第3話 カードキャスト

 夜、一人暮らしをしてる裕樹は自宅から外を見ていた。

「大原 美羽か」

 約束の0時まで、まだ時間もありベットに飛び込んだ。記憶…… なぜどこで落としてきてしまったのか。そんなことを考える。大原 美羽のように記憶には残っていることもあるが自分という人格が見当たらない。もともとはどんな人間だったのかさえ、おぼつかずそれでも大空 裕樹として生きていかなければいけないプレシャーから親元を離れたのは記憶に新しい。

 時計を見て、もうこんな時間かと呟いた。裕樹は身支度を整えいつもの通学を通っていく。ぽつりぽつり進む足につれ琴乃なら自分のなにかを知っているのではないかとさえ思えた。無意識に歩いたせいか校門前につくまで体感はそんなにかからなかった。

 しっかりとした約束をしていない分、校舎の周りをぐるっと一周する。光を放つ窓が1つだけあり勇気を出して校舎へ足を向けた。正門は鍵が掛かっておらず一人校舎へ入っていくと罪悪感につい振り返る。物音を立てないように階段をあがっていくと教室があらぬ姿へ変貌していた。扉は外れ黒板が、くの字曲がり大穴が開いている。

「なんの冗談だよ…… これじゃ特撮映画みたいじゃないか」

 さらに奥からは柊 琴乃も飛び出してきて頭の整理が追い付かない。

「痛たた。早く参戦しなさいよ」

 琴乃が飛び出てきた風穴からは人の影と思われる物体がゆらゆらと這い出てきた。

「これはなんだよ。人なのか」

「いい質問ね~ 咎人が……いえ 悪人に群がった悪霊よ」

 悪霊だ? ……と口にして影の足に視線を向ける。脚は存在せず、滑って移動しているようで空いた口がふさがらなかった。

「記憶を思い出したいならさぁ、自分で見つけなさい。あなたは何を見て記憶を消されたのかを」

「恐怖……」震える腕を握める。

「恐怖じゃない。あなたが見たのは大事な人の死よ」

 琴乃の手には小太刀らしきものが握られていた。背後から迫る影に肩から切り込んだ。

「あなたには彼女 大原 美羽の後を引き継ぐ義務があるのよ。口にしなさい」

 体がなにをするべきか理解するように「カードキャスト」と口にした。右腰にずっしりとした重みを感じる。腰に腰袋が生まれ中にはカードが詰まっていた。

「さぁカードを引きなさい。それはあなたの運命よ」

 ゆっくり一枚目のカードをめくり赤色を視認した。条件反射的に悪霊に飛ばしていた。張り付いたカードからは炎があふれ出し悪霊を包む。燃えカスも残らなず悪霊の姿は消えた。

「やればできるじゃん」

 琴乃の笑顔に感化かされ再びカードを引く。引いてカードを放り影をかき消していくが数に上限がないのか悪霊は湧き出てくる。

「そろそろ引き際です 」

 どこからともなく聞こえて来る声に「撤退」と琴乃の声が校舎内に響き渡った。校舎には何人潜入していたのだろうか足音だけでも相当数で裕樹も闇に溶け込むよう校舎を後にした。

 帰路。

 喉の渇きに自販機がおいてある公園によった。入口からでも目立つ場所にブランコがあり、そこには琴乃の姿があった。一本二本と缶コーヒーを購入してブランコに近づくが琴乃は疲れからか動く気配がない。そっと耳元に缶をあててようやく、ひゃっと声を上げた。

「どうした? らしくないじゃないか秀才さんよ。昼は才女、夜は霊媒師とはな」

「私はそんなんじゃない」

 強い眼差しをごまかすようにコーヒーを啜った。

「改めて、お疲れ様。今日のあれは俺の勧誘を兼ねた演舞だったんだろ」

「バカそんなんじゃないったら」

「でも俺は助けられた。俺の記憶がないわけ。あれを見たからだろ」

「違うわ。君は大原 美羽。私の母親違いの妹との死を見たからよ」

 手元から缶が滑り落ちる。転がる缶を尻目に死因を聞こうと口を開くも言葉が出なかった。

「いいのよ。死人に口なしっていうしね。あなたを探せたと思えが御の字よ」

「彼女の死と対等な何かはもってはいないぞ」

 そこから先は沈黙が続いた。裕樹も琴乃も口を開こうとせず先にブランコを降りた琴乃は挨拶すらせずに帰ってしまった。裕樹も後を追うように公園を後にするが苦みが強い事実に腰袋から一枚カードを引いた。出たカードの色は白。壁に押し当て自宅までの道のりについた。

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