第11話 新居

 昼下がりに校舎が目に入る範囲を歩き回った。ワンルームばかり目立ち、なかなか希望する部屋が見つからない。河川敷を歩いていると子犬を散歩させる男性が正面から歩いてきた。

「かわいいね~」と寄っていく琴乃に対して犬の反応は真逆のものだった。犬歯をむき出しに、かわいい鳴き声で威嚇をしている。琴乃も気づいたのか「脅かしてごめんね」と返ってきた。

「私、使徒になったんだな~って実感したよ」

 涙ぐんだ琴乃の頭に手をのせ「いまさらだ 」とため息を落とした。

「使徒ってなんだろう」琴乃が寂しそうにいう。

「人ならざる人。ゾンビ、吸血鬼。呼び名はいろいろあるだろうけど、やっぱり琴乃は琴乃だよ。人間として感情があり涙を流している。君は生きているって」

「裕樹は疑問に思わないの。蘇生した美羽も使徒化した私も本当は作り物じゃないのかって」

 裕樹の頭に渦巻いていた雑念。彼女達の印象を素材にして作り上げてしまったのではないのかという違和感。拭い去れない感情。

「どうだろう。思ったことないな」

 嘘をついた。いかに彼女を気づつけないように慎重に言葉を選び、それでも視線は正直で琴乃の顔が見れなかった。

「そう……ならよかった。私は本物ってことでいいのよね……」

「使徒化してなにか変わったことでもあるのか?」

「魔術が使えないこととマナが必要になったこと……最近じゃ心臓が動いてる気がするけど」

「なら魔術師から一般人に戻ったと思えばいい。魔術が必要なら付与魔術を練習するから、もう少し待っててくれないか」

「わかった。あなたの努力に期待してみましょ」

 町を散策していると不動産にばったり遭遇し店内に入った。店内はレトロな雰囲気の室内をしており、老人が座っているだけだった。

「どんな物件をお探しで」

 案内され二人は座る。2DK の と口にした時、肘でつつかれ訂正する。

「3LDKの部屋を探しています」

「近辺でとなると一軒家のほうが、お求めやすいですよ」

「案内してくれますか」

 車で五分の所に、二階建ての家が建っていた。駐車場はないようだが特に問題なく、内装が気になり入室した。

「わーキレイ」とダイニングを見て回る琴乃に打って変わり裕樹はうねり声を上げていた。

「ちなみに月いくらでしょうか」

「事故物件でして六万でどうでしょうか」

 今の家賃の三倍にさらにうーと唸った。視線を泳がせ整った部屋の作りに三人分なら打倒だと自分に言い聞かせた。

「ここにします」

 そこから間取りの説明や即日引っ越しが可能なことなど、もろもろ聞かされた。引っ越しまで三日もかからず日常を取り戻すことになった。一階客間を裕樹が利用し二階を琴乃と美羽で分配する形でお互いの引っ越し作業をした。美羽は蘇生したばかり琴乃は部屋に居ついていたこともありトラック一台分の引っ越し作業で済んだ。

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