第5話 魔術道具(マグ)

 夜は邪気狩り、昼は吸血とマナを大量に使う機会が多くなった裕樹は日中は衰弱していることが多くなった。だからと言って対策をすることもできずに日々を過ごしている。

 ある日こと。

「体術を習いましょう」

 そんなことを言い出した琴乃に、いつものようについていく。体育館脇にある柔道とみられる施設に到着した。そこには柔道着姿の暁がいた。

「怪我したらあかんから、はよ着替え」

 投げられる道着に袖を通し暁の前に立った。

 構えた暁に体が反応する。

「そのくらいの殺気は読めるようやな。これから裕樹には空手を会得してもらう。違うな~身のこなしって言ったほうがいいか。確かにお前さんの魔術カードキャストは強力で体術なんていらんと実践で経験しとるかもしれんが、これからは対人も視野に入れた戦術も勉強する必要があるってわけや」

「対人? 魔術は明るみにださない。邪気を払うために使うものじゃないのか」

「邪気を払うためだけに使うなら魔術なんていらん。見て見ぬふりをすればいいのだから」

「なら払う必要もないじゃないか」

「簡単に言うなら邪気は人災を引き起こすからってのが本音や。魔術が使えない人間にささやきかけ犯罪を引き起こす存在なわけ」

 すると横から「犯人に記憶にない事件の元になっているのよ。邪気は」と琴乃が割って入った。

「だから魔術が使えないマナが薄い人間ほど犯罪を起こすリスクがある。だが邪気が魔術を使えるものに干渉したらどうなる」

「自分達を狩る魔術師同士をぶつける」

「そう。だから人間への対策も必要不可欠なんや」

 そこまで話すと暁は腰を落とした。飛んできた拳が腹部に直撃し裕樹は地べたに転がった。

「こいつ全く才能ないわ。別の方法考えたほうがいいで」

「別の方法たって」琴乃は腕を組んだ。

「例えば文明物に魔術を付与するとか」

「それがあったわ」

 夕暮れ時、裕樹と琴乃は町端のアクセサリーショップに寄っていた。琴乃がこれあれと指さした指輪を次々購入していく。どう見てもサイズ違いの指輪を買った琴乃は楽し気に買ったアクセサリーを裕樹に手渡した。

「これをなにに使えと?」

「魔術の触媒にするのよ。付与って聞いたことない? 君のカードがもたらす効力を指輪に付与してマナを使わず魔術を行使するわけ」

「付与って簡単にいうけど、どうやるんだよ」

「それは練習してもらうしかないわね」

 家に帰るなりカードケースからカードを引き抜いた。カードの効果を発動させるには裏面を押し当てる必要があり魔術発動で買った指輪はカードの色になぞられて色々な形で破壊されていった。赤いカードでは炭になり緑のカードで真っ二つに割れる。邪気退治でカードの種類はおおよそ検討がついていたが邪気以外だとこういった反応になるとは予想外だった。

赤は火。緑は高速移動、防御。青が氷結とメインの三枚にはおおよその効果があり、それらを多様して邪気退治に参戦していた。

カードの本来の使い方は出力先へ裏面を押し当てるだが、緑は例外だ。握りつぶすことで高速移動やら防御を発動することができる。だから指輪はことごとく壊れていくのだ。

指輪を並べカードを置いていくうちに、ちょっといいと声がかけられカードを手から離した。落ちたカードは指輪の下に滑り込む。

「味みてくれないかな」

 どうやら夕飯の支度らしく小皿を手渡され、口元で傾けた。

「もう少し塩分が欲しいかな」

「塩分とは味噌か出汁か。はっきりしてよ」

「ならうまい」とだけいいカードの元へ戻ると淡いグレー色に染まったカードがあった。

カードに触れてもマナは感じられず指輪からカードの効力を感じとり指にはめた。するとどうだ。指輪から炎があふれ、たちまち崩れ落ちたのだ。

「それが付与よ。自身のマナを消費せず文明物を触媒に魔術を発動する秘術。こうも簡単に身に着けるなんて」

「身に着けたって今ので何がわかったんだ」

「簡単な話よ。カードの上に乗せればいい。カードの効力を吸収してそのものに付与をする。マグとでも呼べばいいかしら」

「魔術道具。略してマグね」

 マグを大量に用意して、いつものように学校に向かうことになった。学校ではゆらゆらと邪気が歩く姿があり、一向に減っている気配はない。

 マグを取り出し指にはめ、念を送り込めばマグは発動した。炎のマグだったのか邪気はみるみる炎に包まれ消滅した。続いてのマグは風を生み出し3つに切りさく。

 邪気は基本的に肉体を持たないが故、攻撃してくることは基本ない。ただし例外が存在する。邪気の集合体ともいえる存在だ。机や椅子などのに憑依をして、象るそれは意識があるかのように身動きをとり魔術師を攻撃してくる特性をもっていた。

 本日はクモを象った邪気が姿を現した。ポケットからマグを取り出し振り下ろされる腕を防御壁でかわし咄嗟の判断で氷結魔術を行使した。邪気は軋みながらも腕を動かし応戦してきた。そんなこんなしていると横から暁が現れ拳を叩きこんだ。一発、ほんの一瞬の出来事に身動きが取れない裕樹の肩が叩かれた。

「大丈夫だった?」心配そうな顔つきの琴乃がそこにはいた。

 無理もない自分を殺した存在を相手とっていたのだから。

「マグの力が弱いな。指輪にどんなイメージを与えてるのやら」

 あきれ顔の暁。

 私は力になれないから……と弱気な琴乃。魔術は使えないのかと聞くといつもの強気な口ぶりはなく首を左右に振った。

「お前がゾンビに変えちまったせいで、こいつはが魔術が使えないってわけよ」

 横から暁が言う。

「彼女の生命維持も魔術の使用許諾も裕樹。あんた次第。あんたが付与魔法を使いこなせれば琴乃もマグを使用できるってわけだ」

「琴乃が魔術を使えない……」

 知らされていない事実に耳を疑うが琴乃の表情が事実だと物語っていた。

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