第12話 発覚

「じゃあ転校生を紹介しようか」

 明美先生は手にしていた名簿で手招きした。すると一呼吸ついて美羽が入室してきた。男子連中はわ~と歓迎した.

「大空と柊の親戚にあたる大原さんだ」注意喚起が入った途端クラスの空気が一気に冷め切った。

「転校生の大原 美羽です。名前は違いますが柊 琴乃はお姉さんで大空さんは家主です。よろしくお願いします」

 家主ってなんだと、陰口が飛び交い裕樹に視線が集中する。予感していた裕樹は外を眺めていた。

(今日も平和だな)

 朝礼が終わると美羽の周りには人だかりができていた。美羽さんはどこから来たのだとか趣味はとか些細なものの中に一つだけ的を射たものが紛れていた。

「美羽さんって私達より幼く見えるね」

 その質問に周りが確かにと騒ぎ立て琴乃が仲裁に入る。

「あんた達いい加減にしなさいよ」

「でも可笑しくないか? 双子ってわけでもないのに同級生だろ」

 確信を突く質問が飛び交い、さらには「大空とは親類なのか?」など手が付けられなくなり裕樹が立ち上がり 文句があるのかと一言だけいうと冷めた集団は分散した。

 完全に忘れていた。美羽の実年齢は裕樹や琴乃より若いという現実を。亡くなったのは一年半前のことで蘇生した彼女も当時の容姿を守っている。それは若く見られても仕方ないことだ。

 亡くなった当時の美羽は琴乃同様、才色兼備だったが今は違う。精神年齢も学力も一年半遅れで先生が出す問題にも答えることができないほど全てにおいて遅れている。ただそれは本物の美羽を蘇生できた証でもあった。彼女が得ていない知識がもしあったとしたら、それこそ自分好みの大原 美羽を作り上げてしまったことになるから現実としても彼女は正常だった。

 そんな日が過ぎ去り数日たった頃のこと。下駄箱にピンクの便箋が入っており裕樹は思わずトイレに駆け込んだ。期待に胸膨らませ、いざ開封してみる。中には一枚の紙きれと琴乃と美羽が移った写真が入っていた。手紙には一文だけ書かれている。

[正体を知っている]

 だからと言って待ち合わせ場所等の記載もなく名前もない。手紙を手にしたままトイレからでると琴乃とすれ違った。

「発情期なの?」怒り口調に反論できず彼女の後をついていく。

 着席するなり琴乃に手紙の全貌を知らせた。

「知っているって大問題じゃない」

 授業中だったこともあり教師の視線に口元で人差し指を立てた。

 二限目は体育の授業で整列させられていた。

「本日は百メートル走をするぞ」との先生のからの提案にクラス中がえ~と声を上げる。

 ピッと笛の音に裕樹は大きく深呼吸をし右足で踏切った。五十メートルを超える頃には心拍数が上がり腹部に痛みを覚えながら三着でゴールする。

 上がった息を整えていると一人の男子学生が寄ってきた。

「君らを知っている」

 それを聞いた途端、便箋のことを思い出す。

「送り主は、お前で間違えないな」

「ああ。魔術結社アーレス所属、大久保 氷河だ。君をずっと見張らせてもらうよ。必要とあらば殺害も、や無負えない案件でね」

「殺害? 俺がなにしたっていうんだよ」

「自覚がない?よくないね~。使徒である柊も人体蘇生の成功例である大原も、ましてや、どちらも施せるカードキャスターはアーレスの標的だからね。予言しよう君は次の百メートル走を一着でゴールすると。君の眼がそれを可能にするはずだ」

 話をしているうちに一巡が終わり二レース目に突入した。一レース目と同じ踏切をしたにも関わらず一着で走っていた男子生徒と同率一位だった。

「なぜって顔をしてるね~」と氷河が声をかけてくる。

「君はその模写の魔眼で彼の動きをコピーしたんだ。後で鏡を見てみろよ。君の眼は金色に輝いていて美しいはずだ」

体育の授業も終わり裕樹はトイレに駆け込んだ。ジーと備え付けられた鏡を眺める。瞳は確かに金色で黒目の周りには二重に円が書かれていた。

 ポケットから手持ちのマグを用意して指にさしていく。すると大便器の扉から「魔術を備えるにはまだ早いだろ」氷河とは別人の声がした。そっとマグをしまうと扉を出て大きなため息を落とす。

(魔術師の戦場は夜ってことか……)

 歩き出した矢先、琴乃とばったり遭遇した。

「元気してる?」

「なにその質問」はぁとため息をついた。

「あんたね。なにかあったの、まるわかりよ」

 制服の袖を掴まれる。

「何にもなかったよ」と優しく口調に「なわけあるか」と突っ込みがはいった。

「私とあんたは運命共同体よ。氷河君でしょ?」

 うん と頷く。

「悪いな」と腕を振り払った。

「俺さ。お前が探している咎人みたいだ」

 琴乃は目を丸くする。

「最近邪気が発生してないって報告が入ってたけど納得がいく……」

「納得?エビデンスでもあるのか」

「たぶんだけど私にマナを分け与えることで、漏れ出すマナが減ったのよ」

「なるほど。使徒を生み出したことにより咎人として無意識にマナを垂れ流していた現象が収まったわけか」

(なら彼らが俺を敵視する理由はなんだろうか)

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