第13話 魔術結社アーレス

 夜の校舎に訪れていた。琴乃を外に待たせ一人廊下を歩く。行きついた先は自分のクラス。氷河はここにいるはずだ。あたりを見回すが前のような邪気が徘徊する姿がなくなっていた。がらーと戸を開けるなり月に照らされている氷河の姿があった。

 よ とだけ言い、まだ月を眺めている。

「話があるんだろ? 邪気もいないことだし手短に済ませてほしい。人をまたせているんでね」

「おうおう。言うね。人体錬成を成功させた賢者。使徒を生み出し自身の異常性まで無力化してしまった魔術師。いや大賢者とでも呼ぼうか」

「ああ。お前がいいことはすべて正しい」

「棺桶を用意してきたのか」

「いや……俺は話に来たんだ」

「ほぉ、そんなに魔術道具をぶら下げてか」

 両手に着けていた指輪が月光で輝いていた。

「身を守るのは当たり前のことだろ。魔術結社アーレスに所属している、お前と対面するなら、不十分なくらいだ」

 氷河の眼光が刺さる。その目はオオカミのような殺意を抱く瞳だった。

「どうしてここへ現れたんだ。武装してまで現れなくても……」

 遮るように言葉を紡ぐ。

「琴乃と美羽に迷惑が掛かる」

「咎人風情が他人への情で動くなんてな。他とは違うのかもしれないな」

「なら」裕樹は一歩ずつ距離を縮めていく。

「勘違いするんじゃねぇ。お前さんがやらかしたのは全て偉業だ。魔術より魔法に近い御業。だがな、それを良しとしないのが俺らアーレスだ。その魔術を錬金術を悪用されては困るんだよ」

「もう二度と使わないと約束してもか」目を細めた。

「約束だ~お前は既に二度禁忌を犯している三度わねぇ」

 氷河は拳を握ってみせた。拳の周りには水が渦巻き魔術の準備が施されているのがわかった。

「全て、お前の行動は監視してある。ゼロ距離戦闘しかできないこともな」

 裕樹もマグを使い壁からアルミ製の刀を錬成した。

「手の内をさらしていいのか?」

「監視していたのなら俺が使える魔術も既に把握済みだろ?」

「俺ならカードキャストに別の使い道を考えるがな」

(わかっているさ。カードによる魔術。カードによる付与魔術。このふたつを合わせる最大奥義の可能性を)

「早くしないと殺しちゃうぞ」腕が顔横を過ぎ去り、膝が腹部を殴打する。裕樹はよろけ壁に寄り掛かる。

(水に対抗できる色を連想しろ)

 願って引いたカードは黄色。

「願ったカードを引けるところまで成長していたか」

「インストール雷帝の証」

 教室内は、みるみる明るくなり裕樹が発光を始めた。かと思えば刃が氷河の頬をかすめ、裕樹の痛みと同じ位置に膝が当たる。

「それが模写の魔眼か」

 距離をとった氷河が銃を象るように指を構える。水弾が指先から放射するも裕樹の刃がことごとくを切り落とす。

(琴乃の父との一戦。あの時、可能性はあった。自身に付与魔術を行使できる可能性が)

 数発の水弾を掻い潜り裕樹の刃が首元を捕えた。

「チェックメイトだ」

 だが氷河の動きは止まらない。汗のようにしたたれた水が剣を形成し裕樹に向けられる。

だが既に裕樹の手元には青色のカードがあった。水で象られた剣は氷つき、カードを貫くと同時に微塵と化す。

「魔術強度が人のそれを上回っているな」

 どこからともなく聞こえる声。くぐもっていて性別はわからないが、こちらを監視しているのだけはわかった。

「あんた誰だ」

 戦意喪失し崩れる氷河を壁に預け声を張った。

「魔術結社アーレスの幹部、秋月。君と同じ魔眼の持ち主だ。君の魔術強度は別格だね。他人の魔術を凍結させるなんて」

「そこまで褒めるなら見逃してはくれないか。いずれ役に立つかもしれないだろ」

「交渉材料としては足らなすぎる。確約が欲しい」

「ならこれでどうだ? アーレスに加入したい」

「その文句には何の価値がある」

「俺は魔術結社アーレスの為に活動することを宣言するよ」

 辺りを見回すと小さな影があった。

「目で語る戦いをしようか」

 影から何かしらの魔術が発動した。気配を感じた途端、身動きが取れなくなる。縄で縛られたような錯覚に裕樹は目を見開いた。影からの形相がこちらを伺ている。目元は月光でくっきりと見える。透き通った赤い瞳と視線が交わり拘束の原理が、術式が頭の中を泳いだ。

「そう。君は女性だ」

 返答はなく拘束だけが解除され瞬間的に体が動く。握っていた刀を胸に向け突き進む。

 高揚する感覚に身体が加速して動く。胸元で振り上げる。洋服が裂け、ふっくらとした胸元が顔を出した。ショートヘヤーが特徴的な女性は小柄で同年代には見えない。

「あんたが魔術結社アーレスの親玉か」

「親玉なんて失礼ね」

 月が傾きその素性が明らかとなる。

「試験は合格よ。身を守るだけの能力も眼力も……覚悟を聞いた。あなたいえ、あなた達は今日からアーレスの一員よ」

「あの下着が……」頬が染まる。

 自分の姿が眺めた少女は、いやーと裕樹に張り手をくれた。

「……君の名前は?」

「二年B組 秋月 千鶴」

 裕樹はA組なので知るわけがなかった。

「俺はA組の」

「自己紹介はいいよ」と二の句を遮られる。

 千鶴はそれだけいうと氷河の看病を始め、裕樹はこっそり退室した。教室を出るなり琴乃が壁に寄り掛かっていた。

「もう終わったの」表情は見えないが、どこか機嫌が悪い。

「終わったのか。いや始まったのか。俺とお前は今から魔術結社アーレスの一員だ」

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