第4話 半蘇生
翌朝、通学中に何やらうわさがたっていた。壁が新品同様になっているとか、そんな受験とは関係なさそうな話。だがうわさが気になり登校前の寄り道がてら昨日カードを張り付けた現場へむかった。するとどうだ。レンガ造りの壁の劣化が戻っているではないか。
「君の仕業ね」
後ろから明美先生が現れ、その手にはタバコが握られていた。
「私がなんとかするから顔をよせなさい」
ぐいっと胸元に顔を押し当てられるとタバコの煙にむせこむ。先生は目を直視し「君はただの人間だ」と囁いた。だがどうだ。その一言が関与しているかのように壁は元の風化しかけたレンガへと早変わりしカードキャストと口にしてから腰にあった腰袋の姿もなくなったのだ。
「私は幻影魔導。解除と制限が基本スキルなわけ。カードキャスターが社会へ介入しちゃ駄目よ。ことと次第によっては解除ができないのだから」
「でもレンガは昨日まで巻き戻ったじゃないですか。それなら大いに利用したほうが」
「君は人間にも同じことをするの?」
疑問符を浮かべる裕樹に容赦なく「人体蘇生のこと」と言い切られ返す言葉がみつかれない。
「私の幻影は錯覚よ。新品にすり替わったものを元に戻すことはできない。ようは元々の形に見えるよう暗示を掛けたの」
「よくわからないですが魔術がとけたわけではないってことでいいのですね」
「その通り魔術には書き換え強度というものが存在するの。この辺りは琴乃に聞きなさい。カードキャストの使い方なら強度0の彼女が教えるに相応しいからな」
頷き強度0ってと小首をかしげた。
「魔術は隠すものとかルールがあったりしないのですか。こんな道の真ん中で堂々と魔術なんて使って」
「大丈夫なのか? と聞きたいのだろ? 学校含め街もぐるだから問題ない」
「ぐるって…… 隠す必要がないとでも」
「ルールならしっかりあるさ。先ほどのはあまりにイレギュラーだったので手を貸しただけだ。マナーならあるぞ~日中は魔術を行使しないこと。ここで暮らす住民はそれだけは守り夜活動をしているんだから」
「前、琴乃が話をしてたのですけど咎人っていったい?」
足を運びながらでも質問はつきることはない。
「いうなれば魔術発動のに使われるマナを生まれながらにして垂れ流す存在だ。彼らは意識的にマナが漏れ出ていることを理解しているのさ」
「だからってこの街に集まるのはおかしくないですか。昨日の影がいるってことはこの街にも咎人はいるんですよね」
「影? あ~邪気のことか」
そんな話もちらほらあり気がつくと校舎の前についていた。
授業は珍しく参加した。琴乃のことが頭にあったからだ。とわいえ授業など頭に入るわけもなく昨日の出来事が頭から離れず裕樹は頬づえをつく。
(咎人? カードキャスター? 話についていけんな)
ホームルームが始まっても憂鬱な気分は晴れず、前で講義をする明美先生の顔にさらに思考が回る。
(なら咎人は誰だ。邪気が徘徊するのであれば咎人もまた近くに……)
大空よ っと声に顔を上げる。教卓に両手をついた明美先生は眉間にはしわを寄せている。
「授業外でも私はつまらんかね」
「いえ……」
授業も一段落し、部活へ参加するものは、そうそうに退席していく。そんな中、裕樹へ近づく姿があった。
「壁のこと聞いたよ。いや~強度だけなら君には勝てないな」
「やけに自信ありげだな。体術でも使うのか?」
細身にしては肩幅が広く上腕が太いそんな印象の男だ。
「根岸 暁だ。よろしく」
こちらこそと握手を交わす。肉厚な大きな手に握手とは違った痛みを覚えた。
「今から部活をやるけど研修に参加するかい? 参加するたまじゃないか~」
「わかってるなら放っておいてくれ」
立ち上がり後づされなく帰ったつもりが帰宅途中、明美先生からの宿題を思い出し来た道を戻る。すでに夕焼け空で学校は真っ暗だった。だが各所で閃光が見え心臓につれられ駆け足で教室に向かう。きゃ~との悲鳴が上げった先には血だまりができ中心には女の子が横たわっていた。
いや予感に背筋が凍った。顔を確認しなくても琴乃だという予感。自然と腰へ手が伸びるが暁が遮った。
「もうあかん。死んでる」
力なく横を向く首も胸元に空いた穴も彼女の死を叫んでいた。その時ふと朝のことがフラッシュバックした。
白のカードは再生。
脳裏に沸いた、そのことに腰からカードを一枚、二枚と引いていくが白紙のカードはなかなか出てこない。
「記憶がなくなった理由」
ふと湧いた疑問と類似した光景に崩れ膝をついた。また助けられなかったと思った時、床に散らばるカードの中に黒色のカードが目に入った。
「やめろそれは魔術じゃない」暁が咄嗟に裕樹を拘束しようとした。
「魔術じゃないならなんだっていうんだ」怒声に暁は動きを止める。
直感的に彼女を助けられる気がした。
黒のカードを広い血みどろの彼女の体に押し当てた。すると肉体からこぼれた血液が逆再生されたように肉体へ帰っていた。
あたかも何事もなかったかのように……。
「裕樹あんた……なにをしたのよ……」
無事を確認した裕樹は安堵のあまり身動き取れない。
「こいつ黒のカードを使ったんだ」暁が答える。
「黒って蘇生と真逆の……」
それ以上琴乃は話さなかった。撤退する際も彼女は黙り裕樹の後ろをぴったりとついて回ってくる。
「あの~俺になにかようでも」
「うっさい。今日はあなたの家に泊めなさいよ」
強引に組まれる腕に惹かれ事前に調べていたかのように家の前までついた。鍵を開けるなる堂々とした様子で上がり込む琴乃にびっくりさせられる。ぎゅるっと空腹に耐えかねたお腹が鳴った。それを聞いてか琴乃は冷蔵庫を開け、「カレーなら作れるわね」と独り言を漏らした。
とんとんとリズミカルなステップにさっきまでの彼女と比較してしまう。血みどろだった、先ほどは息もなく四肢はぐったりしていたのに、なぜか彼女は動けている。重たい頭を枕に預け横になると宿題のことちらついた。
「できたわよ」
スパイシーな香りを立ててテーブルに置かれたのは即席とは思えない立派なカレーライスだった。
向き合って食事をしているとスプーンの音まで響くほど部屋は静寂だったことに気づかされる。
「いい嫁さんになりそうだな」軽口に琴乃はむっとした。
「もう私に普通の幸せはありえないわ。恋人も結婚も夢のまた夢の話よ」
「こんなにおいしいカレーが作れるに結婚願望がないとは何たる才女だ」
「才女?私はもう人間じゃないのだから幸せなんてあるわけないでしょ」
なんだったってとテーブルに手をつくが彼女は微動だにしない。
「裕樹が使った黒のカードは半蘇生のカード。本来なら魔法扱いされべきカードよ」
「半蘇生……すごいのかそれは」
「すごいとかの話じゃない。死人を蘇らせる魔術。いうなれば私は半人半獣のゾンビ状態なのよ」
「あのカードにそんな効果があったとか俺何も知らなくて……」
「私はもう裕樹…… 貴方から一キロ離れることを許されないの」
(それでさっきの行動か)
咀嚼をするごとに琴乃の顔を見入るが、とてもじゃないがゾンビとは思えない血色をしてしていた。視線が交わると申し訳なくなり顔を逸らすを繰り返す。
話が尽きてか「魔術強度……」と口から零れた。それ言葉に反応し琴乃が口を開く。
「魔術強度とは、他人の魔術に影響できるかよ。五段階あって、あなたみたいな自然現象に……劣化、風化などにも干渉できるものは五に分類されるわ」
「死に干渉する俺の魔術か」
食事も終わり就寝の時間が迫る。
「俺はソファーでいいよ」
ソフォーに仰向けになると琴乃に手招きされベットへ向かった。シングルベットと小さく背中が合わせに横になるが触れるたび、ひんやりとした体が彼女は人間でないのだと知らせていた。
ピピピィとなる目覚ましに体を起こす。横には寝息を立てる琴乃の姿があった。
「ゾンビも睡眠をとるんだな」とんとんと背中を叩くとおはようと返ってきた。
それからは一日は不気味なものだった。教師の配慮からか琴乃は同じクラス、隣の席に移動とアクションが起こり、非日常がやってきた予感を感じさせた。移動授業も体育もべったり離れない琴乃に違和感を覚えながらも日常を送ることを選んだ。
非日常を。
昼休みのチャイムに学食へ向かおうと席を立ったところ、琴乃の視線が刺さった。
「お弁当なら用意してあるから」
そう言われてついていった教室は人気がない場所で二人は窓際で向かい合って座った。
はい と手渡されたお弁当は色合いにも気を使われたものだった。無言のまま
食事をとっているとちらっと見えた琴乃の顔はどこかいつもと違うものへ変わっていた。両頬が虫歯で膨れているように見えて裕樹は視線をそらした。
「気付いたようね。私がゾンビになったことをわかりやすい形で教えてあげる」
そういった琴乃は裕樹の横に腰を落とし右腕をつかんだ。開かれる口元はまるで吸血鬼のように犬歯が伸び腕に痛みを覚えた。痛みは最初だけで注射でもされているかような感覚がまとわりつく。
かぷっと離された口元の傷はたちまち正常に戻り「どう? これでも人間に見える?」と笑って見せる琴乃が本当に人間ではないもののように思えて思わず声を上げた。
「大丈夫、大丈夫。落ち着いて。吸血をしたわけじゃないから」
「今の行動のどこに落ち着く要素があるんだよ。ゾンビというか吸血鬼じゃないか」
「これだけは信じて。血液を吸ったわけじゃないから」
「腕に噛みついてたじゃないか。それにその犬歯」
顔を見るといつもの琴乃の顔だった。
「あれはあなたの血中のマナを吸っていたのよ。誤解よ」
体感でしかないが倦怠感があるような気がした。意識を振り払うように食事を再開する。吸血じみた行動も変異する顔つきもすでに人間ではないことの表れなのだと実感させられるには十分すぎた。
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