第17話 連日の戦闘

 二日目は前日のこともあり自粛を心がけていた。一日を終えたつもりで、帰宅しようとする。優雅な足取りで校門を抜けようとした。

「ねぇ君が大空君」

 無視して脚を動かそうとするなり肩に手が乗る。致し方なく振り返るとそこには金髪の女性が立っていた。

「これがハニートラップやつか」

「なにそれ。うけるんだけど」

「自分になんのようですだ?」

「所属先から業務命令が来ててさ」

「まさか一戦交えて来いと」

「まさにそう。千里眼でも持ってるの?」

「昨日の教訓だよ」と小さく息を吐いた。

「なにそれうけるんだけど」

(うけねぇよ。早く琴乃に会いたいな)

「じゃ始めようか」

 そういうと相手の女性は小さく構えた。裕樹もポケットからマグを取り出し防御壁を張って一打目を警戒する。

「じゃいくよ。倍速」

 地面を蹴ったと思えば気づけば背後に気配を感じた。瞬間移動で前進し錬成のマグで盾を構築して構えた。

「まだ追いつけるか~。なら三倍速」

 目にも止まらぬ速さで接近される。引かれた拳が盾、目掛け飛ばされた。

「硬度化。鉄」その言葉にどんな意図が隠れているか変わらないが拳は金属製の盾にめり込み全身に衝撃が走った。一発かと思いきや、怒涛の連打に盾を離した。

「早いし、硬いっしょ。私の魔術特性は身体機能の強化。まぁそれなりにリスクもあるけどね~」

 その時、目がうずいた。対抗するには獣化を使うしかないという感情が芽生える。だが一点だけ気がかりが生じた。直接的身体強化は戦闘後元に戻れる保証があるのかという点だった。

「まだまだ四倍速」

 もう早いのなんの。背後に周られるまでかかる時間はおおよそ一秒足らずで錬成をする間もなく指に残った八個のマグを防御へ回しギリギリ立っていた。一瞬の隙にカードを抜くが獣の絵柄が雑念となり邪魔をする。相手の魔術も検討したが、使用後人間から離れてしまう可能性から却下した。

 カードを引けない裕樹は目を凝らした。目があった瞬間を見逃さず幻惑の魔眼が持つ効力を利用する。

「身動きとれない」

 イメージは縄で縛られる相手。その隙にカードを引く。

「インストール 雷帝の証」

 全身から稲妻が放たれ戦闘準備は整った。

「君の魔術は個性的だ。まさか体内を一個の物体として加速をしているとはね。筋力が上がってるわけでもなく皮膚が金属かしてるわけでもないのがその証拠だ」

 裕樹は口を開きながら地面に手を擦り付ける。一本の剣が錬成されるなり正中線上に構えた。

「種明かしはこれくらいにしようか。そろそろ行くぞ」

 幻惑を解くと歯を食いしばった相手が正面特攻を仕掛けてきた。拳に合わせタイミングよく剣を振るう。剣は拳にかすめることなく肩から先が吹き飛んだ。

「まだ続けるか?」クリアで再生させ相手の戦意を問う。実力の差を理解したのか、おとなしくなった。

「私になにしてほしい? エッチなのは困るぞ」

「そんなことお願いするか。名前と魔術結社を教えてほしい」

「赤城 渚 アーレス所属」

「アーレス?俺もアーレス所属なんだが……」

「派閥ってのがあるんだよね~うけるっしょ」

「まったくうけない」

 校庭の脇に腰を下ろした二人は顔を見合わせた。

「あんた。本当に柊 琴乃と付き合ってる?」

「さぁ交際はしてないが」

「ならいいけど。彼女のファン多から気をつけなさいよ」

 赤城 渚と名乗った女性はスカートについた土をはたき またねとだけ言い残し去っていった。

 一戦目を境に挑戦者は増え、情報の集まる速度も加速する。放課後廊下を歩いていただけなのに八日目にして八人目の相手は姿を現した。

「僕、無所属だけど問題ないよね」

 学校内過半数の情報を集めた裕樹からしたら今更どうでもよかった。毎日のように繰り広げられる戦闘から逃げ出したかった。

 先走る相手の手元には剣が握られており剣士と判断した裕樹はとっさに壁から刀を錬成した。触れ合う刃が軽いことに気づいた裕樹は即座に二本目を錬成する。

「二刀流だね。実物を見るのは初めてだよ」

 呑気な相手の剣を二本の刀ではじき一歩後退した。後退を見逃してもらえずダンスのように舞う動きに翻弄されながら両手を交互に防御に回した。

「君は速さが売りじゃないのかい」

「今日は火力でいくさ」

 腰から赤色のカードを引き抜きインストール炎帝の拳 と唱えた。体がひび割れ体温が異常に高まるのを感じた。

「見た目も変わるんだね」

 裕樹の皮膚は炭のような色をしていた。

 剣が刃に触れる瞬間、発火と共に爆発が起こった。だが相手も諦めることなく剣を振る。

「お前の魔術はなんだ。隠してちゃ俺には勝てんぞ」

「隠してないんだけどな」

 幾重に刃を交わし相手も汗だくだ。

十字に構えガードの体制をとる。相手も諦めることなく一撃、二撃と剣を振っていくうちに爆発が起こらないことことに気づいた。それどころか両腕の袖に切り傷で生まれていた。

「そろそろ気づいたかな」

「ああ。もう見えた」

(相手の剣は物質化と無機質化を繰り返す魔術道具だ)

「次行くよ」

 裕樹は刃での戦闘を諦め相手に標準を定め右手をかざす。手先からこぼれ出る炎を一つの球体へ形状変化をさせ放出を続けた。相手は逃げ回るだけで、そのうちスプリンクラーが作動する始末だ。

「アンインストール炎帝の拳」

 肌の色が戻り相手はつまらなそうにしていた。

「本気の戦闘なら校舎内じゃ無理そうだ」

「あれで本気じゃなかったのかい」

「君があまりに魔術を使わないから興がそがれた」

「ひどいな。僕の魔術は……」

「その剣を権原させる能力だろ~。術者の任意で切れ味が落ちる剣か」

「そこまでもう見抜いて」

 相手も竹刀入れに剣を戻し試合は終わった。手帳をみせるなり向こうから連絡先を教えてきた。

[情報を提供するよ]

 一仕事終えたと校舎外の自販機へ向かう。校舎内は人気はなく足音だけがこつこつ付きまとう。階段を降りていくと夕焼け空に染まる琴乃の姿があった。

「お仕事おつかれ。今日もまたどこぞの誰かと戦ってきたんでしょ?」

「まぁな」二人は歩き出す。

 校舎を後に自販機前で止まった。小銭を取り出そうとポケットをまさぐるがマグばかりでなかなか見つからない。そんなことをしてるとぼとんと音がし自販機の排出口から音がした。

「今日ぐらいおごってあげるわよ」

「もしかして心配してくれてるのか」

 ぽっと琴乃の顔が染まる。

「袖も焦げてるし、心配しないわけないでしょ。私の為にも」

「はいはい。最後のがなかったら最高だったよ」

 二人は歩き出した。いつもなら手が触れそうな距離を歩いていたはずが積極的に手を繋ぐ琴乃がいた。

 帰宅した頃には大量の情報がLINEに流れてきていた。魔術結社の名称とフルネームが添えられ情報をスクリーンショットで納め明美先生へ渡す。懸命に作業をしていると美羽から声が掛かった。

「今からいい?」

「相談ならいつでも乗るぞ」

「うん」美羽は俯く。

 場所を庭に移した二人は満天の星空を仰ぐ。

「星すごいね」

「ああ。この辺りは街灯がないからな」

「ロマンがない」

 二人して笑っていると琴乃が窓ガラスをノックした。どうやら夕飯も近いようだ。

「相談ってなに?」

「あのね。私も裕樹とおねぇちゃんの手伝いがしたいの」

「手伝い?」疑問に小首をかしげた。

「誤魔化さないでよ。私だって薄々気付いているんだから」

「魔術のことか?」

「それ以外にある? 私も戦える。戦闘は無理でも補助なら。裕樹は刀作れるんだよね?」

「美羽のお父さんほど上手じゃないけどな」

 左手を地面にかざすと一本の刀が錬成され指輪が崩れ落ちる。

「これが錬金だ。悪いな。お父さんの魔術を使って」

 うんんと首を振る。

「裕樹の力になれてるなら本望だよ。お父さんの願いは私の蘇生だもん。私がここにいる時点で願いは叶ってるんだよ」

「そんなものか」

「そんなもんだよ。難しく考えすぎ」

 刀を地面に刺す。すると美羽が引き抜いた。

「危ないから」と注意するも「こうしないと私の魔術は発動しないから」と肩へ刃を当て引き抜いた。言うまでもなく肩から血があふれる。カードキャストと唱えるも「私には回復しかないから」と突き離される。

「ハートゴールド」

 背中から天使の翼らしきものが現れ「天使の羽衣」と口にした。美羽は翼に包まれる。翼が消え傷から緑のオーラを放ち、傷がみるみる小さくなった。

「私の魔術どう? 力になれない?」

 そう言われたのと同時に新たなカードが生まれた気配を感じ取る。

「美羽はすごいな」

 頭をなでるが本心では自身の多芸さに身震いをしていた。

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