第16話 炙り出し作戦

 朝方の習慣として、琴乃の寝室に忍び込みマテリアルへマナの供給をする。だが今日の目的は違う。

 琴乃の部屋でキョロキョロと辺りを見回した。いびつな形の目覚まし時計の設定時刻を遅らせ部屋を後にする。再び部屋に戻りベットに入った。数時間後 起きて~遅刻よと騒ぐ琴乃の声がした。美羽は遅刻に気づいたのか既に家にはいなかった。パン一枚だけを加え家を出た。校門が閉まる時間は八時三十分としびやだ。家から数分だというのに校門は閉まる寸前で琴乃を抱き上げた。なになに と驚く琴乃。マグを使い飛び上がった。

「瞬間移動」

 へっと声をかき消し校門を飛び越える。距離は百メートルはあっただろうか。遅刻寸前の同士達はスゲーだとか魔術だろ なんて会話が飛び交っていた。

「大空お前ってやつは」

 背後から明美先生の声がした。どうや今日の締め出し担当のようで魔術を使ったことに呆れ顔をしている。

「後で屋上へ来い」

 これが朝一発目に行った人目に付く魔術だ。

 昼には「自販機いって」と悪態をつく美羽の為二階から飛び降りるなど、人目を引く行動をとった。

放課後には屋上でライターをこする明美先生の前で火柱を立てた。校庭からは丸見えだったことだろう。

「お前は何がしたいだ?」

 明美先生の逆鱗に触れそうだったので、刑事課魔術統括係の手帳を見せた。

「あ~小夜のやつか」タバコをふかす。

「あまり驚かないんですね」

「小夜から聞いてる。よろしくって言われたんだろ」

「はい。魔術結社をあぶりだす為に日常的に魔術を使ってほしいと命令されました」

「で思いついたのが朝からの騒動か」

 はい と頭をさげた。

「自分がやった事を後悔するなよ。あれだけのことをしておいて戦闘は不向きです、じゃすまないぞ」

「わかってますよ。危険に身をさらしてることぐらい。でも琴乃のことを俺のことをばらされるよりはリスクは低いと判断しました」

「リスクヘッジか。まぁ死なない程度に頑張りたまえ。来客のようだ私は先に行くぞ」

 明美先生が屋上から消えるとすぐさま、敵と思わしき男性が扉の前で硬直してるのが見て取れた。目が魔術の痕跡を拾い千鶴へ行きつく。

「秋月~手助けはいいぞ」

 一言だけで男性は動き出す。

「あぁぁ。あれはお前の魔術か」

 荒々しい口調。

「その話は置いておいて。お前は俺を倒しに来たんだろ?」

「ああ」威嚇口調は相変わらずで「魔術結社セブンズ所属」と名乗りだした。名乗りに応じるよう裕樹も「魔術結社アーレス所属 大空 裕樹だ」と公言する。

「話は早え。一戦交えろや」

 腰を落とす相手にポケットからありったけのマグを握った。迫りくる相手に防御壁を展開し背後に移動する。相手の腕は獣のように毛むくじゃらで鋭利な爪が防壁に接触した。

「くそがなんて強度の魔術防壁だ」

 付与魔術は未完だっと勘違いしていた節があった。防御壁に関しては外からの強度より内側の方が弱い事実を知った。

 相手の袖までまくられた両腕に掴まれる錯覚にさらにマグを使う。

「炎弾」

 ゼロ距離専門だった裕樹にとって初めての遠距離魔術。中指で相手に標準を定めるなり炎が放出された。相手は両腕を胸の前でクロスさせガードした。その様子に腰からカードを抜き壁に押し付ける。錬成したの鉄製の刀。再度マグを指にはめ瞬間移動で距離を詰めた裕樹は刀を右肩から降り下ろした。腕に阻まれるが傷を一つ残すことに成功した。

「速度についていけねぇか」

 そういった途端、制服のひざ下が破け、獣の足が現れる。地面をけった脚が見えた。だがその先が目で追えるものではなかった。右から蹴りを間一髪よけ地面に転がる。

「そんなものか。アーレスっていうのもたいしたことないんだな」

 挑発に裕樹は立ち上がる。

(あれについていくには雷帝をインストールしないと)

 バックステップを踏みカードを抜こうと腰に手をあてる。だがその動きに反応した相手のステップにさらに防壁術を使った。防壁を張ったのも束の間、相手の拳が防御壁を貫き裕樹の腕を掴んだ。

 腕がパンクしそうに熱を帯び気づけば関節は真逆に曲がっていた。

「どうだ。これが実力の差だ」

 反応しない腕には黄色のカードが握られていた。のど元を掴まれた裕樹は命越えより先に インストール雷帝の証 と喉からひねり出した。瞬間、雷が頭上から降り注ぐ。反応した相手も距離をとった。裕樹は見逃さず速攻をかけた。刀を胸、目掛け突き進むが頑丈な腕が行く先を阻んだ。

「まずは右腕もらった」

 血みどろの接戦。クリアを使いたいがカードも引けない状況で裕樹はぶら下げた腕など、お構えなしに突っ込む。雷を宿した肉体が身体能力を底上げ目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出す。右腕が吹き飛ぶを視認した裕樹は一歩後退した。その束の間、相手は腕を拾い接続した。繋げただけの腕は指先が動きだす。

 右腕を治すべく左手でカードを引き自身の体に巻き戻しを発動した。右手が動くことを確認する。グーパーを繰り返し動作確認をした裕樹は相手へ視線を向ける。

「お互い全開ってわけだな」

 裕樹は相手に歩み寄りカードを引き抜いた。願うわ白。相手に触れさせると傷どころか獣化も一緒にとける。

「白のカードとはな。どういうつもりだ」

「話がしたい」

「話だ?」顔を上げる相手に刑事課の手帳を見せる。すると大きく深呼吸をし、突如正座をした。

「魔術統括係のものかよ。早く言えや」

「悪いね。調査中だったもので」

「国家公務員様が魔術の何を知りたい」

「魔術結社の数と加入しているものの名簿だ」

「知りうり限りの情報は提供する。逮捕だけは勘弁してくれ」

「逮捕の権限もないし、同意の上での決闘だろ」

 ウィンクした裕樹に唾を吐き捨てる相手は握手を交わした。

 始まりだとも知らずに……

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