第7話 錬金術
とある日曜日。記憶を失くした街に足を運んでいた。駅から見た景色は、どこか懐かしく足を進めるたび、どことなく記憶が蘇りそうになる。横切った学校は校門前に自販機があったりと些細なことが記憶を刺激する。数分も歩くと実家があり真隣には大原家があった。美羽とは幼馴染で子供の頃はよく遊んだ記憶が残っている。
ピンポンと躊躇いなく押されるインターホンに唾を飲み反応を待った。すると眼鏡を掛けた初老が顔を出す。
「お父さん。お久しぶりです」頭を下げる琴乃につられ裕樹も会釈をした。
「入るといい」
挨拶もすんなり終え和室に通された。
「座るといい」
机を囲むように三人は腰を下ろす。
「事情は聴いてるよ。琴乃……お前、使徒になったそうだな」
素朴な声が真実だけを述べ一息ついた。
「僕に今更なんの用だい。しがない魔術師には、お前を助けてやることはできない。ましてや術者を連れてくるなんて……。お久しぶりだね。大空 裕樹くん」
「その節はどうも」
「美羽といい琴乃といい君に関わった人間は不幸になる運命なのかい?」
「返す言葉もありません」頭を下げると琴乃が机が叩いた。
「やめてよ。仮にも私を助けてくれた人に向かってそんな言い方ないじゃない」
「悪かった」
生気が抜けた声。
「琴乃は、なぜここへ来たんだい?親に会いに来たわけじゃないだろ?」
「必要なものがあるの」
「賢者のマテリアルか。誰の発案だい。使徒を正常に戻そうとする発想の持ち主は」
裕樹はゆっくり手を挙げた。
「君は優しいね。優しいついでに魔術の腕を見せてもらおうか」
琴乃の父が膝に手をついた途端、裕樹を中心に青白い光が立ち上る。咄嗟のことに裕樹は念の為、指にはめてきた指輪で防御術を展開した。青白い光からは木材の槍が生まれ裕樹の四方から放たれる。防壁に阻まれ槍が反射する。
「合格だ。私の工房に案内しよう」
間一髪でよけた槍を拾い部屋の隅に置いた。畳には槍を形成した痕跡が残されている。
(これが錬金術か)
立ち上がった父に連れられ階段を下っていく。着いた場所には大きな魔法陣が書かれており中央にはツボが置かれていた。ツボへ近づこうとするなり鼻を突く異臭と魔術防壁を感じ取った。
「これが第二テストだ。その壁を越えてみなさい」
「カードキャスト」腰に魔術を展開する。
(求めるは魔術防壁を焼き尽くす炎)
すっとカード抜くと願いが叶ったように赤のカードが現れた。魔術防壁に向かってカードを触れさせる。だが炎があふれ出すも防壁は崩れない。
「白のカードを使えば君なら容易く突破できるはずさ」
意識を絞り白をイメージカラーにするも初となる茶色のカードを引いた。視認してみてわかることがあった。防御壁は魔術では破れないということが。それに連動してか茶色のカード。地面にカードを押し当て剣を連想した。青白い光と共に床には錬成跡が現れ、一本の剣が現れる。
「なんと」驚嘆の声を背に剣を抜き防壁に刃を通すとすんなり防壁は破れ光が散った。
「防壁は三枚」口を開きながら二枚目の防御術を切りつける。
「魔術では破壊できない仕様になっている防壁だ」
三枚目まで歩み寄るとツボの中身が気になった。薄く濁った視界で三枚目を切り裂く。
「やっぱりか」ツボの中身は遺骨と思わしき骨が眠っていた。
「白のカードを使えとはこのことだろ。琴乃の父親いや錬金術師よ」
なになにと琴乃が歩み寄ってきて口元をふさいだ。
「遺骨の正体は美羽で間違いありませんね。その証拠にあなたは白のカードを使えと公言している。白はクリア、再生のカードだ」
「君は目がいい。魔眼の類か。よくぞそこまで見抜いた。褒美だマテリアルを錬成しよう」
「その必要はない」裕樹はツボを撫でカードをめくった。案の定、願いは届いたのかカードは白だった。
「これであの惨劇に終止符を打てる」
「美羽のことかな」
「ああ。記憶は朧気だが気がかりだった。それに琴乃を美羽の代用品にしているようで申し訳なかった」
剣を握りしめ柄頭から流れる血液をツボの中へ落とした。
「肉体の錬金と人体の蘇生を」
青白い光が放たれ、ツボは一人の少女へと変貌を遂げた。
「この部屋の異臭にきづかないと思ったか」
地下には死臭が漂っていたのだ。
「そこまで見抜いての人体蘇生か。正直に言おう。ツボは美羽の死後肉体を使って作ったものだ」
申し訳なさそうにそういった父の前で少女がむくってと動き出した。
「琴乃ねぇさん?」
その一言が人体蘇生が成功したことを意味していた。
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