている。二人一組でペアを組み君は後方支援をするべき人材だ」
「なぜ琴乃が前衛なんです?」
「簡単な話さ。使徒は人間が本来持つ筋肉を倍以上有効利用できる。いうなれば人を超越した存在が使徒さ。何を躊躇う。マグを与え君が彼女を使役するればいい。付与魔術も他人へ壌土できるほどには上達したのであろう」
ふーと吹かれた煙にむせ込む。
「だからって使役なんて言い方は……」
「逆に心配だよ。君の肉体はどうなっているんだ。呪詛を取り入れて動けるとかの話ではないはずなのだが」
「おかげで力が漲ってますよ」
「そういう使い方もありか」
明美先生は一本目を火種に二本目をつけた。
「大空をドーピングする役割か。まぁ模写の魔眼ありきの君の魔術にあってこその柊ってわけだな」
「はい。ジョギングを一週間して感じました。人間の肉体では今まで通りの戦闘は無理なんだと」
「正論だな。君は目に頼る節があるからね。改善しろとは言わないが人間をやめるなよ大空」
「はい」頭を下げた。
「ここに来た理由はそれだけじゃあるまい」
「もう一点。新しい手帳が届きまして刑事課魔術統括係に仏魔官って記載が付いたんですけど先生は仏魔官をご存じですか?」
「ご存じもなにも私の前職さ」
灰を携帯灰皿に落とした。
「ならどんな役職かも、ご存じなんですよね?」
「ああ。知ってるとも。簡単に話せば。邪気から一般市民を守る仕事さ」
「シンプルな説明ですね」
「そうだともシンプルが一番さ。付け足すなら個人では狩り切れない大型魔獣の討伐が仕事になる」
「大型魔獣?」
「琴乃がやられたのは机を媒介にした邪気だ。だが邪気は人を動物を魅了しとりつく。そんな取り付かれたものを正常化するのが仏魔官だ」
「なんか面倒くさいですね」
「面倒なことがあるか。君は個人である柊を救い、次に大原をその父を救った。救いなど所詮偽善だ。一を助けるなら次は十人を助けることになる」
「どうして俺が赤の他人の為に……」
「それが仏魔官の仕事だからだ」
「仏魔官は正義であるとでも?」
「移ろいだ人を救済するんだ。正義じゃなかったらなんだっていうんだ」
授業開始十分前のチャイムが鳴り渡り話はひと段落した。
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